たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

『情婦』感想

 『情婦』は1957年の映画。監督はビリー・ワイルダー。脚本はビリー・ワイルダーの相棒にハリー・カーニッツ。主演はチャールズ・ロートン

 

 本作は法廷もののミステリー。

 弁護士の主人公のもとに犯罪の被疑者がやってきて弁護をすることになるという流れ。

 状況の全てが被疑者にとって不利。状況とは、アリバイが存在しないこと、不利な事実の証人が存在すること、動機が存在することだ。その他にも抵抗の痕跡、指紋、血痕などがある。唯一光明があるとすれば、被疑者の妻がアリバイを証明できること。

 これ系の物語は、おおむね次の4つで構成されるのかもしれない。

  • 弁護人と被疑者の関係を作るエピソード
  • 被疑者と被害者の関係を明らかにするエピソード
  • 被疑者と証人の関係を明らかにするエピソード
  • 裁判シーン

 裁判パートでのお楽しみは証人の証言の矛盾を突くことだ。巧みな証人尋問によって弁護人が虚構を暴く面白さ。『アラバマ物語』でも行われていたし、『十二人の怒れる男』なんかこれだけのために全ての時間が費やされていたと言っても過言ではない。『情婦』でも見事にこれが展開される。

 だが、裁判パートの楽しみは他にも二つある。一つが、弁護人の知らない新事実が明らかにされること。もう一つが、味方であったはずの証人の裏切り。金に目がくらんだり脅迫されたりした証人が事前の打ち合わせとは全く違う証言をするという展開が法廷ものではよくある。

 『情婦』の最大の面白ポイントは、裏切る証人が、通常であれば被疑者の最大の味方であるべき人物だという点にある。仲良しのおっちゃんが裏切るとかそんなもんじゃない。被疑者の妻が裏切る。しかも被疑者は自分たちを仲良し夫婦だと思っている。なぜ彼女が裏切り行為をするのかも分からない。

 さらにビリー・ワイルダーはこのシリアスな法廷劇に夫婦漫才を取り入れ、単調にならないように工夫している。

 

 以上に書いた要素だけで十分に面白い映画になるはずなのだが、さすがビリー・ワイルダー。いや、さすがアガサ・クリスティーこれだけでは終わらない映画になっている。

 

 最後に余談だが、ミステリーの面白さを生み出すポイントの一つに探偵と犯人の距離があると思う。距離が極端であるほど面白くなりやすい。たとえば、『羊たちの沈黙』は探偵と犯人の距離が極めて遠い点に特徴がある。逆に探偵と犯人の距離が極めて近いのが『深夜の告白』だ。

 面白いミステリーに出会ったときはぜひ探偵と犯人の距離に注目していただきたい。

映画感想:『キル・ビル』と『シンデレラ』

 『パルプ・フィクション』が面白かったので、かの有名な『キル・ビル』を観た。

 ストーリーはシンプルだ。結婚式(の予行演習)の最中に殺し屋に襲われた元殺し屋の女が、犯人たちに復讐するという話。

 面白ポイントは二つ。

  • カタコトの日本語を話す金髪美女とチャンバラ&カンフーの融合
  • 時空移動
  • BGM

 

 主人公を演じるのは『パルプ・フィクション』でボスの妻役だったユマ・サーマン。黒髪ボブだった前作に対して、今回はちょい長めの金髪。個人的には黒髪ボブの方が断然良かったが、今回はカタコトの日本語を話す。これも悪くないかも。

 ユマ・サーマンが復讐を果たすべき敵は5人。

  • オーレン石井
  • ヴァニータ・グリーン
  • バド
  • エル・ドライバー
  • ビル

 こいつらを上から順に一人ずつ倒していく。

 のだが、最初に映されるのはヴァニータ・グリーン戦。その後に、結婚式の予行演習でヘッドショットを食らったユマが4年ぶりに復活する場面へとジャンプする。『パルプ・フィクション』でもやっていた時空移動が今作でも発動する。

 その後、オーレン石井の過去がプロダクションIGによるアニメで描かれる。彼女もまた両親をヤクザに殺された復讐で日本のヤクザのトップに立った。この映画のテーマは復讐だ。

 「やられたらやり返す!」で主人公が動く復讐ものは分かりやすく感情移入がしやすい。それに必ず過去の因縁が絡んでくるから、物語に厚みが生まれる。『キル・ビル』の面白さの一つは徐々に明らかにされていく過去にある。時空移動をするのもその一環だ。

 その後、ユマ・サーマンが沖縄で千葉真一に刀をもらうくだりがあり、オーレン石井とのバトルへと突入していく。千葉真一はビルの師匠だったようで、ここにもやはり過去の因縁がある。

