乃木坂46がちょっと衝撃的な動画を公開していたから語りたい。
これは新曲のプロモーション用に撮影されたショート動画。出演者は乃木坂46の若きエース井上和。
まずは見ていただきたい。
かわいっ……!
かわいすぎるっ……!!!
どうしてこんなに可愛いのか。
親御さんが可愛く産んだからではない。
ここに井上和の全技術が詰まっているからである。
今日はアイドルの表情管理について解き明かしていきたい。
まずは表情の種類について考える
表情管理について考える前に、表情について考えなければならない。どのような要素が表情を決定するのか。そこから見えてくるものがあるはずだ。
目線
表情においてまず大事なのは目線。目線は大きく分けて5つに分類できる。
- 正視
- 上目遣い
- 見下ろし
- 流し目
- 瞑目
これらは対象物をどう見るか(見ないか)による分類だが、さらには、この目線をどの角度から見るかによって印象は変わってくる。例えば、女王様が自分を見下しているのを見るのと、地面を見つめているのを見るのでは、全く異なる表情になる。
単純化して、目線の対象物がカメラなのか、カメラ以外なのかの2パターンだけだとしても5×2−1=9パターンの目線が存在する。(瞑目には対象物がないから−1している。)
ちなみに、目線と言っても、目だけがぎょろぎょろ動くことは稀で、顔の角度の変化が目線を作り出していることが多い。上目遣いなのか見下ろしなのかは、実際には目の動きというよりは顎の上下によって決定される(顎の上下によって自動的に目が動く)。ただし、瞑目(目を瞑ること)はまぶたの動きだけを考えればよい。
口元
次に大事なのが、口元だ。口元は喜怒哀楽を決定する。
なお、「目が笑っていない」と言われたりすることから目元も表情の構成要素だと思われるが、ここでは単純化のために無視する。
単純化して、口角の位置によって3パターンの表情が作られると考えよう。
- 上 → 笑顔
- フラット → 真顔
- 下 → 不満顔
さらに、それぞれ歯を見せるか否かでも印象は変わってくる。
目線と口元の組み合わせを考えると、少なくとも9×3=27種類の表情が存在する。かなり単純化したにもかかわらず、これほどの数の表情が存在するのである。
井上和の表情管理について
笑顔に磨きをかけるアイドルたち
人間の表情はこれほど多様であるにもかかわらず、アイドルが使う表情は必ずしも多くはない。
口角を上げた正視、つまり笑顔で真っ直ぐこちらを見るだけに終始してしまうアイドルが多数存在するのだ。無論、一般人であれば真顔で正視しかできないのが普通であるわけで、作られた感じのない笑顔を作れるだけでもアイドルの技術としては◎だと言えよう。
肯定的に考えれば、通常のアイドルは表情のパターン数ではなくて、アイドルらしい笑顔という限られた武器を磨き上げることで勝負をしているとも言えそうだ。
真顔も使う井上和
比較すると、井上和は表情のパターン数が非常に多い。
今回の映像でいえば、9パターンの目線のうち、6パターンを使用している。
意地悪Baby わがままMy Cat:正視→上目遣い
何が嫌なわけじゃなくて:流し目→伏目*1→上目遣い
膝の上で寝てたのに:瞑目→見下ろし
という具合である。
これは目線だけの話。口元に注目すれば、動画の前半では真顔、後半では笑顔を使用している。
総合すると、9くらいの表情がこの25秒の動画の中で使用されている。平均すると3秒経たずに表情を切り替えていることになる。
取り揃えている表情の点数が豊富。見ていて飽きない。色々な表情の和ちゃんが見られて嬉しい。井上和は表情のデパート。いや、表情のアマゾン。
もはやアニメ監督だよ井上和
しかも、井上はただ豊富な品揃えを用意しているだけではない。
どの表情をどの順番で見せるのがベストかを計算して、ストーリーの流れを構成しているのだ。まるでアニメ監督のような仕事をしている。
前半は真顔、後半は笑顔
上の動画で井上がいつからはっきりした笑顔を見せるかに注目していただきたい。
最初は真顔気味で踊っていて、「僕を試しているんだろう」と流れた時に初めて笑顔になるのだ。歯を見せず、いたずらっぽく笑う。にゃぎちゃんが「僕」を弄んでいたことが明らかになる瞬間だ。
この瞬間を輝かせるために、そこまではあえて真顔で通す。抱こうとしても抱かせてくれない、何を考えているのかよく分からない猫を演じている。
笑顔に切り替わる瞬間は動画の半分より少し前ぐらいの時点なので、動画の前半はクールな和ちゃん、後半は笑顔な和ちゃんを楽しめるという配分になっている。
表情の中割り
笑顔を見せた後、「膝の上で寝てたのに」でスヤスヤ眠る振り付け。
この時、井上は笑顔と寝顔の間に一瞬だけ真顔を挟んでいる。笑顔→寝顔とすると唐突に感じられて決められた振りを踊っているだけ感が出てしまうが、笑顔→真顔→寝顔とすると違和感なく綺麗に流れる。アニメーションの中割りに似ている。
間に真顔を挟んだことは、さらに次の展開の起点にもなっている。井上は寝顔の中でも表情を変えているのだ。「たのに〜♪」の間に
- 寝顔×真顔
- 寝顔×笑顔
- 見下ろし×笑顔
と3パターンもの表情が詰め込まれている。情報量が多い。
寝顔の次が見下ろし笑顔という配列も絶妙で、実は寝たふりだったんじゃないか?と想像させる余地を生み出している。
Girls be 井上和
というわけで、普通のアイドルは笑顔一本で勝負してしまうところ、井上和ちゃんは表情の手数で勝負している。必要なのは、笑わない勇気。視聴者を飽きさせないという意志。瞬間瞬間に必要な表情を判断する知性。これが表情管理。
同じユニットのメンバーたちは井上のようには演じていないから、振付師の指示ではなさそうだ。だとすると、上で書いた演技プランは井上自身が考えたということであろうか。仮にそうなら、ちょっと突き抜けた創造性の持ち主だ。
さらに恐ろしいのは、25秒の短い動画にこれだけの情報量を詰め込んでいるというのに全くぎこちなさがないことである。当たり前のように踊っている。言われた振り付けを踊ったら自然とこうなっちゃいましたなら天才すぎるし、修練の賜物であるならば井上和の努力は想像を絶する。『スター誕生』などでパフォーマンスについて語るときの井上の姿を思い出すと、おそらく後者だろう。
いったいこんな技術を誰から教わったのか? 乃木坂にこれほど表情管理が巧みな先輩がいたか、私にはちょっと思い出せない。私が気付いていなかっただけで、齋藤飛鳥や山下美月もこれほどの技術を使いこなしていたのだろうか。
一番大切なことは、これは技術だということだ。井上和ちゃんの御尊顔は模倣できないが、技術は模倣できる。
もし乃木坂46のメンバーたちが井上和の技術を盗んだら、これはとんでもないグループになる。そんなことを想像するわけである。
*1:見下ろし×対象物がカメラ以外