たぬきのためふんば

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アメリカ映画ベスト100制覇への道:その68 ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー

 大統領を揶揄する劇を絶賛公演中の役者がホワイトハウスに呼ばれた。

 

 『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』は1942年の映画。監督はマイケル・カーティス、脚本はロバート・バックナーとエドモンド・ジョセフ(エプスタイン兄弟がリライトした)。主演のジェームズ・キャグニーアカデミー賞に輝く。

 

 芸術分野で初めて議会名誉黄金勲章を受け取り、「ブロードウェイを所有した男」とも言われたジョージ・マイケル・コーハンの自伝を映画化した(?)作品。(そんなにすごい人なのに日本語版ウィキペディアには記事がない謎。)

 ただし、ハリウッド映画の宿命として、史実に忠実ではない。最も分かりやすいのが、コーハンの妻として登場するメアリーは実在する人物ではないという事実。バツイチのコーハンが妻を映画に出すことを許さなかったとかなんとか。

 


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 『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』は戦意・愛国心高揚映画の代表作なんだそうな。しかし、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』に直接的な戦闘描写はない。『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』の何が愛国心を高揚させるのか? それを考えてみたい。

 一つのポイントは、ジョージ・M・コーハンが低い身分から成り上がった成功者だということだろう。コーハンは芸人の夫婦のもとに生まれ、芸人として育った。当時は芸人という職業があまり良く思われていない時代だったが、コーハンは幼い頃から才覚を発揮してブロードウェイの大物へと育っていく。最終的には議会から表彰されるという名誉を受け、大統領と会談するに至る。

 たいていの社会では低い身分の人のほうが多いはずだ。だから、社会の底辺でも実力があれば大統領から認めてもらえる国だと観客に見せれば、より多くの人が愛国心を刺激されるに違いない。

 ただ、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』では、差別みたいなものは特に強調されていない。

 そうなると、一つ問題が生じるはずだ。幼い頃から才覚を発揮していたコーハンの人生には、これといった挫折がないのである。もちろん、劇団をクビになったり、家族から一時離れたりといった、上向きでない時もあったが、映画のストーリーとしては若干弱めである。

 ここでもう一つのポイントとなるのが、コーハンが模範的アメリカ人だということだ。

 人の人生は大きく分けると以下の三つの要素で構成される。

  • 家族
  • 仕事
  • 結婚

 今どきは結婚しない人も多いが、少なくとも1942年の当時は、世の中の大多数にとって上の三要素が人生の重大事だったはずだ。

 家族を愛し、妻を愛し、仕事を愛し、社会に貢献する。これこそが(国家にとっての)模範的な国民と言えそうである。家族は社会の最小単位でもある。

 『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』で描かれるコーハンの人生にとって、家族・仕事・結婚は密接不可分だ。彼にとって家族はビジネスパートナーでもあるし、妻へ捧げた歌がコーハンの代表曲にもなっている。

 それゆえに、妻を芸人にすることができなかったこと、家族の芸人引退、家族の死が挫折としてコーハンの人生に影を落とす。

 成り上がりの人生を描こうと思ったら、ついつい仕事にフォーカスを当てたくなってしまう。しかし、『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』の本質は、家族の物語だ。だからこそ、順風満帆なコーハンの人生がじんわり味わい深く感じられるのであるし、戦意が高揚させられるのだ。

 しかも、コーハンの作った歌は軍歌として愛されてもいる。『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』を超える戦意・愛国心高揚映画を作るのはなかなか難しそうである。

 

 ……どうでもいいけど、私は家族を大切にしない系映画の方が好きかもしれない。

 

 余談だが、アメリカ映画ベスト100で未見なのは残り11作品。その65の『モダン・タイムス』からどの配信サイトでも観られないので、TSUTAYA DISCUSでDVDを借りている。

 本当に多様な映画を見ようと思ったらTSUTAYA DISCAS一択だ。DVDなのでオーディオ・コメンタリーが付いていることもある点も、動画配信サービスにはない魅力。『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディー』は意外に付録が充実していた。

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