たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

アーティストの単独ライブに行ったら新しい世界が開けた件

 甲府で催された緑黄色社会の単独ライブを見に行った。なんとなくツアーのタイトルにもなっている曲のMVを貼ってみる。


www.youtube.com

 わりとステージに近い席だったし、観客の熱量は高いし、なにより緑黄色社会のパフォーマンスは素晴らしいし……と良いライブだったのだが、私が書きたいのは金の話である。

収益に関する妄想

 アーティストの単独ライブに行くのは3回目(1回目は藤井風@さいたまスーパーアリーナ、2回目はback number@東京ドーム)だが、多くの人が集まっているのを見ると、ついつい(性能の悪い)そろばんを弾いてしまう。

 会場はYCC県民文化ホール。キャパシティは1,989席。チケット代は6,600円。ざっくりと計算すれば、チケット代による収入は約1,300万円だ。

 これに対するコストとしては、まず会場代がある。YCC県民文化ホールのサイトで料金表は見られるが、計算が面倒なのでだいたい100万円とする。

 次に人件費がある。見た感じでは見えるところには20人もいなかったように思えるが、裏方も含めて多めに40人として考えよう。一人あたり1万円の日当が発生すると仮定すると、40万円だ。

 その他、機材のレンタル(?)代だとか搬入代だとか、専門的なスタッフの給与とか諸々で100万円としてみよう。(相場も構成も分からないので本当に大まかだ。)

 そんな風にして考えてみると、だいたい一回のライブあたりで1,000万円ぐらいの利益になるか。

 これにグッズ売上が付いてくる。なんとなくで、約2,000人のうち三分の一が一人あたり3,000円を使うと仮定しよう。収入は約200万円。利益率を低めに10%~20%と見積もって……とりあえず無視してもよさそうだ。

 ……みたいな妄想が頭の中で展開される。実際にはもっと利益は少ないだろうが、緑黄色社会のメンバーが一回あたりのライブで受け取れるギャラは一人につき100万円程度と考えてそんなに大外れではないのではないだろうか。このツアーは全日程で20日間あるので、通して考えると2,000万円。CD売上やテレビ出演などもあるから、リョクシャカメンバーの年収は一般のサラリーマンよりはだいぶ高いことが予想される。

イメージと集客力の相違

 が、緑黄色社会は紅白にも出演したアーティストだ。露出は少なくないし、今を代表するアーティストの一角であることは間違いないだろう。「それでこんなもんか……」という感じはする。それにアーティストなんていつ売れなくなるかも分からないのだから、売れている時に一生分を稼いでおきたい。

 言うまでもなく、ライブの収益性は箱の大きさに依存する(はず)。YCC県民文化ホールには2,000人までしか入れられないが、日本武道館なら15,000人まで収容できる。単純に考えれば、同じ一回のライブでも日本武道館なら7倍以上の収益が見込めるわけだ。ちなみに、「山梨だから席数が少ないんでしょ」と思う方がいるかもしれないので述べておくと、緑黄色社会が今回のツアーで東京会場として使うのはキャパ5,000人の東京国際フォーラムだ。

 参考として、さいたまスーパーアリーナは30,000人、東京ドームは50,000人超、日産スタジアムは70,000人超だ。ここらへんがおそらく日本の頂点だろう。YCCも東京国際フォーラムもさほど大きくないことが分かる。東京ドームを埋められるアーティストがあえて東京国際フォーラムを会場に選ぶことはまず考えられないから、会場の規模はほぼ確実にアーティストの集客力を表しているに違いない。(ついでに書くと、チケットが抽選なのは応募者総数を把握できて次回の会場選びの参考にできるからだと想像できる。)

 まあもともと緑黄色社会の人気が日本トップクラスだとは思っていない。なんせ緑黄色社会YouTubeの再生数は(Official髭男dismあたりと比べると)それほど多くない。最も再生されている『Mela!』のMVが8,000万にも届いていないのだ。そのぐらいの数字だとこれぐらいの集客力なのかねー(´・ω・`)……と、つい思ってしまいそうになる。

 しかし、他のアーティストに目を向けてみると、たとえば乃木坂46のMV再生数もそれほど多くはない。『インフルエンサー』の再生数が8,000万強。緑黄色社会とさほど変わらない。が、乃木坂46日産スタジアムでライブを開催している。

 「乃木坂は女体目当ての客が多いから……」という反論があるかもしれないので、藤井風も引き合いに出そう。藤井風の『きらり』MVは1億再生に満たないが、キャパ3万のさいたまスーパーアリーナを埋めている。(藤井風もイケメンじゃないかと言うかも知れないが、それを言ったら長屋晴子だってわりと美人だ。)

 しかも、収益性を決めるもう一つの大きな要素であるチケット代は、藤井風も乃木坂も9,000円以上だった。上述のとおり、緑黄色社会の今回のツアーは6,600円である。集客力の差は圧倒的だ。

 とはいえ、1,000万以上の再生回数の差があるわけで(あるいはMAXではなく平均再生回数を比較すれば)、数万人程度の集客力の差は容易に説明できるのではないか?という考えもよぎる。そこで、藤井風よりも圧倒的にYouTubeの再生回数が多いOfficial髭男dismについて調べてみると、2022年のツアーでは武道館を会場にしている。さいたまスーパーアリーナ日産スタジアムを会場にはしていないのである。(ただし前年にはさいたまスーパーアリーナで公演していることは申し添えておく。)

 というわけで、YouTubeのMV再生数と集客力はあまり関係がなさそうだ。

 明確に数字として人気の度合いを測れるYouTubeが、ライブの集客力を測る指標には必ずしもなりそうもないという事実。我々がイメージするアーティストの華々しさと、現実の彼らの集客力は激しく乖離しているのかもしれない。

ライブ会場という物差し

 アーティストの集客力を決定する要素はなんなのか?が気になるが、これについて語れるほどの知見はない。そもそも上に書いたこともけっこう的外れな可能性もなくはない。あるいは、界隈の人にとっては「何を当たり前のことを」的な内容かもしれない。ので、これ以上は議論を展開しないし、できない。

 何が言いたいかというと、去年までライブに行ったことのなかった私にとって、これまではアーティストの実力を測る物差しは「良い曲を作っているかどうか」と「CD売上や配信サービスの再生数」しかなかったわけである。ところが、ライブに行ってみて初めて、会場という物差しが存在することに気付いた。世界の見方が変わった瞬間である。

 言うまでもないが、集客力や会場がアーティストの価値と直結するわけではない。あなたにとってのアーティストの価値は、その人の音楽があなたの心を震わせるかどうかで決まる。それに小さい箱の方が観客とアーティストの距離は近いし、熱心なファンの密度は高いはずだ。もちろん大きな箱の方が金銭的な要因と空間的な要因により演出の幅を広げられるから、金の問題を度外視すれば(=観客にとっては)、それぞれ一長一短だ。でも、アーティストにとって金はかなり重要な問題だろう。

 面白いのは、ライブ会場に関する情報は興味を持って調べないとなかなか目に入ってこないことだ。もしかしたら、あなたの推しはあなたが思っているほど懐が潤っていないかもしれない。応援しているならお金を出してあげた方がいいかもしれないし、布教したほうがいいかもしれない。別の言い方をすれば、人気に見えるアーティストでも、意外と近くで見られるチャンスがあるかもしれない。のんびりしているとスターダムを駆け上がって近くで見るのが難しくなってしまうかもしれない。そして、ライブに行くことで、推しの新たな一面が見えてくるかも知れない。

 いやー、ライブって面白いもんですね。と思った次第である。