たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

京都旅行記

 先日、京都に行ってきた。ので、備忘録を記す。

 ちなみに、以下で言う「京都」とは主に京都市上京区下京区東山区を指している(京都盆地の京都駅より北側のエリア)。

京都旅行は選択肢との戦いだ

 京都旅行には独特の難しさがある。私が二泊三日(+2時間くらい)の旅で廻ったのは次のスポットだ。

 ちなみに移動手段は徒歩&公共交通機関

 我ながらけっこう頑張った。めちゃくちゃ歩いた。最初の一日こそ1万8千歩弱だが、次の二日は2万5千歩(距離にして18km)を超えた。まあ運動している人なら余裕かもしれないが、普段一日に8千歩弱ぐらいしか歩いていない人間がこれだけ歩くとかなり足腰が辛い。しかも、石畳や階段が多いので数字以上のきつさがある。一人旅だからこそ実現できたプランといっても過言ではないかもしれない。(まあ私はバスと徒歩で所要時間が同じ場合、徒歩を選ぶ傾向があったから、これだけ歩く羽目になったという面はある。バスを有効活用すればこんなに歩かなくても済んだかもしれない。)京都に行くなら一ヶ月前からスクワットをすることをオススメする。

 しかしである。問題は、これだけ巡ったにも関わらず、京都の定番スポットを網羅できていないということだ。京都の定番スポットといえば、他にも、慈照寺銀閣寺)、伏見稲荷上賀茂神社下鴨神社平等院……などなどがある。

 そう、京都は見どころが多すぎるのである。そもそも旅行において全ての観光スポットを巡りきれることはなかなかないかもしれない。しかし、それはだいたいにおいて観光スポットと観光スポットの距離が離れているためであることが多い。京都の場合は、観光スポット同士が近い場所にあるにも関わらず、諦めざるを得ないのである。

どこに行くかは地図を見ながら決めよう

 目的地の取捨選択が他の観光地に比べて難しい京都。明確にどこへ行きたいというのがない場合、かなり迷ってしまう。どのようにして行き先を選べばよいだろうか? 私のやり方を紹介する。

 まずはなんとなく「ここに行ってみたいなあ~」と感じるスポットを思い浮かべよう。いくつかあるはずだが、その中でも一番っぽいものをとりあえず選んでみる

 次に、地図を見よう。京都には至るところに観光スポットがある。ということは、行ってみたい場所が一つ定まれば、近所に観光スポットがある確率が高い。その中に行ってみたい場所があれば、目的地に追加する。さらに、そこから近い観光スポットを探す。これを何回も繰り返していくと、自ずとルートが形成されていく。

 最後にやることは時間の制約を考慮に入れることだ。神社仏閣の場合、9時~17時が開いている時間帯である。1スポット1時間かかり、各スポット間の移動時間が30分、食事に1時間として計算すれば、一日に巡れる限界はだいたい4,5箇所くらいになる。これを考慮したうえで、上で作ったルートから優先順位の低いスポットを削ぎ落としていくと、観光プランが完成する。

私の場合

 私の場合、「とりあえず清水寺には行くか~」とまず考えた。清水寺の南には三十三間堂が、北には八坂神社がある。八坂神社のさらに北には南禅寺があり、その西側には京都動物園がある。さらにこのエリアは電車で二条城と繋がっている。二条城からは錦市場も近い。こうして実に効率的に定番スポットを巡れるルートが完成した。だが問題が一つ。一日では時間が足りないのだ。

 私のホテルは河原町にあった。河原町はその名の通り、鴨川の河原にある。チェックインは午後2時頃だった。5時まで残り3時間しかない。移動に時間をかけていられない。というわけで、最も近い三十三間堂を最初の目的地とした。そこから清水寺を経て、八坂神社を初日のゴールとした。八坂神社の前には華やかな商店街があるので、夕飯選びにも事欠かない。

 そして翌日には一日かけてルートの残りの部分を巡った。河原町からは錦市場も近い。そのため、錦市場→二条城→南禅寺平安神宮→昼食(グリル小宝*1)→京都市動物園京都水族館と巡った。

