たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

一途な男は黄金より大切なものを手に入れる 『黄金狂時代』

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その21 黄金狂時代

 黄金を求めてアラスカの雪山を登ったチャーリーは数日の猛吹雪で激しく消耗した後、麓の街で若く美しい女性に一目惚れするーー。

 

 チャールズ・チャップリンの『黄金狂時代』は1925年のサイレント映画。1942年にチャップリンがナレーションを付けたサウンド版が公開されている。革靴を食べるシーンはあまりにも有名。

 今回はサウンド版を見た。

 

 『黄金狂時代』はシンプルなラブストーリーだ。醜い男と美しい女がいて、男は低スペックという障害(現代における身分の差と言ってもよい)を乗り越えて女の心を射止める。

 神話の世界では卑怯な手段を行使して手籠にする場合が多い気がするが、現代でそんな話は通用しない。

 チャーリーは一途な思い死にものぐるいの努力によって道を切り開くのだ。

一途な思い

 一途な思いを表現するためには、チャーリーを挫折させるような事象が必要だ。たとえば、恋のライバルを登場させる(『タクシードライバー』でもあったなあ)。周囲からの嘲笑というのもある。

 一番効くのは約束をすっぽかされることだ。約束している時点で恋は上手く行っているように見えるわけだから、それをすっぽかすのは「持ち上げて落とす」を地で行く好意だ。しかも、恋する相手にされることだからダメージは深い。

 これらの苦難にも関わらず、相手のことを思い続ける。ここにヒロイン(と観客)はキュンとするわけである。

死にものぐるいの努力

 しかし、ただ思うだけでよいなら誰にでもできる。物語はチャーリーの行動を求める。

 というわけで、チャーリーは諦めていた(と思われる)黄金探しをもう一度行う。前回は非常に寒くひもじい思いをして、殺されそうになったり、革靴を食べる羽目になったりしたのにだ。

 一度挑戦して挫折しているという部分がポイントだ。ただ想像の中で難しいのと、実際に難しいことを知っているのでは全然違う。前者は「やってみたら意外と簡単だった」がありうるが、後者ではそうはいかない。

 チャーリーの今度の挑戦は一見すると順調に見えた。が、安心して眠っている間にトラブルが発生する。吹雪で小屋が崖っぷちまで飛ばされてしまったのである(そんな馬鹿な)。かくして、チャーリーはあわや転落死の危機に直面するのである。

 しかし、友情(?)の力でチャーリーは乗り越える。

一途な思いリターンズ

 黄金を見つけ大富豪になったチャーリー。食べてしまった革靴の代わりに布を巻いていたみすぼらしい小男はもういない。服は新調され、当然、ピカピカの革靴を履いている。あとはヒロインと結ばれるだけだが、ことはそう簡単ではない。

 ヒロインと結ばれる理由が「富豪になったから」であってはならないからだ。二人は心と心でつながっていなければならない。

 というわけで、船旅に出たチャーリーは撮影のために昔の格好をする。ドジを踏んで、甲板の二階から落下する。そこに偶然居合わせたヒロインが密航しているのだと勘違いをしてチャーリーを守ろうとする。ヒロインはここで初めてチャーリーの一途な思いに対してお返しをする。チャーリーが富豪になったことをまだ知らないのに。

 記者に二人の関係を聞かれたチャーリーは耳打ちをする。記者は「おめでとう」と言う。もはや二人の立場は逆転している(富豪になったチャーリーはヒロインより美しい女子を娶ることができるはず)にも関わらず、チャーリーはまだヒロインへの愛を持ち続けていたわけである。

 ここにハッピーエンドが完成する。

『街の灯』も同じような感じ

 チャールズ・チャップリンの名作でアメリカ映画ベスト100に入っているのは、ほかに『モダン・タイムス』と『街の灯』がある。

 私は『街の灯』はすでに視聴済みだが、大好きな作品だ。見たのはだいぶ前なのであまり覚えていないが(覚えていなくても好きだという感情は残る。何もおかしいことは書いていない。)、そこで描かれているのも貧しい男性の一途な思いだったはずだ。Wikipediaのあらすじを読んだけど、たぶん間違いない。

 『街の灯』は身分違いの恋ではなく、少女が盲目であることが恋の障害になっている。チャーリーは偶然手に入れたお金で少女を幸せにするが、少女はチャーリーがどんな人物なのかを知らない。ただ、チャーリーが金持ちだということだけは知っている。実際はみすぼらしい男なのに。このすれ違いが解消される瞬間……そこに感動が訪れる。

 チャールズ・チャップリンはいつだって一途な思い、つまり愛を描き続けてきたのだ。(3作品しか観たことないけど。)

 『黄金狂時代』は配信がないので、ソフトを買うか、テレビで放送されるのを待つしかない。私は幸いなことに後者の機会を捉えることができたが……Netflixさん、高い金かけて新作を作るのもいいけど昔の名作も配信してくれませんかねえ。