たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

社会人一年生のための年末調整講座2021

今週のお題「秋の歌」

 

 年末調整の季節になってきました。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r3bun_01.pdf

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_06.pdf

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_04.pdf

 職場から不意に渡されるこれらの書類。書いて出してねと言われるものの、どう書けばいいのかわからない。裏に何か解説があるっぽいけど、字が小さくて読む気が起きない。読んだとしても全く意味が分からない。そもそもこれはなんの紙ですか?

 秋の歌というものがあるならば、それは年末調整に苦しむ社会人一年生たちの阿鼻叫喚によって奏でられるものでしょう。

 というわけで、今日は

  • 「年末調整って何?」
  • 「この紙に書いてあること全然理解できないんですけど?」

という疑問・不満を解決するために年末調整を分かりやすく解説します。

 メインターゲットは社会人一年生ですので、高所得の方には物足りない内容になっているかもしれません。

 この記事の目標はあくまで書類に書いてある内容を理解するための糸口を提供することです。申告書への記入で疑問に思ったことは裏面の説明などをよく見ましょう。

そもそも年末調整ってなんですかい?

 そもそも年末調整って何よという話です。まず年末調整という言葉が奇怪です。年末調整というからには年末に何かを調整しそうな気がします。たしかに年末が近くはあります。しかし、調整って何を?

 それに、渡された書類を見ると

  • 扶養控除等申告書
  • 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
  • 保険料控除申告書

と書いてあります。

 漢字だらけ!

 「控除」なんて言葉初めて聞いたんですけど!?

 意味がわからないんですけど!?

 ググると、控除とは「(金額・数量などを)引き去ること。」と出てきます。引き去るって何を? 扶養控除は扶養を引き去るってこと? 扶養を引き去るってどういうこと~~~~~~~????????

 というわけで、「あなたは何の話をしているの?」というのが疑問の中心にあるようですので、それについて解説していきます。

年末調整は税金の申告

 一番の重要ポイントは年末調整は税金の申告であるということです。結論から言えば、所得税を下げるために、こんな人を扶養しています、あんなお金を払っていますということを申告するのが年末調整。

 これだけでなんとなく分かったかもしれませんが、真に理解するためには所得税や住民税の仕組みを把握しておくことが必須です。所得税について説明をします。

お金を稼げば税金がかかる

 国や自治体は民に様々なサービスを提供しています。分かりやすいところだと、日本に住む人は困窮すると生活保護を受けられます。これにはお金がかかります。国や自治体は民から税金という形で資金をもらい、そのお金を使って生活保護のようなサービスを提供しているわけです。

 税金には様々なものがあります。物を買う時に支払う消費税、土地を持っていると払う固定資産税、たばこを買うと払うたばこ税……。様々な税金の中で最も重要なのが所得税と住民税になります。

 所得税と住民税はどちらも、お金を稼いだ人に稼いだお金の額に応じて払ってもらう税金です。詳しいことは後で書きますが、所得税は稼いだお金の5~10%くらい、住民税は10%くらいを納めることになります(ここでは平均的な新社会人を想定しています)。

 所得税と住民税の違いは、納める先です。所得税は国に払う税金です。住民税は自治体(都道府県と市区町村)に払う税金です。なので問い合わせ先も所得税と住民税で異なります。所得税のことは税務署に、住民税のことは市役所などに聞くのが基本です。所得税と住民税で重なっている部分については、基本的なことについては市役所に、高度な話については税務署に聞くのがよいかもしれません。

 ごちゃごちゃ書いてきましたが、ここでのポイントは働いて収入を得れば税金がかかるということです。会社員である=税金がかかる可能性がある、ということです。

税額はいかなる方法で算出されるのか?

 では、所得税はどのように計算するのでしょうか? 詳しい用語の説明はまた後ほど説明することにして、ここではざっくりとした説明をします。

 まずは、所得税の額を算出する式を見てみましょう。

所得税の額=(所得-所得控除)×税率

 これはかなり簡略化した計算式で、本当はもう少し複雑なのですが、まずこれを理解しておかないことには話になりません。それに、ほとんどの場合これで十分です。

 まず注目すべきポイント。所得税の額は、稼いだお金の額だけで決まるものではないということです。なぜなら、同じ収入でもライフスタイルによって、余裕資金は異なるからです。

 たとえば、年収300万のAさんと年収500万のBさんはどちらの方が裕福な生活を送っているでしょうか? 年収だけを見ればBさんのように思えます。しかし、二人の生活環境に注目すると、そうとは限らないことに気づきます。Aさんは健康な一人暮らしです。対して、Bさんは高齢で病院によく通う御両親と障害を持っている奥さん、それから大学生の子供を養っています。こうなってくると、Aさんの方が生活に余裕がありそうな雰囲気がほのかに漂ってきます。

