たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その92 E.T.

 地球に取り残された宇宙人を家族のもとに返します。

 

 『E.T.』は1982年の映画。監督はスティーブン・スピルバーグ、脚本はメリッサ・マシスン。主演はヘンリー・トーマス。アカデミー賞は作曲賞・視覚効果賞・音響賞・音響編集賞を受賞。

 

 大筋で言えば、少年とマスコットキャラクターが一時の思い出を共有し別れるという、わりとよくある気がするストーリーだ。今回見ていて気づいたのは、実は作りが恋愛映画と同じだということだ。どちらも主人公にとっての宝物が生物であるという点が重要。関係性が性欲に基づけば恋愛映画になるし、そうでなければ『E.T.』になる。

 物語は男と女……ではなく、少年と宇宙人の出会いから始まる。二人は親に隠れて逢瀬を重ねて関係を深めていく。二人の関係を邪魔する恋のライバル(NASA)がその影をちらつかせる。二人はナイトデートに繰り出し、ロマンチックな体験(自転車で空中浮遊)をする。関係がピークに達した時、ピンチ(E.T.の蒸発と死)が訪れる……。

 そう、『E.T.』は『世界の中心で、愛をさけぶ』だったのだ。いや、『世界の中心で、愛をさけぶ』は『E.T.』だったのだ。

 難病系恋愛小説では、薄幸の美少女が病死したり通り魔に遭ったりして、物語は幕を閉じる。しかし、地球人の常識を超える存在であるE.T.はなんか知らんけど蘇る。エリオットはE.T.を宇宙船のもとに送り届け、E.T.に別れを告げる。愛し合っている二人だが、住む世界が違うのだ。でも、E.T.はいつまでもエリオットの心の中に居続ける。

 そう、『E.T.』は『カサブランカ』でもあったのだ。少年エリオットはE.T.との失恋を通して、父との別れを受容していく。

 

 さて、『セカチュー』では長澤まさみ綾瀬はるか、『君の膵臓をたべたい』では浜辺美波、『カサブランカ』ではイングリッド・バーグマンが主演を務めたように、ヒロインは美女であることが不可欠の条件となっている。

 非人間の場合でも、プーさん、テッド、パディントン……マスコットキャラクターはだいたいもふもふで可愛らしい見た目をしている(てか全部熊だな)。

 ところがである。E.T.は醜い。極めて醜い。しわしわ、ハゲ、首が伸び縮みする、ヨボヨボな声……甲羅を剥いだ亀みたいで気持ち悪い。

 これは常識では考えられないことのように思える。観客がヒロインに恋できない恋愛映画など失敗といっても過言ではない。ハリウッド映画でE.T.をヒロインに据えるということは、「そこらへんのハゲ親父を全世界的なモテ男にする」というミッションを己に課すこととほぼ同義である。わざわざそんな困難に挑戦する必要はないはずだ。それなのにスピルバーグはあえてE.T.を醜くした。スピルバーグには、この挑戦によって普通では得られないものが得られることが見えていたのだ。

 結果、E.T.は可愛い

 何が要因でそう感じるのか。よちよち歩きなのか、カタコトの言葉なのか、優しさなのか……いずれにせよ、スピルバーグは見事に困難を乗り越えた。

 『E.T.』が不朽の名作たる所以である。

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