たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その5 或る夜の出来事

 5作品目は『或る夜の出来事』。

 公開は1934年。監督はフランク・キャプラ。主演はクラーク・ゲーブルクローデット・コルベールアカデミー賞で主要5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞)を受賞した名作中の名作だ。

 『赤ちゃん教育』と同じスクリューボール・コメディに分類されるが、かなりコメディー寄りの『赤ちゃん教育』に比べて、『或る夜の出来事』はラブロマンス色がかなり強い。

 話を一言でまとめると、「失業中の新聞記者が、富豪の父親に結婚を反対されて船を飛び降りた令嬢の珍道中をサポートする」話だ。

 いがみ合う二人が時間を共にするうちに相手のことを意識するようになるが、片方にはすでに恋人がいるためそれが恋の障害に……という構図は『赤ちゃん教育』と同じだ。この時代のアメリカで恋の障害といえば今カレ今カノくらいしかなかったのだろうかというぐらい鉄板の構図らしい。「今の時代、不倫はご法度だしなあ……」と思うかもしれないが、『ラ・ラ・ランド』はこのパターンを踏襲して成功を収めている。「今カレ今カノより素敵なアイツ」は今なお翳りを見せない恋愛映画の黄金則といってよさそうだ。

 それにしても、逃避行中のお嬢様を新聞記者が助ける話とは。完全に『ローマの休日』だ。『ローマの休日』は1953年の映画なので、『或る夜の出来事』の方が先。『ローマの休日』が『或る夜の出来事』を下敷きにしていることは間違いないだろう。ただし、『ローマの休日』と違って、クラーク・ゲーブルはさっさと自分の正体を明かしてしまう。これのおかげで、終盤の展開は『ローマの休日』とだいぶ違う。とある出来事がきっかけでゲーブルに騙されたと思い込んだコルベールお嬢様は、親のもとに帰り、恋人と結婚することを決めてしまう。最終的に父親の後押しがあり、結婚式の最中に逃げ出して、コルベールはゲーブルと結ばれる。つまり、中盤までは『ローマの休日』、終盤は『卒業』みたいな話になっている(『卒業』は見たことないけど)。

 ちなみに、ゲーブルとコルベールが接近するきっかけになるのは、話のつまらないおしゃべり男。こいつからゲーブルが守ってくれたので、コルベールは「あらこいつ良い人じゃない」となびき始めるのだ。恋に必要なのはイイ男ではなく、比較対象のダサい男なのだ。悲しい。

 しばしば同じ部屋で寝泊まりするのだが、ベッドの間にタオルで築かれるのが「ジェリコの壁」。旧約聖書に由来する言葉らしいのだが、決して壊してはならないけど壊れることを期待しちゃう壁のことをジェリコの壁というとおしゃれな感じがするので覚えておくとよさそうだ。『新世紀エヴァンゲリオン』でも引用されている(覚えてないけどそうらしい)。

或る夜の出来事(字幕版)

或る夜の出来事(字幕版)

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