 というわけで、各家庭の事情に応じて税金の額を下げる必要があります。そこで登場するのが所得控除です(上の計算式を再度御覧ください)。これが「控除」の正体です。「所得から数字を引き去る」という意味の控除だったのですね。扶養控除というのは、「扶養を控除する」という意味ではなく、「扶養している人がいると生活が大変だろうからその分所得から控除してあげる」という意味だったというわけです。

 次に、収入ではなく所得を使っていることに注目してください。所得は収入とは異なる概念です。所得とは利益のこと。たとえば、一億円のダイヤを売ったとして、そのダイヤを仕入れた時に一億円を払ったのであれば、収入は一億円、所得は0円です。収入に課税されたらえげつないことになりますが、課税対象は所得なので安心です。

所得=収入-必要経費

 会社員に必要経費は想定しづらいですが、謎の計算式によって給与収入は給与所得に自動変換されます。収入の少ない層であれば、収入から55万円を引いた額が所得になります。給与収入100万円の人は給与所得45万円の人だということです。

※謎の計算式については以下を参照のこと

No.1410 給与所得控除|国税庁

所得税の額は誰が計算する?

 問題は、国は神様ではないということです。誰がいくら稼いでいるか、誰が何人扶養しているか、保険料をいくら払っているか……。そういうことは国の把握できないところです。

 そこで国民は自ら、いくら稼いだか、そこからいくら控除するか、したがっていくら所得税を払う必要があるかを国に教えてあげます。なんて良い人たちなんだ!

 これが確定申告です。所得税の金額を確定させる申告=確定申告と理解しておけばいいと思います。(会社員には無縁ですが、予定申告というのもあります。)

 この確定申告は原則として日本に住む全ての人間がしなければなりません。例外は以下のとおり。

  • 所得税がかからない人
  • 所得がほぼ給与オンリーの人(年末調整せずに退職した場合は別)
  • 所得がほぼ年金オンリーの人

 例外といいつつ、日本国民の多くがこれに該当すると思われます。税金の世界では例外的な扱いがマジョリティであることがよくあります。

 ちなみに、住民税も同様に誰もがしなければならないものです。例外は以下のとおり。

  • 所得がなくて、かつ、同じ自治体に住む人に扶養されていない人
  • 確定申告等で国に所得を漏れなく申告した人

 住民税の場合は、所得が0でも誰にも扶養されていないなら申告しなければなりません。また、国に申告していない所得がある場合も住民税の申告はしなければなりません。(NISAや障害年金のような非課税所得は税金の計算上、存在しないものとして扱われます。それらがあるからといって住民税の申告は必要ありません。余談ですが、宝くじの当選金やオリンピックの報奨金も非課税所得です。岩崎恭子が可哀想だからです。*1

 さらにちなむと、確定申告で嘘をつくと、税務署が調査に来て真実が明るみに出されます。そうなると悪い場合、重加算税というものが課せられて、本来払うべきよりもかなり多くの負担をしなければならなくなります。正直に生きましょう。(ただし、税を多く払うような形でつく嘘には罰は課されませんので、扶養を申告漏れしていたからといって焦る必要はありません。上納金が多すぎるといって怒る神様はいないのです。なむなむ。)

ほとんどの会社員は確定申告しなくてもいい

 上で見たように、所得がほぼ給与オンリーの人は確定申告をしなくてもよいです。なぜかというと、会社が代わりに確定申告をしてくれるからです。

 会社が税務署に提出する確定申告書のことを源泉徴収票と言います。会社は社員にもこれを配布します。会社員が自分で確定申告をしたいという時は源泉徴収票に情報を上乗せする形で申告をすると便利だからです。確定申告の予定があっても年末調整はちゃんとしておくとよいでしょう。

 会社は税金の支払いも代わりにやってくれます。あなたが給与を受け取る時、あらかじめ所得税が引かれた状態で支払われます。その引かれた所得税は国に流れているのです。これを源泉徴収といいます。会社から従業員へというお金の流れがあるとイメージして、流れの源泉である会社(お金を支払う側)の方で徴収するから源泉徴収なのだろうと思われます。詩的ですね。(※住民税も給与天引きされますが、これは源泉徴収ではありません。住民税は翌年に税額が確定してから天引きが始まります。詳細は長くなるので割愛!)

