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『アラバマ物語』 冤罪事件から少女は何を学ぶのか?

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その22 アラバマ物語

アラバマ物語』とは

「『アラバマ物語』(To Kill a Mockingbird)は、ハーパー・リーによる1960年の小説です。アメリカ南部のアラバマ州を舞台に、人種差別や差別といった社会問題を扱い、人々の心を揺さぶる物語となっています。

物語は、少女スカウト・フィンチと彼女の兄弟ジェム、そして彼らの父親アッティカス・フィンチ弁護士の視点から語られます。アッティカスは、アフリカ系アメリカ人の男性トム・ロビンソンを無実の罪で起訴された白人女性メイエラ・ユールのレイプ事件の弁護を引き受けます。アッティカスは、トムが有罪であることを示す証拠がないことを示し、トムの潔白を主張します。

小説は、アラバマ州の架空の町メイコンでの暮らし、スカウトとジェムの冒険、そしてアッティカスがトムの無実を証明するために戦う様子を描きながら、アメリカ南部の人種差別や差別、家族や共同体の関係、成長、そして人間の善と悪について考えさせられる内容となっています。

アラバマ物語』は、出版後すぐにベストセラーとなり、1961年にはピューリッツァー賞を受賞しました。また、1962年には映画化され、グレゴリー・ペックアッティカスを演じてアカデミー賞を受賞しました。現在でも多くの人々に愛され、高い評価を得ている作品のひとつです。」

とはChatGPTの談。私が見たかぎりでは(ChatGPTにしては珍しく)正確な説明をしている。

 補足説明すると、『アラバマ物語』の原題は"To Kill a Mockingbird"で、アティカスが子どもたちに「銃の腕が上達すると鳥を狙いたくなってくる。だけど、ツグミは撃ってはいけない。ツグミは綺麗な声で鳴く無害な鳥だから」と語るエピソードに由来している。

冤罪は人間の原始的な欲求を刺激する

 『アラバマ物語』のストーリーの核はトム・ロビンソンの冤罪事件だ。トム・ロビンソンという名のツグミが、黒人差別という銃によって撃ち殺されようとしている。

 黒人のトムが貧しい白人女性を襲ったとされる事件。アティカスは、証言の内容が明らかに事実に矛盾することを法廷で示して見せる。トムは事件の真相を証言する。そこで語られたことは当時の社会通念ではあってはならないことであった。

 無実の罪を着せられた人のための戦い、ありもしない罪を作り出す不公正な偏見との戦いは、公平を好む人間の原始的な欲求に強く訴えかけるものがある。冤罪事件という題材は、エンターテインメントとして非常に魅力的だ。『十二人の怒れる男』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『それでもボクはやってない』など冤罪を題材にした名作は数多い。

視点によって物語は全く異なる姿を見せる

 トム・ロビンソンの冤罪事件がストーリーの核であるということは、この物語における人間関係の基礎には、被告人と告発者の対立関係がある。ここから派生して、検察、弁護士、裁判官、証人、陪審員といった裁判の関係者、当事者と親密な関係を持つ人々と展開し、複雑な人間関係を形成していく。

 では、『アラバマ物語』は誰の視点から語られるかというと、トム・ロビンソンの弁護人アティカスの娘であるスカウトだ。被告人の娘ではなく、弁護人の娘。しかも彼女は6歳だから、物語の核からはわりと遠いところにいる。三者の目と言っていい。

 それゆえに『アラバマ物語』はもう一つのストーリー展開を必要とする。トムの事件がスカウトにどんな影響を与えたかを示さなければならない(そうでないならもっと中心に近い視点を選んだほうがいいはずだ)。

 というわけで、スカウトたちの近所には、姿を見せない謎に満ちた隣人ブーが住んでいて、彼に関するエピソードでトムの事件をサンドイッチする構成となっている。

 冤罪事件を題材にした作品はとかく悲劇的結末になりがちだが、『アラバマ物語』はスカウトの目を通して物語ることで、比較的ポジティブな形で終幕することに成功している。(ついでにいえば、今『RANGE 知識の「幅」が最強の武器になる』という本を読んでいるのだが、この本の骨子は「一つの事柄から得た学びを他の異なる事柄に適用することは、人間の問題解決能力を高める」だと思われる。『アラバマ物語』でスカウトが行っていることはまさにこれだ。というわけで、『アラバマ物語』は教育にもとても良い……かもしれませんよ?)

 上で述べたように冤罪はエンタメとして魅力的な題材だ。もしかしたら主人公にはトム・ロビンソンかアティカスを選んで冤罪事件のみに焦点を絞った方がエンタメ性は高かったかもしれない。それでもあえてスカウトという少女を主人公に据えた『アラバマ物語』は、他の映画とは一味違う作品に仕上がっている。