 最終日は、最初に重たい荷物を京都駅のコインロッカーにぶちこむことが最初のミッションだった(京都に行った本来の目的は旅行ではなかったから、荷物が重かった)。だから京都駅を始点としたルートを構築することになる。つまり、どこにでも行きやすい。京都に行ったら、やはり金閣寺には行っておくべきか……ということで、金閣寺に行くことにした。金閣寺の近くには龍安寺がある。龍安寺は(金閣寺よりは)駅に近い。嵐電で嵐山に行く(前日に動物園→水族館でバスを利用した際、激混みだったため、バスより電車を使ったほうがよいと判断した)。嵐山からはJRで京都駅に帰りやすい。少し早めに京都駅に着いたら、東寺に行けばいい。東寺の目玉は五重塔だから、5時を過ぎても外から眺めることができる(実際にそうなった)。東寺の近くにはミスター・ギョーザ*2があるから夕飯はそこで取ればいい。完璧なプランである。疲れることを除けば。

京都で学んだこと

 今回、高校の修学旅行以来初めて京都に行ったわけだが、大人になったからこそ気づくことがある。というわけで、今回の旅行から学んだことを書いていきたい。

 京都市には多い時で年間5000万人の観光客が訪れる。観光消費額は1兆3000億円を超えた年もある。そのうち神社仏閣を訪れる者は90%を超え、さらにそのうち90%は満足している。*3

 なぜ京都の神社仏閣はこれほど人を引き付けるのか? 私は一つの仮説を得た。それは古今東西、人間を引き付けるものは次の二つだということだ。

  • デカい
  • 派手

デカいは正義

 京都の神社仏閣は大きいものが多い。しかも、それぞれ多種多様のデカさがある。見ていこう。

清水寺

 強豪ひしめく京都市の人気スポットの中にあっても格別の人気を誇る清水寺。特徴はやはりなんといっても、「清水の舞台から飛び降りる」でおなじみの舞台である。

 地図を見れば分かるが、清水寺は山の中にある。本堂は崖から飛び出るように作られており、清水の舞台は太いケヤキの柱に支えられている。このような建築様式を懸造りというが、これが独特の迫力を生んでいる。

四階建てのビルぐらいの高さがあるそうですよ

 ちなみに、なぜわざわざ崖に頑張って寺を建てるのかといえば、信仰対象としての岩を祀るためらしい。清水寺の場合も、岩ではないが、音羽の滝やら霊木やらが信仰の対象としてあったようである*4

 ともかく、清水寺はデカい。そこからの景色も、森の向こうに都会が覗けるという構図が良い。

清水寺(舞台ではない)からの景色

 ついでにいうと、清水寺の前は観光客向けの門前町を形成していて、歩くのが楽しい。梅山堂の湯葉チーズの串揚げが美味しかった。京都一の人気スポットに挙げられるのも納得だ。

東本願寺

 東本願寺は京都駅から徒歩5分の場所にある寺で、浄土真宗真宗大谷派の本山である。京都タワーから見下ろしても、一際目を引く寺院だ。

 この寺、まず門がでかい。三門の高さは日本一らしく(世界でもトップクラスだとか)*5、かなりの威容だ。

デカすぎて写真に収まりきらない

 そのうえ、御影堂もでかい。これまたやはり世界最大級の木造建築らしく、足を踏み入れれば目の前に広がるのは一面の畳。これなら日本中からお坊さんが来てもくつろげますねえといった感じ。平日だったこともあってか、人も少なく、都会のど真ん中にありながら静謐な雰囲気があり、旅の疲れが癒される。

南禅寺

 東本願寺を紹介したら、南禅寺を紹介せねばなるまい。臨済宗の寺院は格付けがされており、京都の寺でトップ5に数えられるものを京都五山という(鎌倉五山もある)。南禅寺はそのうちのトップ……ではなく、京都五山鎌倉五山のさらに上として定められている。トップオブトップ。まさに別格。カッコいい……。

 この南禅寺もやはり三門がデカい。京都三大三門のうちの一つだ(東本願寺のは三大に入れられたり入れられなかったりするようだ)。三門のそばにそびえる石灯籠もでかく、これは東洋一のサイズだそうな。

 高さでこそ東本願寺に劣るものの、南禅寺の三門の特徴は上に登れることだ。歌舞伎狂言『楼門五三桐』で石川五右衛門はここからの景色を「絶景かな」と述べる。私も絶景過ぎて写真を撮るのを忘れてしまったらしい。階段はかなり急かつ狭いので、御婦人方にはパンチラに御注意いただきたい。

