先週行われた乃木坂46の13th YEAR BIRTHDAY LIVEに行ってきた。
これまで乃木坂のライブには2回だけ行ったことがある。2年前のアンダーライブと、同じ年に行われたスタ誕ライブだ。
その時のことは下の記事で書いた。
weatheredwithyou.hatenablog.com
ここに書いてあるように、私が乃木坂のライブで感じたのは軽い恐怖であった。
それゆえ、しばらく乃木坂のライブに参加するのは控えていた。
大きなライブであれば配信もある。わざわざ現地に行く必要はない。むしろメンバーの顔をじっくり見たいなら配信の方が良い。チケットの当たりやすい大きな会場では顔の小さな女の子たちは豆粒にしか見えない。歌舞伎役者や舞台役者は顔が大きいという。現代の日本の価値観では「顔が小さい方が良い」とされがちだが、生のステージ上では顔が大きい方が映えるのである。小顔が美徳とされるようになったのは、きっとテレビが普及してメディアの覇権を握った頃からに違いない。顔の小さい女の子たちを集めた乃木坂46は、配信に最適化された組織だと言えよう。
にもかかわらず、なぜ久々に乃木坂のライブに参戦する気になったのか。それは、今回の会場が味の素ステイディアムだったからだ。
私は昨年行われた藤井風の日産ステイディアムライブに参加したのだが、そこで感じたことは会場規模が大きいほど演出も豪華になるということだった。一昨年のさいたまスーパーアリーナのライブも観に行ったが、会場周辺の雰囲気からして違うのだ。
話は逸れるが、こうやって振り返ってみると、私が乃木坂のライブに参戦した原点には、藤井風がいたことに気付く。なんせ私が初めて単独ライブを観に行ったのが、上述したさいたまスーパーアリーナで行われた藤井風の公演だったからだ。藤井風のライブ体験が最高だったからこそ、乃木坂のライブにも行ってみたいと思ったはずである。
そして今回も、藤井風のステイディアムライブが最高だったから、乃木坂のステイディアムライブに行きたいと思ったわけである。私を乃木坂道に導いてくれるのはいつも藤井風なのだ。
このように考えていくと、アーティストというのは互いにライバル関係にあるように見えるが、実は同じ音楽業界を盛り上げる仲間でもあることに気付かされる。藤井風が吹けば乃木坂が儲かる。そういう風に世の中はできている。
ライブというものは行きたいからといって行けるものではない。事前にチケットをゲットする必要があるのだが、そのためには基本的に抽選に当たらなければならない。
とはいっても、私は楽観していた。これまで乃木坂関係のチケットが外れた経験はあまりない。5期生が参加した新参者と6期生のお披露目会くらいのもので、いずれも会場規模が小さかった。味の素ステイディアムのキャパシティはかなり大きい。これならばまず外れることはあるまい。そう思っていたのである。
ところが、抽選に外れてしまった。
が、ガーン!!
味の素ステイディアムで外れるのか……。土曜日しか申し込まなかったから……。私は乃木坂を舐めていたのかもしれない……。
同時期に申し込んだ6期生のお披露目会もOfficial髭男dismのステイディアムライブも外れてしまった。いやなんなら去年のヨルシカのライブもミセスのライブも全部外れている。……天から見放されている。そう感じた。
風向きが変わったのは、3月末。再度申し込んだ髭男のステイディアムライブのチケットが、注釈付きスタンド指定席ではあるものの、当たったのだ。天は私を見放してはいない。諦めない者は報われる。
てなわけで、乃木坂のバースデイライブのチケット一般販売が行われることを知った私は、発売開始時刻からPCの前で奮闘していた。何度クリックしても表示される「混雑しています」の文字。出ては入り、出ては入りを繰り返す。簡単に購入できないことは予想どおり。むしろなかなか売り切れにもならないことに光明を見出してもいた。30分ほどが経った頃、親子・女性エリアが売り切れとなる。
「やはり無理なのか……」
そう思いながらも、指はクリックを続ける。カチッカチッカチッ……。
不意に、それまでとは異なる画面が表示された。
来た!
