今、サイモン・シンの『暗号解読』を読んでいます。どちゃくそおもしれえんだこれが。
この本の中で、数学者が大活躍しています。
私は影響を受けやすいたちなので、数学を勉強したくなってきます。数学の能力が高まれば何者かになれそうな気がしてきます。
テレビを見ながら数独をやっている時間を数学の問題を解くためにあてればなんだか有意義な気がします。
そうなったら善は急げです。行動あるのみ。しかし、まず何をすればよいのだろうか?
青チャートを買えばいいのか? 青チャートがええのかえーのんか?
……何? 基礎を固めるなら白のがいい? え、チャート式は受験対策にすぎないから一対一対応の方がいい?
いやでも、そもそも数学の勉強をしたって何者かになれるわけないし、そんなことするならもっと有意義な時間の使い方があるんじゃないのか?
現代は情報過多で困ります。
というわけで、数学の問題集を買うことには二の足を踏んでいるのですが、そんなことでは一度着いた火は鎮まりません。卓球の勝率を数学的に考えてみることにしました。
卓球とは
卓球はラバーを張ったラケットを持ってプラスチック製のピンポン玉を打ち合い、得点を競うゲームです。
素人ならば相手のコートに入れることに必死で、お互いにミスをしないことだけが目標になります。玄人になってくればくるほど、いかに強烈な回転をかけるか、いかにスピードのある球を放つか、いかに相手の裏をかくか、いかに相手を操作するか……といった駆け引きの要素が増えていきます。
こう考えると一見複雑そうですが、本質は簡単です。
一回のプレー(サービスを構えてから最後の返球が終わるまでの一連のラリー)で必ずどちらかに得点が付き、その得点が先に11ポイントに達した方(あるいはデュースで二点連取した方)が勝つ。
それだけです。
勝率を計算する
仮に水谷というプレイヤーと張本というプレイヤーがゲームをするとします。
ここで水谷が得点する確率をpとした時、張本が得点する確率は1-pとなります。水谷が得点しなかった時、張本も得点しないことは卓球というゲームにおいてありえないからです(レットは考慮に入れません)。
水谷が得点する確率:p
張本が得点する確率:1-p
pは水谷や張本の実力、コンディション、メンタル、戦術、相性等の様々な要因によって決まり、厳密に言えば刻々と変化するはずですが、それらを平均したときの得点率です。
水谷11-0張本
このとき、水谷が11点連取して勝つ確率はどのように定まるか。これは当然、
p^11(pの11乗)
です。
水谷11-1張本
次に、張本が1点取れるけど、水谷が勝利する場合の確率を求めます。
まず、最初に張本が得点し、その後、水谷が11点連取するパターンが起こる確率は、
(1-p)×p^11
となります。
次に、水谷がまず一点を取った後、張本が得点し、水谷が10点連取するパターンが起こる確率は、
p×(1-p)×p^10
となります。
そんな感じで考えていきますと、これは水谷の得点と張本の得点の順列なのだということがわかります。
一回のパターンが生じる確率は下のようになります。
(p^水谷の得点数)×{(1-p)^張本の得点数}
これが、水谷の得点と張本の得点の並べ方の数だけ起こります。赤い玉と白い玉の並べ方の数を調べるのと同じように計算すればいいのです。
張本が1点だけ取れるパターンは、10個の赤い玉と1個の白い玉の並べ方の数と同じだけあります。赤い玉が11個ではないのは、最後に水谷が得点することは決まっているからです。水谷11-0張本となった時点でそのセットが終了するので、その後に張本が得点することはありえません。
そうなると、並べ方の数は
(10+1)!/(10!×1!)
になります。
11個の球をそれぞれ別物として並べた後に、同じ色のものは同じとみなしたときに同じ並べ方になるものを打ち消すイメージ(だったはず)。
したがって、水谷11-1張本となる確率は、
[(p^11)×{(1-p)^1}]×(10+1)!/(10!×1!)
となります。
水谷11-x張本(x≦9)
11-2から11-9までのパターンの確率も同様に計算することができます。張本の得点をxとした時、各々のパターンは以下の確率で発生します。
[(p^11)×{(1-p)^x}]×(10+x)!/(10!×x!)
デュースの処理
デュースになった場合は別のやり方で計算する必要があります。
まず、10-10になる確率を計算します。やり方は上記と同じです。
[(p^10)×{(1-p)^10}]×(10+10)!/(10!×10!)