 南禅寺は法堂もかなり立派で、天井に描かれた龍の絵は大迫力だ。あと水路閣も人気。

東寺

 東本願寺ほどではないが駅チカの観光スポットには東寺もある。東寺の目玉はやはり五重塔。木造建築としては日本一の高さだ。東京タワーが立つまで、日本の塔といえば東寺タワーのことだった(妄想)。5時を過ぎて門が閉じても、外から拝めるからお得感がある。

外から見ても迫力は伝わる

派手も正義

 やはり人間は派手なものが好きだ。デカくなくても派手さで勝負することができる。

金閣寺

 京都のド派手建築の筆頭といえば、やはり鹿苑寺金閣金閣寺)だ。

金閣寺

 金箔が貼られた舎利殿は派手すぎる。枯山水を愛でる禅宗の寺とは対照的……と思いきや、鹿苑寺臨済宗の寺らしい。鏡湖池に浮かぶように立つ金ピカ御殿。一階が地味めなだけに、まるで宙に浮いているようにさえ見える。しかも、池に金ピカ御殿が映ることで、一枚の金箔が実質二枚の輝きを放っている。成金趣味に見えて、その裏には最小経費で最大の効果を挙げようという努力があったのかもしれない。

 ちなみに、鹿苑寺金閣くらいしか見どころがないので、所要時間が短いのも長所だ! 

三十三間堂

 三十三間堂といえば、1001体の千手観音像だ。「千手観音像を千体集めたらすごくね?」というバカみたいな発想だが、やはり実際に並べると見ごたえがある。千手観音像だけでなく、その脇に侍る二十八部衆像たちもポーズがなかなかイカしてる。漫画家やアニメーターの諸氏にはぜひ参考にしていただきたいところだ。

 これだけの千手観音像を均等に並べることができる本堂はかなりデカい。その桁行(長方形の長辺のこと)は120メートル近くあり、これは木造建築としては日本最長どころか世界最長らしい。だから三十三間堂はデカさも備えている。最高じゃないか。

天龍寺

 三十三間堂は今は地味な色をしているが、昔はカラフルだったらしい。三十三間堂にかぎらず、塗料は経年劣化で剥がれてしまう。

 多くの寺院がかつての色を失う中で、色をいつまでも失わない寺院もある。庭園が自慢の寺院である。

 京都の寺院で庭といえば天龍寺である。天龍寺の庭園は美しい。本当に美しい。何がどう美しいかは説明しづらいが、とにかく美しい。この庭園をじっくり眺めるために座れる場所がたっぷり用意されているのも最高です。

(本当に良かったから無理やり入れたけど、別にそんなに派手ではない。)

雨の天龍寺

人が多い嵐山の中で落ち着ける癒やしスポット
二条城

 二条城は二重の意味で独特な観光スポットだ。

 京都にはたくさんの見所があるが、歴史的建造物となると圧倒的に神社仏閣が多い。対して、二条城は城である。故に設計コンセプトが異なる。しかも、二条城の主な役割は徳川幕府のお殿様が上洛した際の居所だ。全国にある城は当然のことながら戦闘に特化している(はず)。一方で、二条城にはその色合いは薄い。その意味で、二条城は城として見てもなかなか異色だ。

 二条城の役割は将軍の居所なわけだが、将軍となると家でただリラックスできるわけではない。将軍のもとには様々な客人が訪れる。だから二条城は客人を接待する機能に重きを持たせて設計されているのだ。

 二条城に入ってまず圧倒されるのは唐門である。これほど派手な唐門は他ではみられない。徳川幕府の権威を感じさせる。

城には珍しいきらびやかさ

 戦国時代を勝ち抜いて天皇を抑えながら太平の世を築いた徳川幕府にとって、客人を接待するとは徳川の権力を可視化することにほかならない。二の丸御殿に入ると、そのコンセプトがよく分かる。遠侍の襖に描かれるのは獰猛な虎の絵だ。ここで待たされた武士は畏怖を感じたに違いない。大広間にも種々の工夫がある。将軍がいる一の間は、家来が座す二の間より一段高くなっている。天井も含めて。二条城はデザインの意図が分かりやすいので面白い。

世の中ね金なのよ

 デカいと派手が大事なのは分かったが、これは普通の人間が作れる代物ではない。やっぱり大僧正はすげえや!という話でもない。デカい箱を作るには莫大な資金が必要なはずで、いかな大僧正といえどそんな金を持っているはずはない。偉大な寺院の背景には必ずビッグなスポンサーがいる。延暦寺には桓武天皇肖像画が飾られていたし(別日で延暦寺にも行った。)、東本願寺でも徳川家康から土地の寄進を受けたエピソードが解説に書かれていた。当事者はスポンサーの大切さをよく認識している。専門用語でスポンサーのことを開基というそうだ。運営を任された人を開山という。