てな具合に土曜日の指定席のチケットを購入することができた。諦めない者は報われるのだ。
で、当日である。
ライブグッズを購入したことなどなかった私が、グッズ販売の長蛇の列に並んでいた。ライブが始まる何時間も前に。
主な目的は推しメンタオルをゲットすることだ。
乃木坂のライブには、メンバーの名前が入ったタオルを持って行った方がいい。タオルを振り回すよう煽られる曲もあるし、推しメンにアピールするアイテムとしておそらく有用。2年前の経験から私はそのことを感じ取っていた。あと、最近家のタオルがへたってきているから、実用性もある。
何も会場で買わなくてもオンライン販売があるが、私がチケットをゲットした時点では、配送がライブに間に合わなかった。タオルが欲しければ会場で買うしかなかった。
当日は土砂降りであった。降水量が10ミリを超える時間帯もあったと思う。これだけの雨ならば、人もまばらでスムーズにグッズを購入できるのでは?とも思ったが甘かった。雨が降っているからといってグッズ購入を諦めるような者たちは、一人としていなかった。味の素スタジアムの外周はおよそ1キロメートルほどらしい。グッズ販売の列はスタジアムの周囲を取り囲むようにできていたから、列の長さも同じくらいだったと思われる。しかも、グッズ販売の列に並行して、生写真の列もできている。
繰り返しになるが、当日は土砂降りであった。傘が何の意味もなさない。頭だけは守ってくれるが、靴やズボンは当然のこと、カバンもシャツもずぶ濡れである。それでも人々は並び続ける。ライブグッズを買うために。いったい何が人々を支えているのか……。世界はそれを愛と呼ぶんだぜ。ということなのか?
私の席はほぼ見切れ席みたいな場所にあった。ステージの真横。中央にあるセットは見えない。しかも、スタジアム内で一番高いエリアにある。
屋根で雨から守られるのが救いか……と思ったら、公演が始まる頃には雨はとっくに止んでいた。
舞台裏がちょっと見えるのもメリットだ!と思っていたが、公演が始まる前にでかいカーテンみたいなシートで隠されてしまった。
最悪のようにも思える席。
だが、ここを最高の席にしてくれるのが乃木坂46なのである。
なんと、我が席からおそらく5メートルほどの距離に弓木の奈於ちゃんが現れたのだ! (あ、もうライブ始まってます。)しかも、割と長い間(一曲分くらいだったか)、一箇所に留まって周囲に愛想を振り撒いている。
すごい……実在するんだ……。乃木坂46は実在アイドルなんだ……。
この感動でしばらく生きていける。
これまで私はアンダーライブや期別ライブだけで乃木坂のライブを分かった気になっていた。それが間違っていたことを思い知らされた。
やはり全メンバーが揃うとすごい。
みなさん、知ってましたか? 和ちゃんの赤い『おひとりさま天国』とアルノの青い『Actually…』をぶつけると、紫の『きっかけ』になるんです。*1メドローアかよ。「いや、虚式茈じゃないのかよ」というツッコミがあるかもしれない。しかし、乃木坂の五条悟は遠藤さくらだから、虚式茈はあえて避けて、メドローアを引用した方が適切な気がする。遠藤さくらが五条悟だとしたら、賀喜遥香は夏油傑なのか。そうだとすれば、和ちゃんが乙骨でアルノが虎杖なのか……そんな妄想もした。5万人を超えるであろう観客の中でそんなことを考えていたのは私だけだろうか。そんなことはあるまい。
『きっかけ』といえば、今回のライブでは『きっかけ』に限らず、可能な限り生歌でいこうという気概を感じたのは私だけであろうか。踊りが大人しめだったりする曲ではちょくちょく生歌だった気がするのだ。やはりライブではできるだけ生歌を聴きたい。気のせいでなければ、ぜひ生歌多め路線を追求していってもらいたい。
頂上決戦の後に現れるのは、6期生。『タイムリミット片想い』はやはり名曲。なんか分からんけど、妙に泣ける。声を出したら決壊しそうだったので、この時ばかりは沈黙してスティックライトを振ることしかできなかった。
そんなこんなで一応ライブが終わってからの、アンコール。ここで私のテンションは最高潮に達する。
さっき弓木が現れた位置に、今度は菅原咲月が出現したのだ!
