保安官のおもちゃが宇宙飛行士のおもちゃにリーダーの座を奪われる!
『トイ・ストーリー』は1995年の映画。監督はジョン・ラセター。脚本はジョス・ウィードン、アンドリュー・スタントン、ジョエル・コーエン、アレック・ソコロウ。世界初のフルCGアニメーション作品。アカデミー特別業績賞を受賞。
西部劇の保安官を模した人形であるウッディは、持ち主のアンディに寵愛され、家のおもちゃたちのリーダー的立場に立っている。
ある日、アンディに新しいおもちゃがプレゼントされる。宇宙飛行士のヒーローであるバズ・ライトイヤーだ。アンディはたちまちバズの虜になり、ウッディの地位は下がっていく。西部劇が衰退し、SF映画が隆盛する、映画の歴史になぞらえることもできる。
というわけで、既得権益を侵害されつつあるウッディとバズの政治闘争が『トイ・ストーリー』の軸になっていく。この場合に物語の方向性は次の三つに絞られる。
- 既得権益側は哀れにも滅び去っていく。(『欲望という名の電車』『風と共に去りぬ』など)
- 既得権益側が戦いに勝利をする。(『アフリカの女王』『ブレードランナー』など)
- 両者が共に栄えていく。(『戦場にかける橋』など)
『トイ・ストーリー』のテーマは西部劇ではなくおもちゃであって、かつ、子供向けアニメということもあり三つ目のパターンを採用している。
ウッディとバズは、斉藤大佐とニコルソン大佐のように対立しながらも、共通の困難に取り組むうちに仲を深めていく。
『トイ・ストーリー』で最も優れているのはラストシーンだろう。シドの家から逃れたウッディとバズが、引っ越しの車を追う。次のような流れで展開していく。
- 二人は追いつくが、ウッディはかろうじて紐に掴まっているだけ。振り落とされてしまうかもしれない。
- シドの犬がウッディを襲う。助けたバズが取り残されてしまう。
- ラジコンカーを使い、バズを支援する。
- 誤解されているウッディは車から落とされてしまう。
- 交差点で轢かれそうになるバズ。犬は脱落する。
- 誤解が解けて、仲間たちがウッディとバズを助けようとする。
- ラジコンの電池が切れる。
- ロケットを使おうと思い付く。
- マッチの火が消える。
- バズのヘルメットを使って火をつける。
- バズが飛ぶ。
10分にも満たない中にこれだけの展開が詰め込まれている。
しかも、ただ起伏が細かくあるだけじゃなくて、起伏の激しさもすごい。7と9の絶望感たるや。特に9がすごい。普通なら、すでに登場人物を絶望の淵に立たせているし、マッチとロケットという伏線を回収できるわけだから、「マッチで火を付けてハッピーエンド」としたって十分なのだ。しかし、ジョン・ラセターはその先を行く。ここにすごみがある。
さらにダメ押しの一手として、ラストを「バズが飛んだ」で締める。ウッディはバズを称え、バズは誇りを取り戻す。二人の友情を象徴するアクションをクライマックスに持ってくる。
完璧すぎる。