 なぜヴァニータ・グリーン戦を先に描いたかといえば、面白みが薄いからだ。敵に復讐するための武器を得て、それで初めて戦う時、物語は一つのピークを迎える。『キル・ビルVol.1』はこれを映画のクライマックスに置いている。だからわざわざオーレン石井の過去を素晴らしいアニメーションにしてまで挿入したというわけ。

 そう、『キル・ビル』は二部作なのである。

 『キル・ビルVol.2』はバドとのバトルから始まる。が、ユマ・サーマンはあっけなく敗北する。ここで彼女の第二の技が発動する――。

 またしても過去が描かれる。そこに登場するのはビル。『Vol.1』では一切姿を現さなかった彼がついにお披露目される。恋人同士であったユマとビルの思い出の一幕。

 そしてユマはビルの紹介でパイ・メイのもとに弟子入りをする。不幸な美しい暗殺者には師匠がいるものなのである。師匠に教わった武術を使い、生き埋めにされたユマ・サーマンは地中から飛び出る。ここもまたある種の復活と言ってよいかもしれない。

 復讐を継続するためバドのもとへと向かうと、彼はすでに死んでいた。代わりにいたのはエル・ドライバーだ。エル・ドライバーは隻眼の金髪美女だが、失われた片眼はパイ・メイが奪ったという(なんてクソジジイなんだ!)。お返しにパイ・メイを毒殺してやったと宣うエル・ドライバー。ここでまた復讐スイッチが発動する。師匠を殺された怒りは、ユマ・サーマンにエル・ドライバーのもう片方の眼を抉り取らせた。踏み潰される眼球。勝負ありだ。

 その後、ビルと対峙する。ユマ・サーマンがなぜビルの元を去ったのかが描かれる。愛し合っていた二人だが戦わねばならない。ビルはそういう男だから。ラストバトルはあっけなく五点掌爆心拳で決する。結局、刀は別にいらなかったのかもしれない。

 

 『シンデレラ』は1950年の映画。

 私はやはり金髪より黒髪の方が好きらしい。シンデレラより白雪姫派である。

 それはともかく、『白雪姫』にはない『シンデレラ』の特徴としては変身がある。少女向けアニメではお馴染みの要素だ。シンデレラは変身によって王子の心を掴むが、彼女が真に価値あるもの(結婚と自由)を掴むのは、魔法が解けてからだ。彼女は自分の力で問題を解決し、本当の意味での変身を果たすのだ。これも魔法少女ものの鉄板の展開だったりする。元祖魔法少女は実は『シンデレラ』なのかもしれない。(『シンデレラ』における本当の変身とは玉の輿に乗ることだが、結婚が手早く権力を獲得するための手段であることは注目に値する。)

 ディズニーは『シンデレラ』の物語をより魅力的なものにするため、ネズミたちとの友情を描いた。シンデレラを城へ連れて行くのもネズミたち。閉じ込められたシンデレラを解放するのもネズミたち。

 なんだか知らないけどあっさりと復活してしまった『白雪姫』よりもサスペンスがあって、物語としては『シンデレラ』の方が面白いと思う人が多いのではなかろうか。

 ところで、『白雪姫』でも姫は動物たちとコミュニケーションを取っていたが、ここにはヒロインの無垢性を描きたいということ以外に、やはりアニメでしか描けないものを描きたいという動機があったのであろう。その精神が『トイ・ストーリー』にも受け継がれているような気がする。

2024年の目標:ニュースをチェックする!

今週のお題「2024年にやりたいこと」

 

 昨年はアメリカ映画ベスト100制覇を掲げて見事に達成した。(ちなみにもう一つの目標だった「4回以上旅をする!」は「旅に行くと疲れるな~」と思ったのでやめた。違うなと思ったら退却することも大事だ。とは言っても、奈良・甲府・一関に行ったのでほぼクリアしたようなものだ。)

weatheredwithyou.hatenablog.com

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 この目標は実に良かった。なぜならば

  • 具体的で、
  • 達成度が測定可能で、
  • 頑張れば達成できる程度の実現可能性で、
  • 趣味に根ざしていて、
  • 締切が明確だった

からだ。

 今年も似たような目標を立てたいが、考えた結果、なかなか難しかった。

 というのも別の「〇〇映画ベスト100を制覇する」をやってもよいのだが、ぶっちゃけ今年はもうちょい自由に映画を観たい。チャップリンのブルーレイボックスを買ったから、これは全部観ておきたいし、ビリー・ワイルダークエンティン・タランティーノの他の作品にも興味が出てきた。それに、2時間の映画を観て、ブログに感想的なものを書くとなると手早く済ませたって半日はかかる。昨年の休日はほぼこの映画を観る目標のために費やされたと言っても過言ではない。それを今年もやるのはちょっとしんどい。

