たぬきのためふんば

ためになるか分からないことを書き綴っています。

「余計なこと考えんでいいから、見たまんま描け」--『かくかくしかじか』のススメ

今週のお題「一気読みした漫画」

 

 誰もがきっと「やりたいことがあるのになかなか一歩を踏み出せない……」という経験をしたことがあると思います。それどころか現在進行系で悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

 そんなあなたに活を入れてくれるのが、今回私がおすすめする漫画『かくかくしかじか』です。

 作者は『東京タラレバ娘』で有名な東村アキコ。彼女の絵の師匠・日高先生との出会いと別れまでを描いた漫画です。つまり一種のエッセイ漫画です。

 これが面白い! 熱い! そして悲しい。

あらすじ

 高校3年生の東村アキコ林明子)が、美大に合格するには専門の学校で絵の勉強をしないといけない!という気になったところから物語はスタートします。

 知り合いのツテで入った絵画塾にいたのは、超絶怖い鬼教師。その名は日高健三。超スパルタの日高先生の指導のおかげか、明子は無事に美大に合格します。

 宮崎から金沢の美大に入学した明子ですが、何を描けばいいのかに悩んだ結果、堕落した大学生活を送ります。日高先生の塾にいた頃は毎日毎日絵を描いていたのに、筆を取らない日々……。連絡をしてくる日高先生から明子は逃げ続けます。

 大学を卒業し宮崎に帰った明子。再び日高絵画教室で絵を描く生活が始まります。しかし、会社員になった明子にとって、それは苦しい日々でもありました。

 この生活から抜け出すため、明子はかねてからの夢であった漫画を描き始めます。それからトントン拍子に漫画家として成功していくものの、絵(漫画以外の)を描くことが難しくなっていきます。

 そしてまた、明子は宮崎を発つのでした……。

描け!

 この漫画で日高先生がことあるごとに口に出すのが「描け」という言葉。

 夏休みの課題の絵が描けなくなってしまった学生時代の作者に、日高先生が自画像を描かせ、それが悪くない評価を得るという場面があります。

 ここがこの漫画のすべてではないかと私は思うのです。人なら誰しも思い悩むことがあります。そういう時、とりあえず手を動かしてみる。動き出してみる。そうしながら悩めばいい。いや、実のところ、手を動かしていれば悩みなどどこかにいってしまうのかもしれません。

 日高先生は(そして東村アキコも)絵を描く人だから「絵を描け!」と言っていただけで、これがお坊さんだったら「瞑想しろ!」となるのかもしれません。

 なにかに没頭している状態。それは生きるための手段というより、それ自体が生きるということなのではないかと。私は感じたわけです。

生き様は受け継がれていく

 しかし、私達は頭の中で思い悩むことなど無意味だということはとっくにご存知なのです。

 だって、漫画やアニメでうじうじしている主人公って見ててイライラするし。悟空やルフィみたいに頭空っぽのほうが夢詰め込める系の主人公の方が見てて気持ちいいじゃないですか。

 じゃあ、現実の私達が彼らのように生きられるかといえば、そうじゃないわけです。「こんな重い甲羅背負って修行したからって本当に強くなれるのか……?」とか「シャンクスの腕を犠牲にした俺は、生きていちゃいけない奴なんだ……!」とか、そういうことを考えてしまうのが我々なわけです。

 林明子もまた我々と同じ人種です。漫画家になると息巻いて芸大に行ったのに、ようやく漫画を描き始めたのは社会人になって会社を辞めたいと思うようになってから(会社を辞めたいという気持ちはとてつもないパワーの源泉なのかもしれません)。

 漫画を描き始めてからも、漫画を優先したために日高先生から逃げる形になってしまった。そのことを後悔し続けています。それは日高先生のように生きることができなかったし今もできていないという悔しさでもあるのだと感じます。

 ですが、東村アキコの活躍ぶりを見れば、そこに日高先生の魂が生きていることは明らかです。こと漫画に関して言えば、彼女は「描け!」を実践し続けているわけですから。2021/6/27現在、6本の漫画を連載中のようです。クレイジー

 東村アキコの中にいる、記憶の中の日高健三という偶像。それが彼女を支えているものの一つであるならば、『かくかくしかじか』を読んだ私達の心の中にも、リトル日高が宿っていることを願いたいものです。

 

2021/08/14追記

 全然関係ありませんが、見たものをただ描くだけで傑作は生まれるという証明を発見したので貼り付けておきます。


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