それだけじゃない!
さっちゃんと交代して!
な!
な!
なんと!
井上和ちゃん降臨!!!!!!!!!!!!!!!!
神席じゃねーか。
私は公演前に買ったタオルを掲げて必死にアピールした。無我夢中とはこのことを言うのか。
正直、和ちゃんが私を視認したようには見えなかった。だが、和ちゃんの視界に入ることができたかもしれない。たったそれだけのことで、私はこの日一番というか、今年一番というか、もしかしたら人生で一番、元気になってしまったかもしれない*2。
……そうか。
私は生のアイドルを見に来たんじゃない。アイドルに私を見てもらいに来ていたんだ。
最高の気分を保ったまま、ライブは締め括られる。オリンピックの開会式と見紛うような盛大な花火が乃木坂46誕生13周年を祝福していた。
ライブの前日。
YouTube上で「みんなで見よう!シングルMV一気見スペシャル」と題した緊急企画が催された。
そこで久々に1期生がいた頃のMVを観たのだが、驚いた。
「あれ? 1期生ってこんなに綺麗だったっけ?」
そんなことを思った。乃木坂46の全盛期は今だと思っている私にとって、これは衝撃的なことだった。
白石麻衣、西野七瀬、橋本奈々未、松村沙友理、生田絵梨花、齋藤飛鳥などなどなどなど……今見てもやっぱり綺麗だ。というか、今のメンバーより大人っぽく見える。『インフルエンサー』で白石と西野が放つ迫力、『シンクロニシティ』や『Sing Out!』のように、あえて装いはシンプルに統一してパフォーマンスで魅せるMV……今の乃木坂にはないものに見える。
と、思ったら、『帰り道は遠回りしたくなる』の次の次が『夜明けまで強がらなくていい』。そうか、遠藤さくらは西野七瀬と入れ替わりに現れた新世代のヒロインだったのか!と今さらながらに気付く。しかも、次のシングルは『しあわせの保護色』。白石までがここで抜けるのだ。こうやって一気見すると、当時感じていた以上に激動だ。
急激な変化は『ここにはないもの』で一旦落ち着く。『人は夢を二度見る』からの『おひとり様天国』でついに5期生が本格的に現れるのだが、ここでようやく私は安心する。
「やっぱり井上和ちゃんは美人さんだわ……」
乃木坂の全盛期が今だという感覚は、決して1期生や2期生の記憶が薄れたことによる錯覚などではない。並べてみてもやはり今の乃木坂は素晴らしい。
そして、思った。
昔の乃木坂46と今の乃木坂46のどちらが優れているとか問うことが無意味だ。昔の乃木坂46から今の乃木坂46に至るまでの変化、これこそが乃木坂46なのだ。乃木坂というコンテンツは、静止画ではなく動画なのだ。アニメーションを見て、1枚目の絵が優れているとか、349枚目の絵が優れているとか論じることに全く意味はない。個々の絵ではなく、何枚もの絵が連なって見せる動き、変化にこそアニメーションの本質があるからだ。
アルノが言った「今の乃木坂46が最強」という言葉は100%正しい。「今の乃木坂46」とは、今この瞬間にも変化し続けている乃木坂46のことだ。そして、これまで積み上げてきた変化の上にいる乃木坂46のことだ。動画としての乃木坂46のことだ。
乃木坂46は常に、今が最強なのである。少なくとも、そう宣言できるメンバーがいる間は。
ちなみに、私が買ったグッズは、乃木坂スティックライト、井上和と中西アルノのタオル、中西アルノのサッカーシャツです。