たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

近づいたと思ったら離れていったSF小説

今週のお題「SFといえば」

 

 今まで読んだSF小説を挙げてみる。

 こんなところか。SFの定義次第ではもう少し読んでいるかもしれないが、とりあえずいかにもSFって感じの作品はそんなに読んでいない。小説を好んで読むわけでもないが、SFは特にあまり読む気が起きないジャンルの一つである。

 ぶっちゃけた話、欧米の作家のSF作品を読んで面白いと思ったことがない。SF小説家やSFファンが面白いと感じるポイントと自分が面白いと感じるポイントが決定的にずれているような気がする。

 対して、日本の作家のSF(『新世界より』と『ゲームの王国』)はかなり面白かった。が、この二作品は「SFって良いなあ!」と思うようなタイプの作品ではない。貴志祐介の作品であればSFであろうがなかろうが面白いし、『ゲームの王国』は歴史小説的な面白さが半分くらいを占めているからだ。

 そんな私に新しい風を吹き込んだのが『三体』である。『三体』は極めてSF的な作品だ(なんせ宇宙人と宇宙でバトルするのだから!)。にも関わらず、めちゃくちゃおもしろい。マイベスト小説と言っても過言ではない。

 『三体』の素晴らしいところは「光」を重要なモチーフとして使っているところだろう。我々は光は一瞬で目的地に辿り着くものとして認識しているが、物語の舞台が宇宙になってくると光速が大きな意味を持ってくる。何光年も離れた場所に行くには何十年もかかるし、認識するのにすらかなりのタイムラグが生じる。それが物語に良い緊張感をもたらしている。また、終盤ではいかに光速に近づくかというのが登場人物の課題になるが、光速に近づけば近づくほどウラシマ効果というやつが鎌首をもたげるのである。

 SFって素晴らしい! そんな気分にさせてくれる小説だった。

 

 さて、先日『バッタを倒しにアフリカへ』の感想を書いたが、その後、あなたの人生の物語を読み始めた。以前に感想を書いた『メッセージ』(でかいバカウケの映画)の原作が収められている、テッド・チャンの短編集だ。

 この本には8つの短編が収録されているのだが、今日、5つ目を読み終えた。それと同時に決断することにした。

「もうここで諦めよう」

 テッド・チャンは有名なSF作家だし、この作品もかなり評価が高いようなのだが、私には無理であった。どこに面白さを見い出せばいいのかまるで分からない。

 まず『バビロンの塔』だ。これはもしバベルの塔が本当にあったら……という話なのだが、主人公たちは仕事のためにバベルの塔を上るだけなので、本当にひたすらバベルの塔を登って天井を掘るだけの小説。めちゃくちゃ上るのに時間がかかるめちゃくちゃ高い塔での生活ってこんなんかなあ?を空想するという着想自体は魅力的かもしれないが、その割には生活の描写が薄い。終始「だからなに」という感想しか浮かばなかった。

 次は『理解』。怪我の治療で使った薬のお陰で主人公がすごい力を手に入れる話。これは途中まで面白かったのだが、ストーリーがすすむにつれ描写の重点が、脳細胞が発達すると何ができるようになるのかに置かれるようになり、そこから急速につまらなくなっていった。めちゃくちゃ頭がよくなった主人公がめちゃくちゃ頭の良さそうなことを考えているそのモノローグがひたすら書かれるだけで、何が書いてあるのかすらよく分からない。同じような境遇の人間とバトルして負けるところで話は終わるのだが、そのバトルというのもなんだかよくわからないし、敵の方が先を読めていた的な結末でこれなら『ジョジョの奇妙な冒険』でも読んだ方が数倍ハラハラできるだろう。

 3つ目は『ゼロで割る』。これはわりと良かった。女性数学者が数学の根幹を揺るがす証明をしてしまう話が、夫婦の愛にシンクロしていくのが洒落ている。まあ何が書いてあんのかよくわからんのは相変わらずである。

 4つ目は『あなたの人生の物語』、つまり『メッセージ』の原作。原作のバカウケは姿見くらい小さいというのが収穫だった。映画で予習済みだったから話も理解できて、面白いことは面白かったが、まあ別に映画で十分だったねという感じ。

 5つ目は『七十二文字』。名辞というもので物を動かせたりする世界で、人造人間を作ろうとする話。最終的にDNA的な発想に至る。主人公は職人の代わりになるゴーレムを作ろうとして職人組合の反発を受けるのだが、主人公がなぜそれをやりたいのかの掘り下げがないので感情移入できず、名辞についてもなんやらごちゃごちゃ書いているけれどそれで何か妄想できるほど詳しく書いているわけでもないので、読みながらずっと「だからなに」という言葉が頭に浮かんでいた。

 まあともかく面白くなかった。

 『バビロンの塔』と『あなたの人生の物語』はネビュラ賞を受賞している。ネビュラ賞が何かはよく知らないが、ネビュラというくらいだしなんかすごい賞な気がする。レビューを検索しても「面白い!」「傑作!」という声がわりとある。つまり、この本は世間的には面白い本なのだ。

 『三体』が奇蹟の産物だっただけで、やはりSFと私は相容れないのかもしれない。