たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

仕訳のルールを覚えるには

 

 簿記を学ぶにあたって、最初の関門は仕訳のルールだと思います。

  • 左が借方で、右が貸方
  • 資産が増加したら左(借方)に書く
  • 資産が減少したら右(貸方)に書く
  • 負債が増加したら右(貸方)に書く
  • 負債が減少したら左(借方)に書く
  • 純資産が増加したら右(貸方)に書く
  • 純資産が減少したら左(借方)に書く
  • 収益が取消になったら左(借方)に書く
  • 収益が発生したら右(貸方)に書く
  • 費用が発生したら左(借方)に書く
  • 費用が取消になったら右(貸方)に書く

 11個もルールがある!

 携帯の電話番号の桁数と同じですよ!

 こんなのは覚えてられません。数年前の私もここで挫折しました(早い)。

 しかし、今の私には分かります。こんなのを覚える必要はない!ということが。

 仕訳のルールを学ぶよりも、まずは貸借対照表を理解することが非常に重要だと思います。

貸借対照表とは

 まず、貸借対照表とは何か? 以下、貸借対照表 - Wikipediaからの引用です。

貸借対照表は、企業のある一定時点における資産負債純資産の状態を表すために複式簿記と呼ばれる手法により損益計算書などと同時に作成され、その企業の株主債権者その他利害関係者に経営状態に関する情報を提供する。また、株式会社では官報新聞、あるいはインターネット上での決算公告が義務付けられており、損益計算書とともに公告される。一般的に、開業時、決算時、清算時に作成されるほか、月次で作成されることもある。決算前に、中間貸借対照表を作成する場合もある。また、会社更生や破産等の手続きにおいて時価基準で作成する非常貸借対照表もある。

バランスシート(balance sheet)という英語は、Bilanz()、bilan()、bilancio()などヨーロッパ各国語と同様に、ラテン語天秤を意味する libra bilanx を語源としている。これは、貸借対照表が左右に分かれていて、左側の「借方(debit)」と右側の「貸方(credit)」が釣り合っているからである。

借方には「資産の部」があり、企業のある時点における資産の額が表示される。一方、貸方は、「負債の部」と「純資産の部」に分かれている。それぞれ、企業のある時点での負債の額と純資産の額とが記載される。また、純資産の部は、株主が最初に投入した資本金及び資本剰余金と、企業活動によりもたらされた利益の蓄積額から配当などで社外に流出した金額を差し引いた利益剰余金などが記載されている。

資産の部、負債の部は一般的に、流動性の高いものから低いものへと記載される。これを流動性配列法という。ただし、電力会社等、有形固定資産の額が多い場合など、特別の会計規則が設けられている会社については、固定性配列法が適用される。

借方金額の総計と貸方金額の総計とは等しい。したがって、例えば借方から貸方を見れば、総資産の資金源泉が他人資本(負債)なのか自己資本(純資産)なのかがわかる。

株式会社は、定時株主総会終結後遅滞なく、貸借対照表を公告しなければならない(会社法440条)。

現行の決算公告においては、 資産-負債=純資産 という関係にある。

 要するに、企業のある時点における資産、負債、純資産を表にまとめたものというわけです。

 しかし、これではイメージが全く掴めません。そこで、実際の貸借対照表を眺めてみましょう。

メルカリの貸借対照表

 メルカリの2020年6月期決算の貸借対照表を見ます。

 リンク先の7P、8Pが貸借対照表です。

 色々と書いてありますが、まずは大雑把に見ます。グラフにしてみたものが下です。

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メルカリの貸借対照表

 まず、左側が資産の部です。メルカリがどのような資産を持っているかということを表します。

 資産には様々な種類があります。現金、預金、株、債券、債権、建物、土地、のれん、などなど……。ですが、大雑把に捉えると、流動資産と固定資産の2つに大別することができます。

 流動資産とは現金や預金など、すぐに動かせる資産。固定資産は建物などのすぐに動かしづらい資産。と考えてよいと思います。

 右側が負債の部と純資産の部です。負債はざっくりといえば借金です。いずれ返済しなければならないけれど、今のところはまだ返済せずに済んでいるものですね。純資産は資本金や利益剰余金(これまで生み出してきた利益の蓄積)などから成ります。

 最も重要なことは、負債・純資産の部は企業がどのようにして資金を調達しているのかを表し、資産の部は企業がその資金をどのように利用しているのかを表しているということです。

 だから、資産の額と、負債と純資産の合計額は一致します。

 これを見れば様々なことが分かります。企業のビジネスモデルや、企業の投資対象としての安全性などが分かります。

 例えば、メルカリの場合は、新しい企業のわりにはかなりの資金がありますが、それで建築物を買ったりなどはせず、現金に変えやすい形で保有していることが分かります。

 また、メルカリは資金の大半を負債に頼っていることも見て取れます。これは一般的には、あまり良くない兆候です。企業も我々と同じく、借金の額が大きければ大きいほど返済が大変ですから。

 ここで、また別の企業の貸借対照表を眺めてみます。

三菱UFJフィナンシャル・グループ貸借対照表

 次に見るのは三菱UFJフィナンシャル・グループの貸借対照表です。

 これも大雑把なグラフにしてみました。

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三菱UFJフィナンシャル・グループ貸借対照表

 こちらは面倒なので、資産の部は分類していません。

 ここで注目したいのは、右側。赤い部分が負債、青い部分が純資産です。

 これを見るとメルカリの比ではないレベルの負債の多さです。

 では、三菱UFJフィナンシャル・グループは借金頼りのやばい会社なのでしょうか?

