名著『2016年の週刊文春』に次のようなことが書いてあった。
「編集者に一番必要なのは企画力だ」「プランとは、つまりはタイトルのことだ」
というわけで、今日はタイトルについて考えてみたい。優れたタイトルとはどのような要素で構成されているのか?
まずは優れたタイトルを収集せねばなるまい。今回は、東京経済オンラインの月間アクセスランキングをもとに考えてみよう。
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2024/2/12のランキングは次のようになっている。
- ヴィレヴァンが知らぬ間にマズイことになってた
- ドイツ人が「無料でも」お茶や水の提供を断るなぜ
- 松本人志氏追い込む文春報道に見えてきた”異変”
- 「ゴミ屋敷のくぼみに寝る」母親が救われた瞬間
- 「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社
- 6万人減も「2035年人口減少数」関東市区町村350
- 「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳
- 妻の転勤帯同で「主夫になった夫」が味わった窮地
- レゴランド炎上、冷静に見て何がマズかったのか
- 「ストロング系」毎日10缶飲んでた私に起きた異変
- 「財務力が強い上場企業ランキング」トップ300
- 冷凍ブロッコリー「水っぽくならない」超ラク解凍
- 首位は半減「2035年人口減少率」関東市区町村350
- 「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実
- 松本人志氏の性加害疑惑対応にみる「空気の変化」
- 宝くじ「高額当選続出」という売り場のカラクリ
- ポケモン似?バク売れ「パルワールド」色々ヤバい訳
- 上位2社は1兆円超「金持ち企業」ランキング300社
- 「結婚猛反対にあう道長」の才能見抜いたある女性
- 7兆円超えも「借金の多い企業」ランキング300社
- 「ハイブリッド車」やけに復活している2つの理由
- アサヒが撤退「ストロング系」はなぜ広がったのか
- チェコに登場、欧州初「中国製電車」数々の問題点
- 「植物状態の夫」が終末期病棟で迎えた意外な最期
- 春節「日本に行くのやめた」中国人達が”集まる国”
- ドーミーインが「夜鳴きそば」を提供し続ける理由
- 40代で「資産35億」築いた男の脅威の”ドケチ時代”
- 「不適切にもほどがある!」世代で生じる”温度差”
- 実写化「ゴールデンカムイ」驚嘆の感想で溢れる訳
- 小さな高級車「日産オーラ」を買っている人物像
謎を提示せよ
現実ベースで作成された記事もフィクションも、人の心を動かさねばならないという点では変わらない。フィクションで観客を引き付ける手法としてよく用いられるのが謎だ。東洋経済オンラインでも、謎の提示が多用されている。
謎と言っても色々あるが、ミステリー小説的分類をするなら「フーダニット」「ハウダニット」「ホワイダニット」の3種類があるが、ダントツで多いのがホワイダニット系タイトルだ。
シンプルに、タイトルの中で使われている言葉を使って抽出してみよう。
7/30≒23%が、ホワイダニット、すなわちある事実を導く理由が謎の主題になっている。
では、いったいどのような事実の理由を問うているのだろうか?
改めて、当てはまるタイトルを並べてみよう。
- ドイツ人が「無料でも」お茶や水の提供を断るなぜ(A)
- 「松本ずっと嫌いだった」投稿をそう軽視できぬ訳(B)
- ポケモン似?バク売れ「パルワールド」色々ヤバい訳(C)
- 「ハイブリッド車」やけに復活している2つの理由(B)
- アサヒが撤退「ストロング系」はなぜ広がったのか(C)
- ドーミーインが「夜鳴きそば」を提供し続ける理由(A)
- 実写化「ゴールデンカムイ」驚嘆の感想で溢れる訳(B)
こうして見てみると、三つのパターンがある。一つは論理的に導き出される答えと矛盾する事実。これをAパターンとする。もう一つは、社会的潮流に逆行する事実。これをBパターンとする。最後に、適切でない方法で社会的潮流を生み出してしまった事実。これをCパターンとする。
レッツトライ!
それではタイトルづくりを実践してみよう。まずはAパターンから。
- 1万年と2千年前から愛し続けてきた相手と結婚したのに一ヶ月で破局した訳
- 無料で納豆ご飯を食べられる食堂に一人も客が訪れなかった理由
- 最寄り駅から車で5時間……限界集落のレストランになぜ行列が絶えないのか
- カピバラのうんちはなぜ良い匂いがするのか
な、なんだかちょっとそれっぽい気がする……!
次はBパターン。
- 驚異の喫煙率100%……若者の間で喫煙が流行っている訳
- 何度干されてもあの芸能人が不倫をし続ける理由
- アメリカ議会はなぜウクライナを支援しないのか
次はCパターン。
- サッカーマニアによる解説動画も……かまいたち山内のプレーが絶賛された訳
- 下ネタまみれの「マサ内藤の架空チャンネル」が登録者数13万人を獲得した理由
- 衰退する猫ミーム「チピチピチャパチャパ」はなぜ広がったのか
それっぽい。それっぽいぞ!