 というわけで、私が行った場所のスポンサーを書いていく。

 やはり昔は金持ち=権力者だったようで、だいたい天皇か将軍が出資しているようだ。

 ちなみに、寺の拝観料の相場はだいたい600円くらいだが、二条城の拝観料は1300円だった。高い。だが、これは二条城がぼったくりなわけではなく、両者のビジネスモデルの違いではないかと推測する。

 二条城は城だから、拝観料ぐらいしか金を払う場所がない。二条城の運営にかかる費用はおよそ12億円で、約120万人の利用者が訪れるが*6、全員に均一に課すわけではないから大人の拝観料が1300円になるということらしい*7

 一方で、寺社には賽銭がある。今流行りの(まさに文字どおりの)投げ銭ビジネスだ。さらにお守りという名のグッズ販売も行っている。これが二条城に比べて寺の拝観料が安い理由ではなかろうか。

 とはいえ、それだけで二条城との差額である700円を上回る一人当たり収入があるかといえば疑わしい。国宝の維持費は別に国が払ってくれるわけではないらしいから(金を出せないときは補助金をくれるようだが)、二条城に比べて運営費が安いということもなかろう。少なくとも、有名な寺のお坊さんたちがウハウハということはなさそうにも思える。(維持費のことを考えると、清水寺みたいな工事費用がとてつもなくかかりそうな寺よりも、庭園が売りの龍安寺天龍寺の方が運営はしやすそうな気がする。)

歴史的建造物は古い建物ではない

 京都の歴史的建築物の看板を読んでいると、十中八九、火事やらなんやらで一回以上は滅びている。なんなら昭和に入ってから再建されたものもある。少し残念な感じがする。古い建物だから見に来たのに、実際にはそんなに古くないのだから。

 物質的な見方しかできないとそういう考えに陥る。足利義満の時代に建てられたオリジナルこそが金閣寺で、それ以外の金閣寺に価値はないのだとしたら、今ごろ金閣寺は存在しない。金閣寺だけじゃない。ほとんどの歴史的建造物が日本には存在しなくなってしまう。

 しかし、今も金閣寺は間違いなく存在する。ということは金閣寺の本質は足利義満が建てさせたとかそういうことにあるのではない。金閣寺を見て感動し、金閣寺を永遠に残したいという、人の想いの中にこそ本質がある。だからこそ、歴史的建築物は現代に残っているのだ。京都は平安時代からの遺産で細々と食いつないでいるわけではない。価値あるもの(=デカいものと派手なもの)を後世に残したいという今の人々の努力が、世界中から観光客を呼んでいるのだ。

 「行く川の流れは絶えずして、しかも元の川にはあらず」。再建という行為を通じて時代を超えて寺が残っていく。このプロセスは実に仏教的かもしれない。

旅行は楽しい

 コロナ禍に入る直前にニューヨークへ旅をしたが、それ以来旅行はしていなかった。特にそれを苦痛にも思っていなかったし、いつか旅行しない生活が当たり前になっていった。

 しかし、久々に旅行をしてみると、やはり楽しい。観光だけじゃない。新幹線の改札を通ると、自分はこれから異世界へ行くんだなという感じがする。ホテルに泊まると、シーツも浴室もピカピカで心まで洗われるようだ。

 休日は引きこもってばかりだったが、定期的に遠出したり散財してみたりするのもいいかもしれないな……と思うめたたぬきであった。

*1:京都で人気の洋食屋。2時半頃でもまだ行列があった。値段は高いが、量は多く美味い。

*2:老舗の餃子屋。餃子を注文した5秒後にはテーブルにできたての餃子があった。

*3:https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/cmsfiles/contents/0000299/299871/honsatsu.pdf

*4:歴史 | 音羽山 清水寺

*5:境内のみどころ|真宗大谷派(東本願寺)

*6:コロナ禍で減っているだろうが、これは京都でもトップクラスの数字のようだ。→https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/cmsfiles/contents/0000222/222031/28chousa.pdf

*7:https://nijo-jocastle.city.kyoto.lg.jp/wp-content/uploads/2022/04/2c3a978d108e2aed67b42e0b98f0eaac.pdf