ブログのネタがないので、乃木坂46のMVを見てみた。
まずは『好きというのはロックだぜ』。
直近の表題曲である。表題曲とは（たぶん）CDシングルのタイトルになっている曲のことであり、センターといえばだいたいこの曲においてセンターを務めている人物のことを指す。今回の（といっても発表からすでに二ヶ月経っているが……）センターは賀喜遥香。現在５期までいる乃木坂の４期生にして『君に叱られた』以来２回目のセンターだ。
このMVは夏休みに何をするかを悩む賀喜遥香の脳内を描いたものである。
一人の人間の人格をいくつかに分析するという試みは、古くはプラトンの時代には少なくとも行われていたが、近代に入ってからこれを精神分析学として発展させたのがフロイトである。（高校の倫理で学んだ気がする知識で書いているので鵜呑みにしないように。）
フロイトは精神について、欲望を司るイド、欲望を制御するスーパーエゴ、両者を統合するエゴの３つに分析する。このMVにおいては一見、複数のイドとそれらをまとめ上げるエゴである賀喜遥香が存在するだけで、スーパーエゴに当たる人物の姿は見当たらない。それも当然といえば当然だろう。今どき人格を複数に分けて考えるなどというのはもはや一般的なもので、フロイト心理学の専売特許ではないし、このMVがフロイト心理学を意識して作られているとは限らないからである。
だが、MVをよく見てみると、実は様々な場所にスーパーエゴが散りばめられていることが分かる。
このMV、四角形や三角形がやたらに目立つ。最初の場面からしてキッチンにあるものがやたらとカクカクしているし、カレンダーなどは四角形の集合体である。会議場も円卓を囲む形ではなく、四角く机を配置させている。部屋自体もどこかの倉庫であろうか、曲線的なものはほとんど見られないし、これはその他のシーンでも同じことが言える。たまたまだろうと思うかもしれないが、物欲人格たちの部屋を見ると、これが意図的なものであることが分かる。奥の壁際にかけられた服などのバックに、わざわざ四角い紙をぶら下げているのである。おしゃれ人間の間ではこのような装飾を施すのは常識、というわけでない限りは、この無意味な装飾にはなんらかの意図があると考えてよかろう。
四角形は言うまでもなく角張った印象がある。角張った人間といえば堅苦しい人間のことを指すように、四角形には何か拘束的な印象がある。そういう目線で見てみると、賀喜遥香の行動力人格ですら、室内でキャンプに興じていることに気づく。
そう、スーパーエゴの役割は賀喜遥香のイドたちを押し込めている部屋が担っているのである。
エゴであるところの賀喜遥香がスーパーエゴとしての部屋と暴れ回るイドとの調和を図った結果、賀喜遥香の脳内人格たちは空港へ移動する。空港はセキュリティの厳しい空間でありつつも、旅客を飛行機に乗せて遠くへ飛躍させる場所でもある。飛行機の旅も自由なように見えて、極めて精密に制御されたシステムに従って航行するものであるから、イドとスーパーエゴの調和を象徴するのにこれ以上ないモチーフと言える。
だからなんやねんと問われれば、なんなんでしょうね……としか言えないが、とにかく乃木坂メンバーの七変化が見られるので良いMVである。
ちなみに、このMVを見ながらずっと掛橋沙耶香ちゃんの姿を探している自分がいる。これを「君に会えるかもしれない次のカットが楽しみだ」状態という。
だが、このMVにも一つ欠点がある。林瑠奈がいないことである。
でも安心してほしい。林瑠奈成分は『ジャンピングジョーカーフラッシュ』のMVでたっぷり摂取できる。なんせこのMVで林瑠奈のポジションはセンターの横。三尊像でいえば脇侍の位置だ。というわけで脇にも注目したい。
林瑠奈を知らない人のために見分け方を教えると、上のMVで一番輝いているとあなたが思ったその人が林瑠奈である。
これでもまだ物足りないという人もいるだろう。
なんせ上２つのMVでは５期生が一人も登場しないのである（『ジャンピングジョーカーフラッシュ』は４期生の曲だから当たり前だが）。そういうときには『バンドエイド剥がすような別れ方』を見るといい。
先輩たちほど金のかかったMVではないが、その分素材の良さを楽しむことができる。YouTubeの再生回数では、表題曲の『好きというのはロックだぜ』を上回っていることから５期生のポテンシャルの高さがうかがえる。
ちなみにバンドエイドはジョンソン・エンド・ジョンソンが売っている絆創膏のことであるため、ニチバンのケアリーヴを貼った場合は『ケアリーヴ剥がすような別れ方』にしかならないからご注意いただきたい。
