たぬきのためふんば

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『ソフィーの選択』 選択といえば恋愛シミュレーションゲームです。

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その24 ソフィーの選択

 南部出身のスティンゴはブルックリンに上京すると、ホロコーストを生き延びた美しいポーランド人の女性とユダヤ人の嫉妬深い男性のバカップルとの間に深い友情を結ぶ。

 

 『ソフィーの選択』は1982年の映画。メリル・ストリープは映画デビュー5年目にして二度目のアカデミー賞を受賞する(一度目は『クレイマー・クレイマー』にて助演女優賞を、この映画では主演女優賞を受賞)。ちなみに、メリル・ストリープは2011年にも主演女優賞に輝き、今のところ3回アカデミー賞を受賞している。……化け物か!

 なお、これまでの最多は、主演女優賞を4回受賞したキャサリン・ヘップバーンなんだとか。ただし、ノミネート数ではメリル・ストリープが断トツの21回(!!)。

 

 『ソフィーの選択』は『フィラデルフィア物語』式の三角関係を描いた映画だ。「ソフィーの選択」とはどちらの男を選ぶかという恋愛シミュレーションゲーム的選択のこと「でも」ある。

 語り部はスティンゴなので、ソフィーと彼女の恋人ネイサンとの関係は相当深くある必要があるンゴ。「もうこいつらくっつきまっせ~」というところに割って入るのが三角関係の醍醐味だからだ。『フィラデルフィア物語』を始めとしたモノクロームなハリウッド映画では、「もうこいつらくっつきまっせ~」状態を表現するために乱用されたのが婚約であった。ところが、『ソフィーの選択』では婚約という伝家の宝刀を使わずに、カップを使うことにしたようだ。ソフィーとネイサンはことあるごとにキスを繰り返し、スティンゴに気まずい思いをさせるンゴ。バカップルというのはひたすらイチャイチャし続けるだけでは表現することができない。むしろ何度も喧嘩してこそ真のバカップと言える。どれだけの回数を破局しようが、不死鳥のように蘇る。それがバカップルなのだ。『クレヨンしんちゃん』のミッチーとヨシリンもよく喧嘩をしているのはそういうわけである。

 この喧嘩のきっかけを作る役割を背負わされたのが哀れなネイサンである。このネイサンという男、やたら情緒不安定で機嫌が良い時には少し変わっているもののなかなかの好青年なのだが、機嫌が悪いときには嫉妬に狂うモンスターと化す。『風と共に去りぬ』で見てきたように、熱々カップルの破局の原因はいつだって嫉妬なのである(いや、あれは熱々ではなかったか……)。

 スティンゴと二人の関係も、スティンゴが二人の喧嘩に出くわしたところから始まるンゴ。この時、ネイサンはスティンゴを口汚く罵るンゴ。翌朝になるとネイサンは愉快な青年に戻っていて、二人というか三人は深い友情を結んでいくことになる。要するに、最悪なファーストインプレッションから始まる関係ってやつである。恋愛漫画の定石だ。

 スティンゴは(友情を結びつつ)このバカップルに割って入らなければならないのだから大変であるンゴ。ただの友人からいかにして恋人候補へと昇格するのか? ここで繰り出されるのが秘密の共有である。

 ↓のサイトを見れば分かるように、現実の恋愛でも秘密の共有は関係を深めるテクニックとして紹介されているようだ! いわんやハリウッド映画をや。

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 スティンゴはひょんなことからソフィーとネイサンの秘密を知ってしまうことになるンゴ。それは二人がお互いに対しても秘密にしていることだから、一歩先んじたといっても過言ではない。

 ソフィーは幸せな家庭をナチスによって破壊されたと語ってきたが、なんと、ソフィーの父親はナチス信奉者でホロコーストの支持者だったことが判明するのだ! なんというコペルニクス的転回! もちろんソフィー自身の思想とは関係がないものの、もしこれがユダヤ人でナチスへの憎しみに燃えているネイサンにバレたらいったいどうなるのかは予測ができない。

 一方のネイサンは、実は統合失調症で、ファイザーでの役職は研究職ではなく図書館での閑職をかろうじて与えられているに過ぎない。それだけならまだしも、コカイン漬けのヤク中だというではないか。

 二人の秘密を知ってもスティンゴの愛は揺るがないンゴ。スティンゴに見守られた二人はついに婚約することになるンゴ。しかし、お互いに秘密を抱えたまま結婚して果たしてハッピーエンドといくか? 現実はさておき、映画ではそうはいかない。ここに来て、ネイサンの狂気は一段と深まっていくことになる。ある朝、またしてもスティンゴとソフィーがズッコンバッコンしているという妄想に囚われたネイサンは銃を持ち出す。電話越しに聞こえる発砲音。さすがのスティンゴとソフィーもこれには逃げ出さずにはいられないンゴ。

 ようやくチャンスをつかんだスティンゴは、思い切ってソフィーにプロポーズをするンゴ。ソフィーはついに選択を迫られる。Which your choice!?

 ソフィーは結婚はできないと告げ、彼女の拭い去り難い過去を語りだす。それはやはりアウシュヴィッツでの出来事。二人の子供を抱えていたソフィーは、ドイツ兵にどちらを生かすか選べと選択を迫られる。選べないと抵抗するソフィーだが、いよいよ二人とも連れ去られようとしたところで、「選択」をしてしまうのであった……。

 究極の選択。ソフィーはどうすべきだったのか。選ぶべきだったのか、選んではいけなかったのか。それはソフィーの罪なのか、そうじゃないのか。一つ言えるのは、この出来事がソフィーの心に突き刺さっていつまでも抜けることなく罪悪感が溢れ出てくるということだ。

 スティンゴとソフィーは辛い記憶から逃れるために肉欲に溺れていくンゴ……。これがスティンゴの筆下ろしとなったンゴ……。

 目覚めると、ソフィーの姿はすでにない。ネイサンのもとに戻ったのだ。スティンゴがブルックリンに戻ると、二人は青酸カリで心中していたンゴ。スティンゴは自分探しの旅を終え、故郷に帰ることにするンゴ。

 というわけで、『ソフィーの選択』は失恋エンドに終わる。むしろ、別れることによってソフィーはスティンゴの心の中に青春の幻影として永遠に生き続けるンゴ……。

 

 シナリオライターがこの映画で一番描きたかったことは明らかに、三角関係ではなく、アウシュヴィッツでソフィーが迫られた選択だ。この選択に重ねるために、選択と密接な結びつきがある三角関係を持ってきたわけである。これによって、ソフィーの選択が彼女自身に与えた影響を、これでもかというくらいに劇的に描くことができる。なんという構成力。