乃木坂46の42ndシングル『是非に及ばず』がすごい。好き。
メンバーについて
今回のセンターを務めるのは一ノ瀬美空ちゃん。通称みーきゅん。見る人をキュンキュンさせるアイドルです。
戯言はともかく、この抜擢はサプライズといえばサプライズだし、そうでもないといえばそうでもない。
中西、井上に続いて池田がセンターに選ばれた時点で、「5期生」で勝負していく運営の方針はうっすら見えていた。次は一ノ瀬か川崎か。こうなるのは時間の問題だった。
とはいえ、遠藤や賀喜あたりを挟まずにそのまま一ノ瀬に真夏の全国ツアー座長を務めさせたのは驚きである。こうなると次も川崎か五百城か、はたまた小川あたりかといった雰囲気も出てくる。
それから今回は6期生からも選抜されて、瀬戸口、矢田、森平、大越というメンツ。これは序列も含めて特に驚きはなし。瀬戸口をフロントに据えたのは運営からの期待を感じるし、たぶん来年中には単独センターがあると予想。
『是非に及ばず』は負け犬たちの歌である。
私は『ネーブルオレンジ』が大好きなのだが、なんでかといえばやはり中西アルノちゃんと井上和ちゃんの歌声が素晴らしいから。センターのソロで魅せるというのは、思い切って言ってしまえば、それまでの乃木坂にはなかったものであった。
ところが、『是非に及ばず』はその真逆である。メンバーの伸びやかな歌声を聴かせる類の曲ではない。良くも悪くも誰が歌おうが似たような感じになる曲ではなかろうか。
この楽曲の主役はギターではないかと思う。イントロもギターから始まるし、なんといっても2:28から始まるギターソロこそこの曲の最大の見せ場ではないだろうか。
これは大胆である。ロックバンドじゃないんだから。メンバーがギター弾いてるわけじゃないんだから。アイドルソングなのにアイドルが脇役になっている。
だがそれがいい。
この楽曲は「負け犬たちの歌」だ。
タイトルにもなっている「是非に及ばず」は織田信長が本能寺の変に際して述べた言葉とされている。織田信長は部下に裏切られて志半ばで倒れた負け犬だ。
私たち人類も今、負け犬になろうとしている。AIの進歩が目覚ましく、シンギュラリティは近いと思わずにはいられない。ていうかなんならすでにチャッピーの方が自分より優秀だし……(私はGemini派だけど)。
しかし、そんなことは人類にとって初めてのことではない。産業革命や新自由主義で職を失った人たちはたくさんいる。人類は自分が生み出したものに駆逐され続けてきた。
MVに目を向けよう。
彼女たちがたむろしているのは落書きや貼り紙で埋め尽くされた電話ボックスやバスの中。これらはきっと終盤に出てくる最終処分場から引っ張ってきたものに違いない。つまり彼女たちは社会から不要とされ排除されたゴミを使って自分たちの居場所を作り上げている。それは彼女たち自身も社会の爪弾き者であることを暗示しているのだ。
(故にこの曲は夏曲でなければならない。社会の底辺の苛立ちがピークに達する季節は夏と相場が決まっているから。)
乃木坂の曲(に限らずJ-POP全般に言えるが)では、自分らしく生きることを訴えるものがしばしばある。だが、自分らしく生きるとはどういうことだろうか。ぼんやり生きていると自分らしくは生きられないということである。自分らしく生きることが歌うに値するのはそれが難しいからだ。なぜ自分らしく生きられないのか。それは社会からの圧力が存在するからである。社会は一定の尺度で測れないもの、劣ったものは切り捨てようとする。それは社会の定めた尺度に沿って生きることを人間に強いる圧力になる。その圧力の被害者が積み上げられたゴミの山である。そういう社会の圧力を間接的にせよはっきりと映像化した楽曲は乃木坂の中ではたぶん珍しい。
そんな負け犬たちの歌には、叩きつけるように吐き捨てるように、短い言葉で訴えるのが相応しい。『ネーブルオレンジ』とは真逆たる所以である。
負け犬はけだかわいい。
私は負け犬が大好きだ。
けちょんけちょんにされて惨めな思いをしている人間がこの世で一番愛おしい。それはたぶん私が自分自身を惨めな人間だと思っている裏返しでもある。「こいつは俺だ! 俺はこのとおりだったんだ!」と思える。小さくて可愛い奴らである。
絶望の淵にいる時、その人の本当の人間性が現れる。生活に不自由なく幸せに暮らしている人間が他人に優しいのは当たり前だ。苦しい時でも強者に迎合せず、自分の生き方をまっすぐ貫ける人こそが一番気高くてかっこいいと思う。
私の好きな映画、アニメを思い返してみると負け犬がもがいている話ばかりだ。『アパートの鍵貸します』『セッション』『ラ・ラ・ランド』『もののけ姫』『少女革命ウテナ』『コードギアス 反逆のルルーシュ』などなど……。こうしてみると私は一貫して負け犬を愛していたんだなと今になって気付かされる。
そんな負け犬たちを乃木坂ちゃんたちが演じるとなると、これはもう最高である。気高さと可愛さが爆発している。略してけだかわ。けだかわいさこそ『是非に及ばず』の肝である。
みーきゅんきゅんきゅんきゅん
この曲の持ち味を最大限に引き出せるのは負け犬の気高さとかわいさを同居させることができる人間である。
となれば、この曲のセンターを任せられるのは一ノ瀬を置いて他にはいない。
一ノ瀬は仲間のプロデュースができるアイドルだ。井上和の必殺技「にゃんにゃんにゃぎ」は一ノ瀬の発案だし、小川を最初に赤ちゃん扱いして愛でたのも一ノ瀬だ。周囲のメンバーをよく観察し、その人の良い部分を引き出そうとする尊い精神が彼女にはある。次の動画は彼女のそういう性格がよく表れていると思う。
彼女には技術もある。愛らしさだけではなく、燃えるような熱さと氷のようなクールさを表現できる技術が。昨年の神宮で披露した『Against』が心に残っているファンも多いのではないだろうか。
『是非に及ばず』の持ち味を最大限に引き出せるのが一ノ瀬であるが、逆もまた然り。一ノ瀬の持ち味を最大限に引き出せるのは、『是非に及ばず』のような可愛いとかっこいいが絶妙にブレンドされた楽曲に違いない。
私は『是非に及ばず』が乃木坂のライブの新しい定番曲となることを確信しております。

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