 じゃあ他のもっとお手軽なジャンルに挑戦してみるのはどうだろうとも考えた。たとえば西洋絵画ベスト100を全部見る!とか。これは簡単すぎる。『西洋絵画BEST100』なる本があるので、ほぼこれを読むのと同義みたいなもんだ。そんなのは今月の目標程度のもんで一年の目標にするもんじゃない。名盤ベスト100はなんかちょうど良い気もしたが、ブログに何か書ける気がしないのでやめた。逆に小説ベスト100みたいなのは絶対に達成不可能(私は読書スピードが遅いのだ。)な上に、他の本を読む時間が奪われそうなのであまり気が進まない。

 

 もう目標を立てることを諦めようかと思ったその時(ついさっき)、稲妻が走った。

「そうだ、ニュースを見よう!」

 たしか2年前だったかと思うが、新年の目標を「ニュースをチェックしない」にした記憶がある。これはたしかニュースアプリの通信量が多すぎるのが原因だったが、予想していたとおり、ニュースをチェックしなくたって重大ニュースは目に飛び込んでくるし、日常生活を送るのに全く支障をきたさなかった。

 が、ふとした時に、「ん? そんなニュースが話題になっていたのか……」みたいな瞬間が年に数回くらいあった。当然だが取りこぼしはあるのだ。

 さらに、アメリカ映画ベスト100を観ていて気づいた。映画はその映画が取られた時代背景に大きな影響を受けている。クリエイターは世相の動きに敏感にならなければならないようだ。ていうか、社会人として、大人としてアンテナは張っておくべきである。

 もう一つついでに言えば、アメリカ映画ベスト100について書いてもブログのアクセスは伸びない。上に貼った記事を見返してみたら一年前の自分も予期していたようだが、まさに予想どおりになった。さすが自分。それはともかく、古いものに興味を持つ人は少ないのだ*1。では、新しいものとは何か? NEWSである。NEWな事象には話題性がある。話題に乗っかれば、ブログのアクセスも伸びる。そういう寸法だ。

 

 というわけで、今年はニュースをこれまで以上にチェックしていきたいと思う。そして、毎週ニュースに関する記事を書いてみようと思う。

*1:新しい映画のレビューを書けばアクセスが伸びるとは言っていない。

アメリカ映画ベスト100を制覇しました。

 2023年の目標であったアメリカ映画ベスト100の作品をすべて見るのを、3日遅れで達成した。(ただし、未見の作品に限って言えば、ちゃんと去年のうちにすべて見たことは書き添えて置こう。)なので、それについて書く。

アメリカ映画ベスト100とは

 まずアメリカ映画ベスト100のリストを作成したのは、アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)。この団体はハリウッドに学校を置くなどの活動をしており、卒業生にはデヴィッド・リンチアリ・アスターなどもいるのだとか。

 とりあえず、まあなんかちゃんとしてそうなところがちゃんと作ってそうな名作のリストだということだ!

ja.wikipedia.org

作品を名作としてリスペクトすることが大切

 まず、アメリカ映画ベスト100はいずれの作品も見応えがある。Netflixでおすすめされる新しいだけのオリジナル映画を見るよりも打率は高いのではないだろうか。(前にも書いたがNetflixではこれらの作品はほとんど観られない。)

 とはいえ、いかに名作といえども、趣味に合わない作品というのはある。ただ面白い映画が観たいという目的で映画を観た場合、通常ならば「つまんね」で切り捨てて終わりになる。しかも、一発目でそういう映画にぶち当たった場合、「やっぱ古臭い作品はだめだね」という誤った結論に至る可能性さえある。

 ところが、「アメリカ映画ベスト100を制覇する」という目的で観る場合、「これは自分の好みではないが、それでもやはり名作なのだ」という心持ちでいられる。そして、「なぜこの映画は名作とされているのだろう」と考えたり調べたりすることになる。答えが出るかは分からない。なかなか理由を教えてくれる人には出会えないからだ。が、分からないなりに何かが見えてくる(気がする)場合もある。

(映画の)歴史が分かる

 個人的におすすめしたいのは、なるべく古い作品から順番に観ることだ。というのも、名作映画を集中して観ることのメリットに、映画の歴史を体感できることがあるからだ。

 たとえば、アメリカ映画ベスト100の中でサイレントの作品は『イントレランス』『サンライズ』『キートンの大列車追跡』とチャップリンの作品のみ。これらは主に1920年代以前の作品で、1930年代になるとマルクス兄弟スクリューボールコメディーが出てくる。ということは、1920年代後半にトーキーが出現したのだということが頭に入る。

