『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読みました。
黄色い色に少年の絵の表紙がとても印象的ですよね。
アイルランド人と結婚してイギリス在住のブレイディみかこさんによる息子さん観察記です。
要するにエッセイなのですが、イギリスを、イギリスの中から、しかも12歳くらいの少年(の母親)の視点で描くというところが特徴です。今のイギリスの状況や、イギリスに住むってのがどんな感じなのか分かります。
そんなにイメージがありませんでしたが、イギリスはわりと移民社会のようです。
こちらのランキングでは、オランダやフランスを制しての世界第47位の移民比率とのことです。その比率は13.79%。日本は第133位の2.19%です。
さらにイギリスはかなり階層が明確に別れている社会であるようです。というのも、小学校の頃から公立でも学校を選べるのだそうです。そのうえ、親御さんたちがその学校の近くに引っ越しをするため、通う学校と住んでいる地域の両面で格差がはっきりしているというのですね。
ブレイディさんの息子氏はどういうところに通っているかというと、地元の勢いのある公立校(=下の方のランクから上がりつつある)。小学校まではカトリックの公立(=私立ほどではないが良いとこ)に通っていたのですが、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
ちょっと意外かもしれませんが、良いところの方が人種がバラエティーに富んでいて、反対にランクの低い学校は白人ばっかりなのだとか。日本人の感覚ではありえないことですね。当然、差別意識は下層の方でこそ激しいようです。
所得の格差は勉強だけでなくスポーツにまで影響を与えるようで、地域の水泳大会で表彰台に登るのは私立校の生徒ばかりだそうです。これも日本人の感覚ではちょっと考えづらいところです。私は私立の中高出身ですが、運動部はおしなべて弱小でした。全国的にも中学まではむしろ公立の方が強いくらいでは。
しかし、これは日本には格差がないという話ではなく、日本もイギリスも所得格差の面ではほぼ互角(イギリスの方が少しだけ格差が大きいっぽい)。イギリスは見えやすいだけかもしれません。
まあそんな感じで移民社会と格差社会で何が起きているかというのをリアルに感じさせてくれる本でした。
日本もこれから移民を増やそうという方向性になっていくと思いますし、そこには必ず面倒なことが待ち受けています。そういう未来を受け入れる心の準備をするためには良い本だと思いました。分量がそんなにないのでわりとすぐ読み終えられるのもよいところ。
一個だけツッコむとするなら、この本の後半で「クラスルームの前後格差」という章が気になりました。カトリック校を見学した時に、教室の前の席では熱心に授業を受けているけど後ろの席では雑誌を読んだり携帯をいじったりしていて、それがブレイディさんの目には教育放棄をされているように見えたそうです。
でも私から言わせれば、そんな大層な問題か?という話です。教室の前後で授業に対する集中度が変わるのは当たり前の話で、そんなのは全国トップクラスの進学校でも当然にあるものです。教室の席というのは席替えによって変わるため、その状態が固定化されることはありません(イギリスがどんな制度か知りませんが)。それに、遊んでいる生徒が良い大学に進めないかと言うとそうとも限らない。
要するに、差別や偏見について我々以上に意識しているはずの者とて、チラ見した教室の風景だけで「カトリック校はこうだ!」と思ってしまうような偏見を持っているわけです。しかも、おそらくそのことにいくらか無自覚だと思われます。
そのくらい「自分と違う理念や信念を持つ人や、別にかわいそうだとは思えない立場の人々が何を考えているのだろうと想像する」ことは難しいということでしょう。
そういうわけで、この本だけで何かを分かった気にはならない方がいいです。でも、考えるきっかけとしては良い本だと思います。