「夏と冬どっちが好き?」
季節の話になった時に、たまによくある系の定番クエスチョンである。
しかし、これに答えるのはなかなか難しい。
なぜなら、夏も冬も両極端な性質を持つ季節であり、それぞれに一長一短がある。
みんなちがって、みんないい。
金子みすゞだってそう言っている。
夏のほうがいいか冬のほうがいいか、決めることに意味があるとも思えない。
住む場所を変えない限り、季節は選べないからである。
しかし、日常の会話でそんな回答はなかなかしづらいものである。
そこで、私はこんな回答を用意していた。(披露したことはたぶんない。)
「暑いのはただ不快なだけだが、寒いのは苦痛である。よって冬より夏の方が好きである」
我ながらなかなか良い着眼点である。
不快と苦痛の差は大きい。
どう違うかは説明しづらいが、夏の暑さはある程度なら我慢できるが、冬の寒さは一秒たりとも我慢したくないくらいの感覚である。
耐えられる夏、耐えられない冬。
どう考えても前者に軍配が上がる。
しかし、短い人生経験から編み出した結論は、2020年に広がった災厄によって論拠に綻びがあることが判明する。
我々はかつてない体験をすることになる。
猛暑下のマスク着用である。
「冬でもマスクを付ければ暖かいね。ハム太郎」なんて思っていたのに、夏にマスクなんか付けたら暑くて仕方ない。
しかも、室内においても窓を開けて換気しなければならないからエアコンの効きが悪くなってくる。
こうなってくると、「暑いのはただ不快なだけ」などとは言いづらくなってくる。
熱中症のリスクが否応なしに高まることで、状況は一変した。
「寒いのは防寒具で耐えられるが、暑すぎると生命に関わる」
(ただしこれは地域によるかもしれない。)
そう考えると、冬のほうがマシなような気がしてくる。
考えてみれば、冬は夜が長いからしっかりとした睡眠を取りやすいし、鍋やポトフでめちゃくちゃお手軽な、しかも野菜たっぷりの食生活を楽しめる。虫の心配もしなくていいし、お風呂で身体を温めることにも抵抗がなくなる。
こうしてコロナウイルスが長年の論争に決着をつけたのであった。
人の思考というのはかくも外的要因によって左右されるものなのである。