2023年の目標であったアメリカ映画ベスト100の作品をすべて見るのを、3日遅れで達成した。(ただし、未見の作品に限って言えば、ちゃんと去年のうちにすべて見たことは書き添えて置こう。)なので、それについて書く。
アメリカ映画ベスト100とは
まずアメリカ映画ベスト100のリストを作成したのは、アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)。この団体はハリウッドに学校を置くなどの活動をしており、卒業生にはデヴィッド・リンチやアリ・アスターなどもいるのだとか。
とりあえず、まあなんかちゃんとしてそうなところがちゃんと作ってそうな名作のリストだということだ!
作品を名作としてリスペクトすることが大切
まず、アメリカ映画ベスト100はいずれの作品も見応えがある。Netflixでおすすめされる新しいだけのオリジナル映画を見るよりも打率は高いのではないだろうか。(前にも書いたがNetflixではこれらの作品はほとんど観られない。)
とはいえ、いかに名作といえども、趣味に合わない作品というのはある。ただ面白い映画が観たいという目的で映画を観た場合、通常ならば「つまんね」で切り捨てて終わりになる。しかも、一発目でそういう映画にぶち当たった場合、「やっぱ古臭い作品はだめだね」という誤った結論に至る可能性さえある。
ところが、「アメリカ映画ベスト100を制覇する」という目的で観る場合、「これは自分の好みではないが、それでもやはり名作なのだ」という心持ちでいられる。そして、「なぜこの映画は名作とされているのだろう」と考えたり調べたりすることになる。答えが出るかは分からない。なかなか理由を教えてくれる人には出会えないからだ。が、分からないなりに何かが見えてくる(気がする)場合もある。
(映画の)歴史が分かる
個人的におすすめしたいのは、なるべく古い作品から順番に観ることだ。というのも、名作映画を集中して観ることのメリットに、映画の歴史を体感できることがあるからだ。
たとえば、アメリカ映画ベスト100の中でサイレントの作品は『イントレランス』『サンライズ』『キートンの大列車追跡』とチャップリンの作品のみ。これらは主に1920年代以前の作品で、1930年代になるとマルクス兄弟やスクリューボールコメディーが出てくる。ということは、1920年代後半にトーキーが出現したのだということが頭に入る。
さらに、1930年代後半の『オズの魔法使』や『風と共に去りぬ』がカラーであることから、そのあたりがカラー映画の出現時期なのだということも分かる。『白雪姫』もカラーだから、アニメ映画の登場時期もこのくらいだと推定できる。
1950年代になると、赤狩りに対して暗に抗議するような作品が出てくる。と同時に、ヘイズ・コードに抵抗するような表現も出てくる。それから1967年の『俺たちに明日はない』以降、しばらく過激で暗い映画が続くから、ここらへんがアメリカン・ニューシネマの時代。(その中に『夜の大捜査線』が混じっているから、公民権運動もこのくらいの時期。)その10年後ぐらいにジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』やスティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』などの娯楽作品が現れて、エンタメ映画が復権していく。
……てな感じで歴史感覚が掴める。これがあると「なぜこの映画は名作とされているのだろう」の答えも見出しやすくなる。今では当たり前でも当時は革新的だったものが分かるからだ。だからなんだってわけじゃないけれども、何も知らなかった頃より教養のある人間になっているような気がする。自己満足にすぎないが、自分を楽しませられるなら良いことだ。
さらにいえば、その歴史というのは映画に限ったものではなくて、もっと広い人間社会の歴史とも関わりがある。『イントレランス』を観ている時、我々は100年以上も前の時代、第一次世界大戦の時代の映像技術やハリウッドの豊かさをも観ているのだ。映画を観ることは時代を見る行為でもありうる。
感想は語る必要がないということを知る
映画の感想を書くとなると、だいたいの人はつい自分が思ったことを書かなければならないという勘違いに陥りがちだ。まさに自分がそうだった。
しかし、名作の感想を書くことを考えていくと、自分の感覚というものの矮小さを感じずにはいられない。
「『ナッシュビル』観たけどよお! クソつまらなかったぜ!」
と書いたとしても、『ナッシュビル』は名作とみなされている。その事実は揺るがない。「自分は面白いと感じなかった」という感想は薄っぺらでなんの価値もない。
逆もまた然り。
「『アパートの鍵貸します』は面白い!」
うん、だって名作だからそりゃそうでしょ!てな話である。
じゃあ、この作品がなぜ名作とされるのかについて書くか? いや、それはそもそも分からないことが多い(インターネットの世界は名作についての解説が想像以上に少ない。)し、きちんとした情報ソースを以て説明するのであれば、そのソースに説明を任せた方がよい。町山智浩の解説を素人がリライトしたって無意味なのである。
となると、もうストーリーの解説ぐらいしか素人にはできない。解説といっても、あらすじをまとめるだけだ。だが、そんなのは解説でもなんでもないし、あらすじを読むぐらいなら映画を観ろ!という話である。
ということで、私は映画のストーリーを分解しつつ、なぜそういう作りになっているのかを考えることにした。これがよかった。自分の中では。
名作映画はたいていストーリー構成に無駄がないから分析しやすい。だんだんとパターンが見えてくる。他の映画と比較することができるようになり、それぞれの映画の新奇性も見えてくる。
