たぬきのためふんば

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アメリカ映画ベスト100制覇への道:その72 M★A★S★H マッシュ

 『M★A★S★H マッシュ』は1970年の映画。監督はロバート・アルトマン、脚本はリング・ラードナー・ジュニア。主演はドナルド・サザーランドアカデミー賞は脚色賞を受賞。

 MASHとは、陸軍移動外科病院 (Mobile Army Surgical Hospital) のことだそうです。

 

 戦争映画なのに、戦場は一切描かれないし、コメディーという異色の作品。でも、病院の描写は必ずしもふざけていないし、反戦のメッセージ性は感じることができる。

 かなりの部分を役者のアドリブに任せて作られているようで、異常だと感じた主演俳優たちが監督を下ろそうと画策したり、ほとんど脚本の原形を留めていないことに脚本家がブチギレたりしたそうな。

 

 この映画は主に以下のシークエンスで構成されている。

  1. 気に入らない先輩医師の情事を盗聴した後、罠にはめてクビを飛ばす。
  2. 自身をインポテンツだと思い込み自殺を図ろうとしている巨根の同僚を寝てる間に昇天させる。
  3. 女上司がシャワーを浴びている時にテントを吹っ飛ばして衆人環視に晒す。
  4. 小倉の米軍病院のトップを薬で眠らせて舞妓と寝ている写真を撮る。
  5. 告発されたけど別に罰せられることもなく、軍の偉い人のチームとアメフト勝負をして勝つ。

 いやはや、コメディーにしても酷い話である。これが笑えるのかどうか私にはよく分からない。戦争の愚かさを笑うにしても、軍に忠誠を誓っている女性将校を侮辱するのは対象もやり方も間違っているように思える。*1

 ただ、酷い話であることが重要なのかもしれない。この映画は戦争の狂気を描いている作品だから。ここで日和ってマイルドなコントにしていたら、内容によるかもしれないがたぶん名作扱いはされていないのだろう。

 そもそも、まだベトナム戦争が続いている中で、反戦的な映画を作ること自体がリスキーなことだった。これを公開まで持っていくために、会社の上層部の注目を集めないよう、監督はとにかく安く、目立たないように制作を進めたそうな。完成が近づいていくとさすがに隠し続けることはできなくなったようで、「グロテスクな手術のシーンはカットしろ」だの「fuckと言っている部分はカットしろ」だのと口出しされたが、そうした要求は全てはねのけたんだとか。

 映画作りにも狂気が必要なのだ。……ということにすればとりあえずオチがついた感が出るので、そういうことにしておこう。

 

movie-tsutaya.tsite.jp

*1:ただ、これは私が戦争を起こすのはお上だと考えているからかもしれない。民主主義的に考えれば、我々一人一人に戦争の責任があるわけだから、戦争に肯定的な人はやはり笑いの対象として当然なのか。だが、軍に愛着を持っていることと戦争を肯定することはまた別なのでは……みたいなことを考えていくとわけがわからなくなってくる。