たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

【ネタバレしかしていない】『メッセージ』感想 ネタバレは怖くない

 昨日、対コロナウイルスワクチンの二回目の摂取に挑みました。一回目の副反応でダウンしたので、二回目は絶対に働けるコンディションにはならないと見越して今日は休みを取りました。案の定、朝から発熱してダル重~な状態です(でもイブを飲んだおかげか今のところ一回目より楽かも)。

 そんな休みを利用して、今日はOculusQuest2のNetflix『メッセージ』を鑑賞しました。

メッセージ (字幕版)

 2016年に公開された映画ですが、黒くて大きなバカウケが大地に立つインパクトのある絵面に惹かれて当時からずっと見たいと思っていたのです。

 これが期待していたとおりに面白かった!

 このバカウケは宇宙人の船なのですが、彼らは「ワレワレハウチュウジンデアル」などと言ってくれるわけでもないし、ビビビと光線銃を放ってきてくれるわけでもありません。ただ沈黙し(なんか唸ってはいる)、一定の間隔で船の中に招き入れてくれるだけ。

 彼らの目的を探るため、宇宙人とのコンタクトを任されたのが主人公のルイーズ・バンクス。彼女の職業は言語学者です。ここが最大に面白いところです。SFというと物理学やら数学やら理数系なイメージが強いですが、ここに文系中の文系なイメージの言語学者をぶちこむ! それがこれ以上ないほどにハマっている。だって宇宙人の言語は未知の言語で、言語のプロは言語学者なんだから。この設定だけでもシビレます。

 宇宙人の言葉を理解できないルイーズは文字でのコミュニケーションを試みます。これが成功します。そこから宇宙人の言語の解析が進んでいくのですが、それにつれて、ルイーズの頭の中には娘との交流の記憶が蘇ってくるのです。今は独り身だというルイーズ。どうやら娘は昔に死んでしまい、夫とも別れたようです。

 宇宙人は七本の足を持つタコみたいな生物なのでヘプタポッドと名付けられます(ヘプタ=7、ポッド=足。ちなみにテトラポッドは4本の足。さらにちなむとオクトパスはオクト=8、パス=足です)。

 彼らは二人いるので、それぞれにアボットコステロという名前を付けます。アボットコステロという名前にはどういう意味があるのかググってみたところ、どうやらアメリカのお笑いコンビの名前のようです。日本でいえば、おぼん・こぼんと名付けるようなものですね。アメリカでは爆笑必至のシーンかもしれません。しかし、ヘプタポッド側からしたら、「いやいや松本と浜田にしてくれよ」と言いたくなるところかもしれません。

 この映画で重要な役割を果たす概念が「外国語を学ぶと考え方が変わる」です。これの元になるのはサピア=ウォーフの仮説というもので、思考は言語によって規定されるという説です。

 ヘプタポッドの言葉には時制が存在せず、そこから彼らの時間の概念は人類と違うものであることが示唆されます。

 物語の終盤、ヘプタポッドが「武器を提供する」的な発言をしたことを受けて、中国軍がヘプタポッドに攻撃する!と宣言します。それを受け、世界中が中国に同調する展開になるのですが、ヘプタポッドと仲良しになっていたルイーズは攻撃をなんとか止めようとします。

 そんなルイーズをヘプタポッドは初めて同じ空間の中に招きます(それまでは透明な壁を隔てて会っていました)。そこでルイーズはヘプタポッドに問います。「この頭の中に出てくる娘は何者なん!?」と。なんと、ルイーズに娘はいないし、いたこともなかったのです! ヘプタポッドはルイーズに告げます。「武器を使え。お前に授けた」と。

 そう、ヘプタポッド語を理解するようになったルイーズは、未来を見ることができるようになっていたのです。平和になった未来の情報をもとに、ルイーズは戦争を食い止めることに成功します。武器とはヘプタポッド語のことだったのです。これこそがヘプタポッドが地球に来た理由。どうやらヘプタポッドは三千年後に人類に救われるらしいのですが、その前に人類を救わねばならず、そのためにはヘプタポッド語を人類に授けることが必要だった……ということのようなのです。

 そしてルイーズは娘を若くして失い、いずれ別れることとなると知りながら、任務中に良い感じになった男と結婚するのであった――。

 

 という話です。言語が思考を規定するというのはよく言われるところですが、それをこんな風に使ってくるとは!

 言語は武器である、というのは面白い考え方で、色々なことを考えさせられます。日本人の武器は日本語かもしれないとか。色々な言語を学ぶことで新しい人生が開けるかもとか。言語を巧みに使うことで何か問題解決ができるかもしれないとか。言語学を勉強してみたいかもとか。

 私の父親が恥ずかしながら詐欺に引っかかったことがありまして。どうやらフェイスブックアメリカの軍人(女)と知り合い、彼女が戦場かどっかでなんか困っているから支援のためにお金を送金しているという話でした。母親がどんなにそれは詐欺だと言っても、そんなはずはない!自分は善行をしているのだ!と聞かなかったそうです。そんな相談を母から受けて、私はカルト宗教に触れたような恐怖を感じたものです。どうすればいいのか想像もつきません。まずは弁護士のようなその道のプロに相談することだというアドバイスをとりあえず送ったものの、どうやら調べてみると、これはロマンス詐欺と呼ばれるものであるということが分かりました。そこですかさずロマンス詐欺の情報を父に教えたところ、ようやく父も自分が詐欺の被害を受けているということを自覚したようです。類型化されたパターンと同じ状況にいる自分を認識して、さすがに冷静にならざるを得なかったのでしょう。これは「名前を付けること」がどれだけ重要かということを私が認識したエピソードなのですが、これもまた武器としての言語の一つのあり方かもしれません。もし父が初めてその詐欺に遭った人だったとしたら……と考えるとゾッとします。その観点から言えば、この映画で宇宙人にヘプタポッド、あるいはアボットコステロと名付けたことは非常に重要な意味を持つかもしれません。

 

 それから時間もこの映画では重要なテーマです。

 未来が分かっている時、人は選択を変えるだろうか?という話です。まあ自分は未来が見えないから関係ないですけど……と思ってしまいそうになりましたが、下の記事を見て考えを改めました。

miyearnzzlabo.com

 実は私たちは誰だって未来が分かっている決断をしているのですね。ルイーズのように娘が早逝し、夫と離婚するというのは典型的な悲劇です。しかし、人と人は必ずいつか別れる時が来ます。にも関わらず、世界中で結婚したり友達を作ったりしているのが人類という生き物です。ペットを飼う時だって、かなり高い確率でペットの死に目に会うことが分かっていてその決断をします。私も初めての飼い猫が死んだ時はめちゃくちゃ辛かった。あれより辛い経験はそうそうありません。でも、新しい猫を飼っちゃう。彼らとの別れもやはり同じくらい辛かったですね。じゃあ私が極度のドMかというとそんなことはなくて、その証拠にかなり多くの人がペットを飼っています(ペットが死んで何も感じない人はそんなに多くないでしょう)。辛い未来が分かっていてもやらずにはいられないことがある。人類みなルイーズなのかもしれません。

 というようなことを考えますと、ネタバレもそんなに大した問題ではないかもしれません。未来が分かっているなんて些細なことなのです。(いやでもスポーツの結果は知らない方が良いよなあ~。)

 

 そういうわけで、知的に刺激をシビビビビと与えてくれる映画でした。↓の記事によると、原作はさらに素晴らしいもののようです。

wired.jp

 てなことで、さっそく原作を買っちゃいました。たぶん読むのは一ヶ月後くらいになると思いますが、いやはや楽しみです。