 そんなことはありません。少なくともこれだけを見てそう判断することはできません。

 なぜなら三菱UFJフィナンシャル・グループは銀行を営んでいるからです。

 銀行にとっての負債とは、預金のことを指します(大雑把に言えばの話ですが)。

 日本中の人や法人が銀行の口座にお金を預けて、銀行はそのお金を誰かに貸して儲けを得る。利率は今の時代、そこまで高くできません。

 そういうビジネスモデルである以上、銀行の負債が膨大なものになるのは当然なのです。

 ただし、銀行にお金を預けている側から見れば、銀行口座の残高は増えたほうが良いものです。「いつまでに返せよ!」と銀行に要求するタイプのものではありません。

 銀行側から見れば、貸す側が喜んで貸しっぱなしにしてくれる借金ということになりますから、借金をする(=お金を預かる)リスクはかなり低いと考えられます。

 要するに、一口に負債といっても色々なものがあるというわけです。

 ここでメルカリのビジネスモデルを簡単に考えてみましょう。

 メルカリのユーザーはメルカリ内でものを売買します。メルカリはその際に手数料を取り、これがメルカリの収入となります。

 それ以外の部分、つまりユーザーの取り分ですが、これはすぐに銀行の口座などに振り込まれるわけではありません。まずメルカリのシステム内で、各ユーザーの残高として割り当てられます。メルカリはユーザーの要求があり次第、お金を銀行口座などに振り込みますが、そうでない限りはメルカリの側でお金を預かっておくわけです。

 この預り金こそがメルカリの巨大な負債の正体なのです。というわけで、メルカリもまた、負債は大きいけれど危ういとは言い難い企業だと私は思います。

 企業の資金が負債によっているのか、純資産によっているのか? 負債に頼っているとすれば、その負債は銀行から借りたものなのか? それともまた別の性質のものなのか? というのは、貸借対照表を見る時に考えると面白いポイントです。

JR東日本貸借対照表

 今度は資産の部に着目するため、JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の貸借対照表を見てみます(17・18P)。

 これもまた大雑把なグラフにしてみます。

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JR東日本貸借対照表

 メルカリと大きく違うのは、左側(資産の部)です。左側の赤い部分が流動資産、青い部分が固定資産です。

 JR東日本は固定資産がとても多いことが分かります。鉄道ビジネスは土地を買って、線路を敷いて、駅を建て、車両を走らせるビジネスです。これらはすべて固定資産ですから、固定資産が大きくなるのは当然ですね。

 JR東日本は資金を固定資産に投じ、その固定資産の運用で利益を得るビジネスモデルだということが分かります。

 ちなみに、鉄道と会計には深い関係があるようです。減価償却や連結決算などは鉄道の登場に伴って生まれたのだとか。そのあたりのことが『会計の世界史』に面白く書かれています。おすすめの本です。

仕訳を考える

 さて、ここまで見てくれば、もう覚えられたのではないでしょうか。

 貸借対照表の右側は、企業が「誰からどのような形でお金を調達したのか」が書いてある。その手段は負債と純資産とに分けられる。

 貸借対照表の左側は、企業が「何にお金を使っているか」が書いてある。この使い方が企業の富の源泉を表している。

 これだけ分かれば、最初に書いた11のルールを覚えるのは簡単です。

 負債が増えたらどちらに書くか? 負債の部は右側だから右側に書けばいいのです。減ったら、逆の左側に書けばいい。

 資産も純資産も同じです。増えたら、それぞれの対応する位置に書けばいい。減ったら、逆側に書けばいい。

 問題は、収益です。これはどちらに書けばいいのか?

 ここで思い出すべきは、利益剰余金(これまで生み出してきた利益の蓄積)は純資産だということ。

 ならば、利益にとってプラスになることは右側に書けばよいのです。

利益=収益ー費用

 ですから、収益は右、費用は左。それぞれがなしになったら、反対側に書けばいい。

 それだけの話だったのです。

本当に覚えるべきだったこと

 以上、まとめると本当に覚えるべきことはたったの3つだったのです。

 なんてこったい!

 ここを乗り越えれば、だいぶ楽になる気がします。

 例えば、問題文中に「当座預金から支払った」とあったら、当座預金が資産であることは明らかで、それが減ったわけなので、とりあえず右側に当座預金を書けばいいわけです。あとは左側に何を書くべきか考えるだけ。左側に書くということは、資産が増えたか、負債が減ったか、純資産が減ったか、費用がかかったかのどれかです。お金を払ったことで何が起こったかを考えれば、そのどれに当たるかを考えるのはそれほど難しくはないのではないでしょうか。少なくとも、勉強の焦点を当てるのがそこだけになれば、負担は減ります。

 他に覚えるべきことは、日常的な感覚では分からない勘定科目や、その他の細かいルールだけな気がしますが、果たして!?

 

 考えてみれば、簿記は決算書を作るための技術です。決算書とはどのようなものかを理解せずに、簿記を勉強すれば困難に直面するのは当然かもしれないですね。野球を見たこともやったこともない人の野球の練習は効率が悪いに違いありません。

 まずはゴールをイメージすることが大事。人生の色々な局面において通じる教訓のような気がします。