 さらに、1930年代後半の『オズの魔法使』や『風と共に去りぬ』がカラーであることから、そのあたりがカラー映画の出現時期なのだということも分かる。『白雪姫』もカラーだから、アニメ映画の登場時期もこのくらいだと推定できる。

 1950年代になると、赤狩りに対して暗に抗議するような作品が出てくる。と同時に、ヘイズ・コードに抵抗するような表現も出てくる。それから1967年の『俺たちに明日はない』以降、しばらく過激で暗い映画が続くから、ここらへんがアメリカン・ニューシネマの時代。(その中に『夜の大捜査線』が混じっているから、公民権運動もこのくらいの時期。)その10年後ぐらいにジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』やスティーブン・スピルバーグの『ジョーズ』などの娯楽作品が現れて、エンタメ映画が復権していく。

 ……てな感じで歴史感覚が掴める。これがあると「なぜこの映画は名作とされているのだろう」の答えも見出しやすくなる。今では当たり前でも当時は革新的だったものが分かるからだ。だからなんだってわけじゃないけれども、何も知らなかった頃より教養のある人間になっているような気がする。自己満足にすぎないが、自分を楽しませられるなら良いことだ。

 さらにいえば、その歴史というのは映画に限ったものではなくて、もっと広い人間社会の歴史とも関わりがある。『イントレランス』を観ている時、我々は100年以上も前の時代、第一次世界大戦の時代の映像技術やハリウッドの豊かさをも観ているのだ。映画を観ることは時代を見る行為でもありうる。

感想は語る必要がないということを知る

 映画の感想を書くとなると、だいたいの人はつい自分が思ったことを書かなければならないという勘違いに陥りがちだ。まさに自分がそうだった。

 しかし、名作の感想を書くことを考えていくと、自分の感覚というものの矮小さを感じずにはいられない。

「『ナッシュビル』観たけどよお! クソつまらなかったぜ!」

と書いたとしても、『ナッシュビル』は名作とみなされている。その事実は揺るがない。「自分は面白いと感じなかった」という感想は薄っぺらでなんの価値もない。

 逆もまた然り。

「『アパートの鍵貸します』は面白い!」

 うん、だって名作だからそりゃそうでしょ!てな話である。

 じゃあ、この作品がなぜ名作とされるのかについて書くか? いや、それはそもそも分からないことが多い(インターネットの世界は名作についての解説が想像以上に少ない。)し、きちんとした情報ソースを以て説明するのであれば、そのソースに説明を任せた方がよい。町山智浩の解説を素人がリライトしたって無意味なのである。

 となると、もうストーリーの解説ぐらいしか素人にはできない。解説といっても、あらすじをまとめるだけだ。だが、そんなのは解説でもなんでもないし、あらすじを読むぐらいなら映画を観ろ!という話である。

 ということで、私は映画のストーリーを分解しつつ、なぜそういう作りになっているのかを考えることにした。これがよかった。自分の中では。

 名作映画はたいていストーリー構成に無駄がないから分析しやすい。だんだんとパターンが見えてくる。他の映画と比較することができるようになり、それぞれの映画の新奇性も見えてくる。

 結果的にこの作業は、映画のどこが面白いのか(=面白ポイント)を考えることにもなる。ここでいう面白ポイントは、私が面白いと感じるポイントではなく、作り手が面白いと感じたであろうポイントのことだ。

 この手法を使えば、自分の感覚という、あるかどうかも分からない上に矮小なものを無理やり豪奢に仕立て上げる必要はない。それでいて、事実を書き連ねるわけではないから、良くも悪くも自分の視点が混ざってくる。したがって、これもまた映画の感想だと言えるわけだ。

 そういう意味で、アメリカ映画ベスト100を観ることは大いに勉強になった。が、量が多かったので、他の活動に割ける時間が限られてしまった。派生して見たい作品(『キル・ビル』とか)も出てきたので、今年は映画に関しては特に目標を掲げずそういった作品をみていきたい。

個人的ランキング

 というわけで、自分が面白いと思ったか否かはあえて書いてこなかったわけだが、せっかく全作品を制覇したわけだし、自分がどの作品がどのくらい好きだったかを相対的な形で書いておきたい。

 すなわち、個人的なランキングを以下に記す。

 とはいえ、それぞれの作品にそれぞれの良さがあるため、全作品に明確な序列を付けるのは極めて困難だ。なのでなんとなくのフィーリングで並べた大雑把なもんである。

 たとえば、『シックス・センス』と『パルプ・フィクション』の順位はたぶんいつこのランキングを作るか次第で容易に変化しうる。なんなら気分次第では『タイタニック』ぐらいまでは『シックス・センス』と順位の逆転はありうる。とはいえ、さすがに『裏窓』と『マルタの鷹』の間には自分の中で越えられない壁があるとは思う。

