地元で恐れられていたギャングが、鉄道会社の雇った最強の保安隊に追われる。
『明日に向かって撃て!』は1969年の映画。監督はジョージ・ロイ・ヒル、脚本はウィリアム・ゴールドマン。主演はポール・ニューマンとロバート・レッドフォード。アカデミー賞は撮影賞、脚本賞、作曲賞、主題歌賞を受賞。
『ワイルドバンチ』と同じく壁の穴ギャング(=ワイルドバンチ)をモデルにした西部劇。
共通点はやはり多い。
- 主人公たちが列車強盗を行う。
- 鉄道会社がガードマンを雇い、主人公たちは追われる。
- 主人公たちは国外逃亡をし、その先で殺される。
しかし、いや、だからこそ、『ワイルドバンチ』と『明日に向かって撃て!』は真逆のテイストの映画になっている。
『ワイルドバンチ』はバイオレンスをこれでもかこれでもかと盛り込み、従来の西部劇を過去のものにした。対して、『明日に向かって撃て!』は極めてバイオレンスに乏しい。当初、映画会社からは主人公たちに敵と戦わせろと注文がついたほどだ。
それゆえに追跡者たちの性格付けも全く異なる。『ワイルドバンチ』では主人公たちのライバルとして描かれていて、冒頭で交戦したうえに、中盤で撃退もした。メンバーには主人公の旧友もいて、死刑を逃れたいごろつきの集まりとして描かれていた。『明日に向かって撃て!』では、彼らは正体不明の超人集団として遠目から見られるだけで、観客は最後まで彼らの人間らしさを垣間見ることはない。主人公たちはひたすら逃げるしかなくて、時代の波という得体のしれない恐怖を感じることになる。
保安隊から逃げるシークエンスは30分近くあるが、主人公たちのピンチ度合いが仲間と馬の喪失によって視覚的に表現されているところに注目したい。『ジョーズ』の樽、『十二人の怒れる男』の投票のように、形勢を示す体力ゲージの存在は長期戦では非常に重要な気がする。
そして、一番大事なところだが、『ワイルドバンチ』の主人公たちは5,6人ほどの集団だったのに対して、『明日に向かって撃て!』は実在したブッチ・キャシディとザ・サンダンス・キッドの二人に焦点を絞っている。
サンダンス・キッドは早撃ちのガンマンとして知られていて、映画の冒頭でその実力を示す。だが、壁の穴ギャングの親分は彼の隣にいるブッチ・キャシディの方で、彼は頭が良いイケメンだ。サンダンス・キッドにはエッタ・プレイスという恋人がいるが、彼女はキャシディにも惹かれている。それでもキッドはキャシディのことを切れ者だと信頼している。意外にも、仲良しコンビには奪い合う異性が必要らしい。『天元突破グレンラガン』しかり『花とアリス』しかり。
二人は逃亡劇の中でパートナーの欠点を知っていく。
保安隊によって、崖に追い詰められた二人。崖の下の激流に飛び込むしか逃げるすべはない。しかし、飛び込むより戦うと主張するサンダンス・キッド。実は彼は泳げないのだ。それを知ったキャシディは大笑い。あんな激流の中じゃ誰だって泳げないと、二人は思い切って飛び降りる。
なんとか生き延びた二人は、エッタを伴いボリビアに向かう。キャシディはかねてより、ボリビアには金銀財宝があると話していた。しかし、たどり着いた先は、寂れた寒村。とても富がありそうには見えない。しかも、キャシディとエッタはスペイン語を話せると言っていたはずなのに、どうやらそれは嘘だったらしい。スペイン語を勉強し、カンペを読みながら強盗に励む三人なのであった。その上、キャシディとキッドが山賊に襲われたピンチの場面で、キャシディが人を撃ったことがないことが判明する。
追い詰められれば追い詰められるだけ、カッコいい二人のカッコ悪いところがどんどん露わになっていく。それでも二人の友情は揺るがない。
軍隊に包囲された二人。絶体絶命のピンチの中で、キャシディは「次はオーストラリアだ。オーストラリアの良いところは英語が通じることだ」なんて嘯く。そして、二人は建物を飛び出し、銃を撃つ。ここで映像は止まり、映画は終わる。
コミカルな二人の性格のおかげで、この映画はアメリカン・ニューシネマの代表作とされながら、暗さは全くない。試写の際、映画館が爆笑の渦に包まれたので、監督は青ざめて笑える部分を急いで削ったというエピソードがあるくらいだ。