この調子で分析を進めていこう。
フーダニット
続いて、フーダニット式のタイトルも目につく。以下が私がフーダニットだと考えるタイトル群である。*1
- 松本人志氏追い込む文春報道に見えてきた”異変”
- 妻の転勤帯同で「主夫になった夫」が味わった窮地
- レゴランド炎上、冷静に見て何がマズかったのか
- 「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実
- 松本人志氏の性加害疑惑対応にみる「空気の変化」
- 「ストロング系」毎日10缶飲んでた私に起きた異変
- チェコに登場、欧州初「中国製電車」数々の問題点
- 小さな高級車「日産オーラ」を買っている人物像
- 「植物状態の夫」が終末期病棟で迎えた意外な最期
- 「不適切にもほどがある!」世代で生じる”温度差”
- 春節「日本に行くのやめた」中国人達が”集まる国”
- 「結婚猛反対にあう道長」の才能見抜いたある女性
これはホワイダニットでは?と思われるものもあるが、そもそも「誰がやったか」と「なぜやったか」は不可分だ。したがって、何を問うているかではなく、問いの立て方によって両者を区別しようと思う。
端的に言えば、フーダニットは答えが名詞(あるいは単語)になる問い、ホワイダニットは答えが文になる問い、とここでは定義する。また、ミステリー小説の犯人は基本的に人間だが、ノンフィクションの記事は犯人ばかりを考えるものではないので、本来は”What done it?”(ワダニット)とでも言うべきであろう。
フーダニットは、ホワイダニットと異なって、フーダニットであることを示す言葉が必ずしも存在しない。「何が」というワードを入れているのは11タイトル中1である。
多くのタイトルの共通点は体言止めだ。そして、その体言をより詳細にしたものこそが問いの答えになる。逆に言えば、体言止めの体言は、答えをやや限定するもののなおいくつかの選択肢を残す程度の、曖昧なものとなる。おそらく、そのようなバランスを取れない場合に「何が」を使って問うことになるのだろう。
では、体言を修飾する部分に共通点はあるだろうか。若干の主観が交じるが、どれも罪と罰に関わるものだ。罪といっても、犯罪とは限らないし、なんなら倫理に反することとも限らない。多くの読者が抱えている身勝手な思いに反することであればよい。
たとえば、「妻の転勤帯同で「主夫になった夫」が味わった窮地」は、夫は主夫になるべきではない(と少なからぬ人間が思っている、あるいは思っているのではないか?と思っている)から罪に関わるものだ。念のため言っておくと、私は主夫になるべきではないと思っていないし、なんならなりたい。
「小さな高級車「日産オーラ」を買っている人物像」は、高級車はでかくて高いべきなのに小さくして安く済ませようとしているのがけちくさいから罪。そういうノリである。でも、きっと少なくない人がコンパクトで自分にも手が届きそうな高級車なら買ってみたいと思っている。罪は欲望とも密接に関わっている。
だいたいのタイトルは罪っぽいものを提示して、答えに罰っぽいものが来ることを予感させる。だが、その逆もある。
「「植物状態の夫」が終末期病棟で迎えた意外な最期」がそれだ。罰といってもなにか悪いことをした報いである必要はない。(運命による)理不尽な仕打ちを受けることは、神からの理不尽な罰に等しい。本来なら罪に対して罰があるべきだが、今回はたぶん罪がない。それならば、誤った罰に対して相応の報いがあるべきではないか? 意外な最期とは罪の逆、祝福であることが期待されるわけである。
レッツトライ!
さあ、フーダニット形式のタイトルづくりにチャレンジしてみよう。
- 緑色になった豚肉を炒めて食べた男の末路
- 10年間掃除しなかったズボラ男の家に現れた生物
- コンビニで傘を盗まれた女子高生に待っていた贈り物
まあ、悪くはないだろう。
ハウダニットはそんなに多くない。ハウツー系はこれに当たるはずだから意外だ。
サンプルが少ないので法則は読み取れない。というか「宝くじ」に関しては作りがホワイダニットと同じなので、純粋なハウダニットのサンプルは一つしかない。
直球でハウツーものの「冷凍ブロッコリー」の記事だが、ブロッコリーは最近指定野菜に追加されることが決まった話題の野菜であることが上位に入った理由だろう。トレンドを取り込むことがポイントである可能性はある。
レッツトライ!