  1. アパートの鍵貸します    The Apartment    1960
  2. シックス・センス    The Sixth Sense    1999
  3. パルプ・フィクション    Pulp Fiction    1994
  4. サリヴァンの旅    Sullivan's Travels    1941
  5. 深夜の告白    Double Indemnity    1944
  6. 裏窓    Rear Window    1954
  7. めまい    Vertigo    1958
  8. シンドラーのリスト    Schindler's List    1993
  9. カサブランカ    Casablanca    1942
  10. 風と共に去りぬ    Gone with the Wind    1939
  11. 戦場にかける橋    The Bridge on the River Kwai    1957
  12. ゴッドファーザー    The Godfather    1972
  13. ゴッドファーザー PART II    The Godfather Part II    1974
  14. プライベート・ライアン    Saving Private Ryan    1998
  15. 黄金    The Treasure of the Sierra Madre    1948
  16. モダン・タイムス    Modern Times    1936
  17. タイタニック    Titanic    1997
  18. 十二人の怒れる男    12 Angry Men    1957
  19. スミス都へ行く    Mr. Smith Goes to Washington    1939
  20. 波止場    On the Waterfront    1954
  21. 羊たちの沈黙    The Silence of the Lambs    1991
  22. ショーシャンクの空に    The Shawshank Redemption    1994
  23. 市民ケーン    Citizen Kane    1941
  24. サンライズ    Sunrise: A Song of Two Humans    1927
  25. 雨に唄えば    Singin' in the Rain    1952
  26. オズの魔法使    The Wizard of Oz    1939
  27. イントレランス    Intolerance    1916
  28. 街の灯    City Lights    1931
  29. キートンの大列車追跡    The General    1926
  30. トイ・ストーリー    Toy Story    1995
  31. 黄金狂時代    The Gold Rush    1925
  32. トッツィー    Tootsie    1982
  33. ロッキー    Rocky    1976
  34. 時計じかけのオレンジ    A Clockwork Orange    1971
  35. サイコ    Psycho    1960
  36. 白雪姫    Snow White and the Seven Dwarfs    1937
  37. サウンド・オブ・ミュージック    The Sound of Music    1965
  38. ワイルドバンチ    The Wild Bunch    1969
  39. プラトーン    Platoon    1986
  40. 捜索者    The Searchers    1956
  41. スパルタカス    Spartacus    1960
  42. ベン・ハー    Ben-Hur    1959
  43. サンセット大通り    Sunset Boulevard    1950
  44. 明日に向って撃て!    Butch Cassidy and the Sundance Kid    1969
  45. 怒りの葡萄    The Grapes of Wrath    1940
  46. フレンチ・コネクション    The French Connection    1971
  47. アラビアのロレンス    Lawrence of Arabia    1962
  48. アラバマ物語    To Kill a Mockingbird    1962
  49. チャイナタウン    Chinatown    1974
  50. ネットワーク    Network    1976
  51. 大統領の陰謀    All the President's Men    1976
  52. ドゥ・ザ・ライト・シング    Do the right thing    1989
  53. 或る夜の出来事    It Happened One Night    1934
  54. グッドフェローズ    Goodfellas    1990
  55. 許されざる者    Unforgiven    1992
  56. キャバレー    Cabaret    1972
  57. 博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか    Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb    1964
  58. ジョーズ    Jaws    1975
  59. お熱いのがお好き    Some Like It Hot    1959
  60. 夜の大捜査線    In the Heat of the Night    1967
  61. ウエスト・サイド物語    West Side Story    1961
  62. 地獄の黙示録    Apocalypse Now    1979
  63. レイダース/失われたアーク《聖櫃》    Raiders of the Lost Ark    1981
  64. 2001年宇宙の旅    2001: A Space Odyssey    1968
  65. イヴの総て    All About Eve    1950
  66. E.T.    E.T. the Extra-Terrestrial    1982
  67. ソフィーの選択    Sophie's Choice    1982
  68. アニー・ホール    Annie Hall    1977
  69. 北北西に進路を取れ    North by Northwest    1959
  70. タクシードライバー    Taxi Driver    1976
  71. 真昼の決闘    High Noon    1952
  72. 有頂天時代    Swing Time    1936
  73. シェーン    Shane    1953
  74. バージニア・ウルフなんかこわくない    Who's Afraid of Virginia Woolf?    1966
  75. 素晴らしき哉、人生!    It's a Wonderful Life    1946
  76. フォレスト・ガンプ/一期一会    Forrest Gump    1994
  77. ブレードランナー    Blade Runner    1982
  78. 俺たちに明日はない    Bonnie and Clyde    1967
  79. 我等の生涯の最良の年    The Best Years of Our Lives    1946
  80. フィラデルフィア物語    The Philadelphia Story    1940
  81. スター・ウォーズ    Star Wars (Star Wars Episode IV: A New Hope)    1977
  82. カッコーの巣の上で    One Flew Over the Cuckoo's Nest    1975
  83. 欲望という名の電車    A Streetcar Named Desire    1951
  84. オペラは踊る    A Night at the Opera    1935
  85. アフリカの女王    The African Queen    1951
  86. ラスト・ショー    The Last Picture Show    1971
  87. アメリカン・グラフィティ    American Graffiti    1973
  88. 赤ちゃん教育    Bringing Up Baby    1938
  89. ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ    Yankee Doodle Dandy    1942
  90. 我輩はカモである    Duck Soup    1933
  91. 卒業    The Graduate    1967
  92. マルタの鷹    The Maltese Falcon    1941
  93. 真夜中のカーボーイ    Midnight Cowboy    1969
  94. イージー・ライダー    Easy Rider    1969
  95. レイジング・ブル    Raging Bull    1980
  96. キング・コング    King Kong    1933
  97. M★A★S★H マッシュ    M*A*S*H    1970
  98. ロード・オブ・ザ・リング    The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring    2001
  99. ディア・ハンター    The Deer Hunter    1978
  100. ナッシュビル    Nashville    1975