この確率を仮にDとします。
ここから水谷が2点連取する確率は
p^2
です。
逆に11-11になる確率は
p×(1-p)×2
です。
ここからまた11-13になるか12-12になるかの分岐があります。
するとデュースをx回繰り返した末に水谷が勝つ確率は以下のとおり。
D×{2p(1-p)^(x-1)}×p^2
事象が発生する順に並べているので分かりづらいですが、これは初項aがD×p^2、公比rが2p(1-p)の等比数列と同じです。
この等比数列は無限に続きます。2点差がつかないかぎり、決着はつかないからです。
無限等比級数の和は
a/(1-r)
で求められるようです。数Ⅲの範囲みたいなので私はやったことがありませんが。
ということで、デュースで水谷が勝つ確率は、
D×p^2/{1-2p(1-p)}
となります。
勝率
水谷が1セットを取る確率は上で求めた各パターンが生じる確率の合計になります。
これで得た確率にもとづいて、今度は水谷が先に3セットなり4セットなりを取る確率を求めればそれが勝率になります。計算の要領は上と同じです。
具体的に
ここまで議論が抽象的だったので、具体的にp=0.6とした場合、どうなるかを見てみましょう。スプレッドシートで計算してみたのが以下の表になります。
スプレッドシートを画像にするにあたり、表がなんか歪んじゃってますしところどころ雑ですがが私は気にしないタイプです。
さて、これを見るとわりと驚きの結果です。
10回プレーして6点取れる場合、1セットを取れる確率は83.64%。5セットマッチの場合、勝率は96.63%。7セットマッチに至っては98.35%の確率で勝利できるのです。ほぼ確実に勝てるということになります。
当然ですが、10回プレーして5点が取れる場合、つまり二人の実力が全くイコールでp=0.5である場合、1セットを取れる確率も50%、勝率も50%になります。
では、pを0.01(つまり1%)ずつ上げていくと、5セットマッチの勝率はどうなるのでしょうか?(一般的な大会は5セットマッチです。)
p=0.51 → 57.23%
p=0.52 → 64.22%
p=0.53 → 70.77%
p=0.54 → 76.70%
p=0.55 → 81.90%
お分かりいただけただろうか?
得点率が1%高まるだけで、つまり100回プレーして50点取れていたところを51点取れるようになるだけで、勝率は5%以上もアップするのです!
おそらくそれは体感にすれば、自分が強くなったかどうかも分からない程度の差でしかないはずです。試しに100回プレーして計測してみたくらいでは、誤差なのかどうかわからないでしょう。そのくらいの僅かな差が勝敗に極めて大きな影響をもたらします。
ここから得られる教訓はたくさんあります。成長を実感できないとしても、それはいつか大きな結果を生む可能性があると考えることもできます。自分よりほんのわずかだけ強い選手と戦うことになったとしても、運で勝てるとは思わないことだという戒めとしても捉えられます。逆に、自分がなめている相手に負けた場合、それは良くて相手と自分が互角であることを示しているのであって、運が悪かったから負けるなんてことはまずありえないということも言えます。
ルール改定について
もしあなたが国際卓球連盟の会長になったとき、卓球のルールを変更する参考にもなるはずです。セットを取るための点数が少なければ少ないほど、セット数が少なければ少ないほど、番狂わせが起こりやすくなります。
ちなみに、かつて卓球は1セット21点制の5セットマッチでしたが、現在は1セット11点制の7セットマッチになっています(大きい大会では)。
これによりp=0.6の場合の勝率は、99.34%から98.35%に変化しました。
さらに現在、T2ダイヤモンドという大きな大会ではデュースはなし、試合開始から24分経過すると1セット5点制になるというルールのようです。デュースがなくなった場合、7ゲームスマッチにおいてp=0.6のときの勝率は98.35%から97.93%に変化します。さらに5点制になると、91.31%にまで落ちます。
卓球はどんどん不確定性を増すようにルール改定される傾向にあるようです。
結論
やはり数学は面白い。表面には現れない物事の本質を我々に見せてくれます。
今回は、得点率がゲームをいかに左右するかを見たわけですが、数学力を高めれば得点率を高める方法まで求められるようになるかもしれません。数学力とは関係ないかもしれません。
いずれにせよ、これは数学を趣味にするしかない!