結果的にこの作業は、映画のどこが面白いのか(=面白ポイント)を考えることにもなる。ここでいう面白ポイントは、私が面白いと感じるポイントではなく、作り手が面白いと感じたであろうポイントのことだ。
この手法を使えば、自分の感覚という、あるかどうかも分からない上に矮小なものを無理やり豪奢に仕立て上げる必要はない。それでいて、事実を書き連ねるわけではないから、良くも悪くも自分の視点が混ざってくる。したがって、これもまた映画の感想だと言えるわけだ。
そういう意味で、アメリカ映画ベスト100を観ることは大いに勉強になった。が、量が多かったので、他の活動に割ける時間が限られてしまった。派生して見たい作品(『キル・ビル』とか)も出てきたので、今年は映画に関しては特に目標を掲げずそういった作品をみていきたい。
個人的ランキング
というわけで、自分が面白いと思ったか否かはあえて書いてこなかったわけだが、せっかく全作品を制覇したわけだし、自分がどの作品がどのくらい好きだったかを相対的な形で書いておきたい。
すなわち、個人的なランキングを以下に記す。
とはいえ、それぞれの作品にそれぞれの良さがあるため、全作品に明確な序列を付けるのは極めて困難だ。なのでなんとなくのフィーリングで並べた大雑把なもんである。
たとえば、『シックス・センス』と『パルプ・フィクション』の順位はたぶんいつこのランキングを作るか次第で容易に変化しうる。なんなら気分次第では『タイタニック』ぐらいまでは『シックス・センス』と順位の逆転はありうる。とはいえ、さすがに『裏窓』と『マルタの鷹』の間には自分の中で越えられない壁があるとは思う。
- アパートの鍵貸します The Apartment 1960
- シックス・センス The Sixth Sense 1999
- パルプ・フィクション Pulp Fiction 1994
- サリヴァンの旅 Sullivan's Travels 1941
- 深夜の告白 Double Indemnity 1944
- 裏窓 Rear Window 1954
- めまい Vertigo 1958
- シンドラーのリスト Schindler's List 1993
- カサブランカ Casablanca 1942
- 風と共に去りぬ Gone with the Wind 1939
- 戦場にかける橋 The Bridge on the River Kwai 1957
- ゴッドファーザー The Godfather 1972
- ゴッドファーザー PART II The Godfather Part II 1974
- プライベート・ライアン Saving Private Ryan 1998
- 黄金 The Treasure of the Sierra Madre 1948
- モダン・タイムス Modern Times 1936
- タイタニック Titanic 1997
- 十二人の怒れる男 12 Angry Men 1957
- スミス都へ行く Mr. Smith Goes to Washington 1939
- 波止場 On the Waterfront 1954
- 羊たちの沈黙 The Silence of the Lambs 1991
- ショーシャンクの空に The Shawshank Redemption 1994
- 市民ケーン Citizen Kane 1941
- サンライズ Sunrise: A Song of Two Humans 1927
- 雨に唄えば Singin' in the Rain 1952
- オズの魔法使 The Wizard of Oz 1939
- イントレランス Intolerance 1916
- 街の灯 City Lights 1931
- キートンの大列車追跡 The General 1926
- トイ・ストーリー Toy Story 1995
- 黄金狂時代 The Gold Rush 1925
- トッツィー Tootsie 1982
- ロッキー Rocky 1976
- 時計じかけのオレンジ A Clockwork Orange 1971
- サイコ Psycho 1960
- 白雪姫 Snow White and the Seven Dwarfs 1937
- サウンド・オブ・ミュージック The Sound of Music 1965
- ワイルドバンチ The Wild Bunch 1969
- プラトーン Platoon 1986
- 捜索者 The Searchers 1956
- スパルタカス Spartacus 1960
- ベン・ハー Ben-Hur 1959
- サンセット大通り Sunset Boulevard 1950
- 明日に向って撃て! Butch Cassidy and the Sundance Kid 1969
- 怒りの葡萄 The Grapes of Wrath 1940
- フレンチ・コネクション The French Connection 1971
- アラビアのロレンス Lawrence of Arabia 1962
- アラバマ物語 To Kill a Mockingbird 1962
- チャイナタウン Chinatown 1974
- ネットワーク Network 1976
- 大統領の陰謀 All the President's Men 1976
- ドゥ・ザ・ライト・シング Do the right thing 1989
- 或る夜の出来事 It Happened One Night 1934
- グッドフェローズ Goodfellas 1990
- 許されざる者 Unforgiven 1992
- キャバレー Cabaret 1972
- 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb 1964