 傾向は自分でも読み取れないが、とりあえずワイルダーヒッチコックスピルバーグチャップリン、キャプラあたりが好きで、ロバート・アルトマンマルクス兄弟ジョージ・ルーカスアメリカン・ニューシネマが苦手といったことは分かる。

余談:達成の方法について

 ちなみに、アメリカ映画ベスト100を制覇するためには、どうやってこれらの映画を観るかが問題になる。

 もちろんBDを買うのが確実だが、それだとお金がかかる。なるべく節約して制覇するにはどうすればよいのか?

「そんなんサブスクで観ればいいじゃん」

 そう思ったかもしれない。ところが話はそう簡単ではない。上にも書いたが、何度でも書きたいが、国内市場シェアナンバーワンのNetflixではベスト100のうち20作品も観られない。Netflixは映画を観るのに適したサービスではない。

 圧倒的に品揃えがいいのがU-NEXTだ。ただし、ちょっとお値段が張るので、より安いサービス(≒アマゾンプライム)で観られるものはそちらで観るのをおすすめする。

 また、ディズニー系の作品はディズニープラスでしか観られないので、どこかのタイミングでディズニープラスには登録しなければならない。もちろんソフトを買ってしまうなら別だが。

 それでも観られない作品がいくつか出てくる。これらを観るための最終手段がTSUTAYA DISCASだ。TSUTAYA DISCASはU-NEXT以上に品揃えが良く、これに登録すればほとんどの作品を観ることができる。しかも、オーディオコメンタリーなどの特典も楽しめる(その分時間がかかるが)。ついでに言えば、音楽CDも借り放題だ。欠点は、高いことと、ディスクのやり取りに時間がかかること。

 以上のサービスを活用したうえで観られない作品については、たぶんソフトを買うかテレビ放送を待つしかない。私の場合『我輩はカモである』と『街の灯』はソフトを買った。

 『街の灯』はアマゾンブラックフライデーチャップリンのブルーレイボックスが半額になっていたのでそれを買った。これ↓

 解説が充実しているしチャップリンは好きだし10作品以上入っているので、個人的には満足な買い物(まだ『街の灯』しか観てないけど)。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その100 街の灯

 ホームレスが盲目の少女に貢ぎます。

 

 『街の灯』は1931年の映画。製作・監督・脚本・主演・音楽・編集にチャールズ・チャップリン。ヒロインのヴァージニア・チェリルはケーリー・グラントの最初の奥さん。

 

 『街の灯』は『黄金狂時代』と『モダン・タイムス』の間の作品。この三作品とも、浮浪者チャーリーが貧しい美少女のためにお金を稼ぐ話だ。

 『黄金狂時代』では、少女は当初チャーリーよりも裕福で、チャーリーは死にものぐるいの思いで大金を獲得する。立場が逆転するが、それでも変わらない関係に感動がある。

 『モダン・タイムス』では、少女とチャーリーは等しく貧しい。共同でお金を稼ごうとするが、チャーリーはなかなか一つの職場に定着することができない。それがようやくラストでコメディアンの才能を開花させる点が感動ポイント。

 では、『街の灯』はどうかというと、チャーリーは富豪のふりをして少女に大金を貢ぐ。そのためにチャーリーは逮捕されてしまうが、少女は手術を受けて目が見えるようになる。出所したチャーリーと少女は出会い、少女は富豪だと思っていた人物が目の前のみすぼらしい男だと知る。このラストは珠玉の名シーンだ。