法則がわからないのでやってみてもしょうがない気がするが、一応自分でも作ってみよう。
- 「アメリカ大統領選挙」世界の命運を決める戦いを勝ち抜く方法
- 「フーシ派攻撃」超危険紅海を安全通行
- 「セクシー田中さん」原作者が映像業界から作品を守るワザ
こんな感じか? わからない。
ランキング
日本人はランキングが大好きだ。これは昔から変わらない。相撲には番付が採用されていたし、その延長線上には温泉の番付なんかもあった。たしか。
公式な制度としては五山十刹なんかがあるし、貴族の職位なんかもランキングといってもいいかもしれない。だからであろうか、人気記事のランキングのテーマは社会的地位に関わるものばかりだ。つまり、人間が所属するものがお題になりがちである。
- 「入社が難しい有名企業ランキング」トップ200社
- 6万人減も「2035年人口減少数」関東市区町村350
- 「財務力が強い上場企業ランキング」トップ300
- 首位は半減「2035年人口減少率」関東市区町村350
- 上位2社は1兆円超「金持ち企業」ランキング300社
- 7兆円超えも「借金の多い企業」ランキング300社
それからランキングの数がかなり多いところも特徴だ。これはそもそもこのランキングを作る目的が「入社する会社を決めるため」「引越し先を決めるため」であることと、ランキングに関係する人口を増やすためではないかと思われる。
(ただ、東洋経済オンラインというサイトに掲載されているランキング自体が偏っている可能性があるため、以上に書いたことは普遍的な法則ではないかもしれない。)
レッツトライ!
一応作ってみよう。東洋経済の真似をして企業と自治体で攻めても面白くないので別の所属で考えてみる。
- 「就職に有利なサークルランキング」トップ200
- 「長寿に寄与するコミュニティランキング」トップ300
- 「生涯年収を高める習い事ランキング」トップ350
こんな感じ……か?
その他
余ったのが以下の三つ。
- ヴィレヴァンが知らぬ間にマズイことになってた
- 「ゴミ屋敷のくぼみに寝る」母親が救われた瞬間
- 40代で「資産35億」築いた男の脅威の”ドケチ時代”
まあ読む者次第で謎があるにはあるが、少なくともタイトルで明示はされていない。
これらのタイトルには物語性がある。(フーダニットに分類した「道長」の記事もここに分類した方がよい気がする。)
ポイントは二つあって、登場人物(法人含む。)がいること、変化があることだ。
「ヴィレヴァンが知らぬ間にマズイことになってた」の登場人物はもちろんヴィレッジヴァンガードくんであり、「久々に会ったヴィレヴァンくんはかつての輝きは見る影もない姿になっていた……」といった感じの趣がある。もちろんこれが成立するのは、みんなの心の中にヴィレヴァンくんがいるからだ。
そういう共通認識のない人物が登場する場合、人物紹介がある。「「ゴミ屋敷のくぼみに寝る」母親」、「40代で「資産35億」築いた男」みたいな。おそらく、この人物紹介は物語の先行き(変化後)を示唆するものでなければならない。
そして、人物紹介の後に物語の先行きのおおまかな方向性が示される。
たとえば、ゴミ屋敷マザーという登場人物には、ゴミ屋敷マザーになるに至るまでの過去とゴミ屋敷から脱する未来が内包されている。これのいずれかを示せば、そこに物語性が生まれる。
資産35億男もやはり、資産35億を築くまでの過去と資産35億を気付いた後に没落する未来が内包されている。今回の記事は前者についての物語であることが示されている。
レッツトライ!
さあ、自分でも作ってみよう。
- 久々にプリクラを撮ったら祖母の霊が映り込んでいた
- 高所恐怖症の男がパイロットになった瞬間
- 日産スタジアムを埋めた歌手の路上シンガー時代
いやけっこういいんじゃないかこれ。
まとめ
ということで、今回の学びをまとめてみよう。
- 非論理的に見えることがあったらなぜ?を問おう。
- トレンドに逆らう事象があったらなぜ?を問おう。
- 良くないと感じるものがトレンドになったらなぜ?を問おう。
- 罪と罰に関する話題は体言止めでクイズ形式にしよう。
- ハウツーはトレンドを取り込むべき……か?
- ランキングは社会的地位と所属に関わるもので、数はなるべく多めに。
- 物語性のある登場人物を立てよう
ただし、これはあくまで東洋経済オンラインの直近一ヶ月のランキングを見た結果にすぎない。時期を変えればまた全然違う結論が見出されるかもしれないし、サイトを変えてもやはり異なる結果が出るかもしれない。
たとえば、文春オンラインのランキングを見ると、また違う雰囲気がある。文春の基本戦略は「有名人+性or金or罪」で表せそうだ。この式から導き出されるベストが有名人のスキャンダルだが、
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みたいな有名人単品もあれば、
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のように性or金or罪単品もある。
ちなみに、今回の記事はどれにも当てはめようがないなーと思ったのでAIに付けてもらった。
無理やり当てはめるなら
「タイトルを考えずにブログを書き出した男の末路」
といった感じか。なんかそれはタイトル詐欺っぽい気がする。
なるほど。プランとは、つまりはタイトルのことなのか。