たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その64 サンライズ

 田舎者の男が都会の女と恋に落ち、妻の殺害を企てる。

 

 『サンライズ』は1927年の映画。監督F・W・ムルナウ。脚本はカール・メイヤー。主演はジョージ・オブライエンとジャネット・ゲイナー

 第一回アカデミー賞の芸術作品賞、主演女優賞、撮影賞を受賞。

 ムルナウドイツ表現主義の代表的映画監督。ただ現実を写実的に撮るのではなく、様々な特殊効果を使って人物の感情を語ろうとする。1927年にはすでにこういう演出が存在したのかと驚かされることうけあい。

 

 『サンライズ』は『キートンの大列車追跡』と同じく、「行って帰ってくる」物語だ。アクション映画的な『キートンの大列車追跡』に対して、こちらはサスペンスでロマンスな話になっている。全体的にダークな雰囲気が漂うのは、第一次世界大戦後のドイツの空気を反映しているのかもしれない。

 「行って帰ってくる」物語の長所は、シンプルな構造美にある。映画の前半と後半は対照的に作られる。前半で起きた出来事や登場した物が、後半では同じシチュエーションでありながら全く逆の役割を果たす。前半では望んでいたことが、後半では望まぬものになっている。登場人物の心持ち次第で同じものが全く違って見えてくる。それが登場人物の移動の方向によっても示されている。究極の対比、究極の伏線回収がここにある。

 そこに白黒映画ならではの光と影のコントラストがさらにダメ押しする。

 完璧なストーリーに、言葉は必要ない。いやそれどころか、言葉はこの映画の豊かさを損なうものでしかないのかもしれない。

 

 映画が生まれたのは1890年代のこと。映画と言っても、今の感覚でいう動画というべき素朴なものだった。映画によって物語を描こうという動きが出てきたのは1900年代に入ってからだそうな。そして、世界初のトーキーである『ジャズ・シンガー』が公開されたのが1927年(『サンライズ』と同年だ)。トーキーが本格的に採用されるようになるのに数年を要するとしても、サイレント映画の時代はわずか30年程度しかなかったと考えてよいだろう。しかも、良い映画を撮る方法を探りながらの30年だ。この短い期間に、100年近い時を経てもなお観る価値のある傑作が生み出されたことは驚異的としか言いようがない。


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 70年以上前の映画だから、YouTubeにアップされている動画も違法ではない……はず。サイレントなので英語のリスニングが苦手でも楽しめます。