 一言で言うと同じ話でも、これだけのヴァリエーションが作れるのだ。

 

 『街の灯』の特徴は二つ。

 一つは、最後に二人の関係が真の意味で始まること。ラブストーリーには主には三つのパターンがある。

  • 最悪の出会いから始まった二人が結ばれて終わるパターン
  • 一気に燃え上がった恋が儚く散って終わるパターン
  • 嘘によって関係が進展するが、最後に嘘が明らかになるパターン

 三番目のパターンには『お熱いのがお好き』や『トッツィー』があるが、『街の灯』もこれに当たる。これ系の作品は、嘘がバレたら関係が破綻するかもしれないというサスペンスがあり、嘘がバレたときにヒロインがそれをどう評価するかというのが最大の見所になる。

 もう一つの特徴は、ヒロインが障害者であること。

 『フォレスト・ガンプ/一期一会』のように知的障害者は無垢な存在として描かれがちだが、それ以外の身体障害者も無垢な存在として描かれる場合がある。

 『街の灯』において、チャーリーのお粗末な嘘にヒロインが簡単に騙されるのは、彼女が盲目だからに尽きる。彼女は盲目であるがゆえに、見た目で人を判断することができない。『星の王子さま』で「大切なことは目には見えない」と言ったりするように、見た目やレッテルで人を判断することは下劣なこととみなされる場合がある。その限りにおいて、視覚障害者は無垢な存在となるのだ。

 ところが、チャーリーは少女の目を治す手助けをしてしまう。これは映画的には少女が無垢でなくなることを意味する。実際、少女は子供たちにいじめられている惨めな浮浪者のことを笑い、彼に見つめられると「惚れさせてもーた!」と笑う。目が見えるようになった彼女は、男たちが自分に近づく意味が分かるようになってしまったのだ。

 少女が無垢でなくなってしまったことによって、ラストシーンのサスペンスは一層高まる。彼女はチャーリーのことをどう思うのだろうか? 「こんなに貧しいのにもかかわらず私に施しをしてくれたのか」と感動するだろうか。それとも「私はこんな薄汚い小男に騙されていたのか」とがっかりするだろうか。両方ということもありうる。いずれなのか、映画は答えを示さないまま終わる。そこがいい。

 もし『お熱いのがお好き』が答えを示さぬまま終わったら観客は納得しないだろう。主人公が報いを受けるのか、マリリン・モンローが許すのかまで見届けないと成立しない。それは彼が行ったことが罪とさえ言えるくらいのことだからだ。『トッツィー』でも同じことが言える。善行をしたチャーリーとはその点で違いがある。

 そもそも善行はそれ自体が尊く、善行が正しく評価されることに意味がある。見返りはいらない。もちろんあるに越したことはないが、少女にチャーリーを好きになるよう強いることはできない。チャーリーだって見返りを望んではいない。彼は少女が店から出てくるのを見て、去ろうとしていた。だから、『街の灯』の物語は少女がチャーリーの姿を見た瞬間にピークがあり、そこで終わるのだ。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その99 トイ・ストーリー

 保安官のおもちゃが宇宙飛行士のおもちゃにリーダーの座を奪われる!

 

 『トイ・ストーリー』は1995年の映画。監督はジョン・ラセター。脚本はジョス・ウィードン、アンドリュー・スタントンジョエル・コーエンアレック・ソコロウ。世界初のフルCGアニメーション作品。アカデミー特別業績賞を受賞。

 

 西部劇の保安官を模した人形であるウッディは、持ち主のアンディに寵愛され、家のおもちゃたちのリーダー的立場に立っている。

 ある日、アンディに新しいおもちゃがプレゼントされる。宇宙飛行士のヒーローであるバズ・ライトイヤーだ。アンディはたちまちバズの虜になり、ウッディの地位は下がっていく。西部劇が衰退し、SF映画が隆盛する、映画の歴史になぞらえることもできる。

 というわけで、既得権益を侵害されつつあるウッディとバズの政治闘争が『トイ・ストーリー』の軸になっていく。この場合に物語の方向性は次の三つに絞られる。

 『トイ・ストーリー』のテーマは西部劇ではなくおもちゃであって、かつ、子供向けアニメということもあり三つ目のパターンを採用している。

 ウッディとバズは、斉藤大佐とニコルソン大佐のように対立しながらも、共通の困難に取り組むうちに仲を深めていく。

 

