たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

この光景を僕はいつまでも忘れない

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

 記憶に残っている日……みなさんの記憶に残っている日はどんな日でしょうか。入学、卒業、引っ越し、就職、一人暮らし……。なんらかの出会いと別れの日、すなわち人生のビッグイベントを思い浮かべるのではないでしょうか。

 でも、記憶に残っている日と聞いて私の中で真っ先に思い浮かぶのは日常のなんでもない光景だったりします。

 それは高校最後の体育祭が終わり、応援団の打ち上げをした帰り道のこと。

 駅までの道を歩いていて、道路を挟んだ向かい側に立体駐車場がありました。その立体駐車場の中から、キュイイ!というタイヤ音が鳴り響いていました。おそらく立体駐車場の中を猛スピードで上るか下りるかしている車があったに違いありません。

 その時、私は思いました。

「この光景を僕はいつまでも忘れない」

 いや別に印象的な光景だったわけではありません。だって、ただの夜の立体駐車場だし。そっから車の暴走音が聞こえてくるだけだし。でも、なぜかその時にそんなことを考えたのです。後にも先にもそんなことを考えたのはその時だけです。結果、「記憶に残っている日」で真っ先に思い浮かぶのがこの日になりました。

 もしかしたら、応援団が楽しかったから何かを思い出に残したかったのかもしれません。応援団の最後の日の記憶なので、やはりこれも一種の別れの日ではあるのですが、肝心な打ち上げの記憶はほとんどありません。

 いやはや、人の記憶ってのは不思議なもんです。

 とりあえず、人は記憶をセーブしようとすればセーブできるもんなのかもしれません。何か忘れたくないけど忘れそうな景色があったら、「この光景を僕はいつまでも忘れない」と心の中で呟いてみると良いかもしれません(もしかすると一回きりの大技かもしれませんので大事に使ってください)。

 壮大な青春物語のラストを飾るセリフのようなタイトルからの謎すぎるエピソード……悪くないだろう。