- ジョーズ Jaws 1975
- お熱いのがお好き Some Like It Hot 1959
- 夜の大捜査線 In the Heat of the Night 1967
- ウエスト・サイド物語 West Side Story 1961
- 地獄の黙示録 Apocalypse Now 1979
- レイダース/失われたアーク《聖櫃》 Raiders of the Lost Ark 1981
- 2001年宇宙の旅 2001: A Space Odyssey 1968
- イヴの総て All About Eve 1950
- E.T. E.T. the Extra-Terrestrial 1982
- ソフィーの選択 Sophie's Choice 1982
- アニー・ホール Annie Hall 1977
- 北北西に進路を取れ North by Northwest 1959
- タクシードライバー Taxi Driver 1976
- 真昼の決闘 High Noon 1952
- 有頂天時代 Swing Time 1936
- シェーン Shane 1953
- バージニア・ウルフなんかこわくない Who's Afraid of Virginia Woolf? 1966
- 素晴らしき哉、人生! It's a Wonderful Life 1946
- フォレスト・ガンプ/一期一会 Forrest Gump 1994
- ブレードランナー Blade Runner 1982
- 俺たちに明日はない Bonnie and Clyde 1967
- 我等の生涯の最良の年 The Best Years of Our Lives 1946
- フィラデルフィア物語 The Philadelphia Story 1940
- スター・ウォーズ Star Wars (Star Wars Episode IV: A New Hope) 1977
- カッコーの巣の上で One Flew Over the Cuckoo's Nest 1975
- 欲望という名の電車 A Streetcar Named Desire 1951
- オペラは踊る A Night at the Opera 1935
- アフリカの女王 The African Queen 1951
- ラスト・ショー The Last Picture Show 1971
- アメリカン・グラフィティ American Graffiti 1973
- 赤ちゃん教育 Bringing Up Baby 1938
- ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ Yankee Doodle Dandy 1942
- 我輩はカモである Duck Soup 1933
- 卒業 The Graduate 1967
- マルタの鷹 The Maltese Falcon 1941
- 真夜中のカーボーイ Midnight Cowboy 1969
- イージー・ライダー Easy Rider 1969
- レイジング・ブル Raging Bull 1980
- キング・コング King Kong 1933
- M★A★S★H マッシュ M*A*S*H 1970
- ロード・オブ・ザ・リング The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring 2001
- ディア・ハンター The Deer Hunter 1978
- ナッシュビル Nashville 1975
傾向は自分でも読み取れないが、とりあえずワイルダー、ヒッチコック、スピルバーグ、チャップリン、キャプラあたりが好きで、ロバート・アルトマン、マルクス兄弟、ジョージ・ルーカス、アメリカン・ニューシネマが苦手といったことは分かる。
余談:達成の方法について
ちなみに、アメリカ映画ベスト100を制覇するためには、どうやってこれらの映画を観るかが問題になる。
もちろんBDを買うのが確実だが、それだとお金がかかる。なるべく節約して制覇するにはどうすればよいのか?
「そんなんサブスクで観ればいいじゃん」
そう思ったかもしれない。ところが話はそう簡単ではない。上にも書いたが、何度でも書きたいが、国内市場シェアナンバーワンのNetflixではベスト100のうち20作品も観られない。Netflixは映画を観るのに適したサービスではない。
圧倒的に品揃えがいいのがU-NEXTだ。ただし、ちょっとお値段が張るので、より安いサービス(≒アマゾンプライム)で観られるものはそちらで観るのをおすすめする。
また、ディズニー系の作品はディズニープラスでしか観られないので、どこかのタイミングでディズニープラスには登録しなければならない。もちろんソフトを買ってしまうなら別だが。
それでも観られない作品がいくつか出てくる。これらを観るための最終手段がTSUTAYA DISCASだ。TSUTAYA DISCASはU-NEXT以上に品揃えが良く、これに登録すればほとんどの作品を観ることができる。しかも、オーディオコメンタリーなどの特典も楽しめる(その分時間がかかるが)。ついでに言えば、音楽CDも借り放題だ。欠点は、高いことと、ディスクのやり取りに時間がかかること。
以上のサービスを活用したうえで観られない作品については、たぶんソフトを買うかテレビ放送を待つしかない。私の場合『我輩はカモである』と『街の灯』はソフトを買った。
『街の灯』はアマゾンブラックフライデーでチャップリンのブルーレイボックスが半額になっていたのでそれを買った。これ↓
解説が充実しているしチャップリンは好きだし10作品以上入っているので、個人的には満足な買い物(まだ『街の灯』しか観てないけど)。