 『トイ・ストーリー』で最も優れているのはラストシーンだろう。シドの家から逃れたウッディとバズが、引っ越しの車を追う。次のような流れで展開していく。

  1. 二人は追いつくが、ウッディはかろうじて紐に掴まっているだけ。振り落とされてしまうかもしれない。
  2. シドの犬がウッディを襲う。助けたバズが取り残されてしまう。
  3. ラジコンカーを使い、バズを支援する。
  4. 誤解されているウッディは車から落とされてしまう。
  5. 交差点で轢かれそうになるバズ。犬は脱落する。
  6. 誤解が解けて、仲間たちがウッディとバズを助けようとする。
  7. ラジコンの電池が切れる。
  8. ロケットを使おうと思い付く。
  9. マッチの火が消える。
  10. バズのヘルメットを使って火をつける。
  11. バズが飛ぶ。

 10分にも満たない中にこれだけの展開が詰め込まれている。

 しかも、ただ起伏が細かくあるだけじゃなくて、起伏の激しさもすごい。7と9の絶望感たるや。特に9がすごい。普通なら、すでに登場人物を絶望の淵に立たせているし、マッチとロケットという伏線を回収できるわけだから、「マッチで火を付けてハッピーエンド」としたって十分なのだ。しかし、ジョン・ラセターはその先を行く。ここにすごみがある。

 さらにダメ押しの一手として、ラストを「バズが飛んだ」で締める。ウッディはバズを称え、バズは誇りを取り戻す。二人の友情を象徴するアクションをクライマックスに持ってくる。

 完璧すぎる。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その98 白雪姫

 お姫様が母に殺されます。

 

 『白雪姫』は1937年の映画。監督はデイヴィッド・ハンド、脚本はテッド・シアーズ、オットー・イングランダー、アール・ハード、ドロシー・アン・ブランク、リチャード・クリードン、メリル・デ・マリス、ディック・リカード、ウェッブ・スミス。

 

 白雪姫の話の流れを簡単にまとめると以下のようになる。

  1. 白雪姫が城から追放される。
  2. 白雪姫と小人が交流をする。
  3. 女王が白雪姫を殺す。
  4. 白雪姫が復活する。

 復活は物語において重要な要素のような気がする。世界ナンバーワンヒット小説である新約聖書はキリストの復活をクライマックスに配置している。古事記ギリシア神話でも復活を試みて失敗する話がある。(キリスト教との類似性で言えば、迫害を受けていた者が死ぬという点も重要かもしれない。)

 死んだ人が蘇るという希望は(たとえそれが失敗に終わったとしても)感動を呼ぶのだ。白雪姫は王子様のキスによって復活するが、その描写はすごくあっさりしている。ふらっとやってきた王子様が特に振りもなくキスして蘇る。復活する理由なんてのはなんでもよくて、復活することそれ自体に意味があるのだろう。

 復活することが重要なので、意地悪な継母も事故死というあっけない形で物語から排除される。復活した白雪姫の邪魔さえしなければ、その処遇はどうだってよいのだ。

 では小人たちとの交流パートがなんのために存在するかといえば、白雪姫の愛らしさを見せるためだ。白雪姫が死んだときに蘇ってほしいと思わせるために、観客へのアピールタイムを用意したというわけ。

 ここで白雪姫が何をやっているかといえば、母親の代わりである。小人たちの家を掃除し、料理を作り、手洗いの必要性を教える。悪しき母である女王と同じ轍を踏まずに、白雪姫は良き母になる。実は女王の存在が白雪姫の魅力を引き立たせているのだ。

 

 まあ、とはいえ、この映画がアメリカ映画ベスト100に入っている理由がそんなことじゃないのは明らかだ。『白雪姫』は、世界初の長編フルアニメーション映画。フルアニメーションとは一秒間の24コマすべてで絵が変化するアニメのこと。一般的な日本のアニメーションは24コマ中8コマだけが変化するリミテッド・アニメーション。

 ただ初めてというだけではない。その作画クオリティは今の水準から見ても極めて高い。「『鬼滅の刃』と『白雪姫』、どっちの作画がすごい?」と問われたら、自分なら『白雪姫』の方が上だと答える。『白雪姫』の制作にかかった期間は4年。実写なら数ヶ月で撮れることを考えると、長編アニメーション映画を撮ろうという試みは正気の沙汰ではない。

 幸い、『白雪姫』は大当たりをし、製作費の何倍にもなる興行収入を記録した。もしディズニーの挑戦が失敗に終わっていたら、アニメの発展はもっと遅れていたかもしれない。いくばくかの勝算を持って誰もやったことのないことに挑むことが時代を切り開くのだ。

 とはいえ、(エンターテイメント全般に言えるが)アニメには当たり外れがある。ディズニーとて例外ではない。このあと『ピノキオ』や『ファンタジア』で赤字を出して『ダンボ』で黒字を出したり……という紆余曲折を経た後には長い低迷期が待っていた。『白雪姫』から50年以上も経って、『リトル・マーメイド』と『美女の野獣』に至り、ディズニーはようやく復活を遂げるのである。(ということにしておく。)