 この方法は国にとってはとりっぱぐれがなく、民にとっては税金を払う手間も痛みもないというメリットがあります。

 会社は従業員自身以上に従業員に支払われた給与について詳しく知っているので、この事務を担うにあたって会社以上の適任者はいません。

 そういうわけで、ほとんどの会社員は確定申告をする必要がありません。会社様様ですね。察しが良い方はそろそろ年末調整とは何かが分かってきたのではないでしょうか?

 ちなみに、「ほとんどの会社員」に該当しない人とは主に↓のような人です。

  • 給与収入額が2000万円を超える人
  • 給与以外の所得が20万円以上ある人
  • 二つの会社から給与をもらっていて、年末調整しなかった給与収入(と給与以外の所得の合計)が20万円以上ある人

※詳細は→申告書の提出が必要な方とは:令和2年分 確定申告特集

 勤めている会社が一社で、かつ給与以外の収入源がない、という平均的リーマンには縁のない世界だということが分かっていただけるでしょうか。

 株式関係の所得がある場合も、大概の場合はNISAか源泉徴収してくれる口座で取引していることが多いでしょうから、その場合は申告不要です。(とはいえ、特定口座での所得がある平均的サラリーマンは確定申告した方が節税になる可能性が高いと思います。)

会社に申告するのが年末調整

 さてさて、会社は従業員の代わりに確定申告をしてくれるのですが、何も言われずとも会社が把握できるのは主に以下の情報だけです。

  • その会社が支払っている給与の額
  • その会社が天引きした社会保険料の額

 しかし、これだけの情報では適切な所得税額を計算することができません。

 もう一度、所得税額算出の計算式を見てみましょう。

所得税の額=(所得-所得控除)×税率

 このうち所得については判明していますが、所得控除については一部しか分かっていないのです。

 そこで、従業員は会社に以下のような所得控除に関わる情報を提供することで、会社に正しく確定申告してもらえるようにします。端的に言えば、会社に対して確定申告をするってことです。

  • 扶養状況
  • 会社からの天引き以外で払っている社会保険料
  • 生命・地震保険
  • 他の会社から得ている給与

 これらの情報により、会社は従業員がその年に納めるべき所得税額を確定させることができます。

 それまでの間、会社は支払う給与の額とあらかじめ持っていた扶養の情報に基づいて見込みで所得税源泉徴収してきました。税額が確定した結果、取りすぎであることが判明した場合は、その分を従業員に返します。

 つまり、年末調整とは、源泉徴収してきた税額と確定した所得税額の調整を行う(=両者の額を一致させる)ことなのです。年末なのは、年末にならないと確定申告に必要な情報が確定しないからです。

※確定申告に必要な情報はその年の1月~12月の合計金額(扶養等は年末の状況)です。

 上記の情報を会社に伝えるために提出するのが、扶養控除等申告書をはじめとした3枚の紙なわけです。

余談 確定申告した方がいい人

 確定申告しなくていい人も確定申告したほうがいい場合があります。

 以下のような場合は確定申告を検討してみましょう(確定申告の時期は翌年の2月中旬~3月中旬です)。

  • 莫大な医療費を支払っている(目安は所得の5%か10万円)
  • 寄付をした(ふるさと納税でワンストップ特例制度を利用しなかった)
  • 住宅借入金等特別控除の対象になる家を購入した
  • 株式の配当所得がある
  • 株式の取引などで損失を出した

 年末調整で申告し忘れたことがあったりした場合も、確定申告してしまえばよいのです。

年末調整の各項目の説明

 ここからは年末調整の各項目について説明していきます。ここでは自分に関係があるかないかくらいの判断ができる程度の、ざっくりとした説明をします。詳細な定義は国税庁のHPを見てください。どこに何を書くかのビジュアルに関しても国税庁のHPなどを参考にしてほしいと思います。

扶養控除等申告書の記載例

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r3bun_02.pdf

基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書の記載例

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_07.pdf

保険料控除申告書の記載例

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/pdf/r4bun_05.pdf

扶養控除

 扶養とは、養っているということです。さらに噛み砕くと、所得の少ない家族がいるということです。たとえば、隠居した親や学生の子供がいるかという話です。

 所得の少ない家族がたくさんいるほど税金が安くなります。その家族の年齢によっても税金が安くなる度合いが変わります。

 所得が少ない家族とは、所得が48万円以下の家族のことを言います。給与収入103万円=所得48万円ですが、年金を受け取っていたり自営業をしていたりする場合は給与収入が103万円以下でも所得が48万円を超えることがありえます

  • 控除対象扶養親族:奥さんでも夫でもない家族で、16歳以上の人。→下記以外は38万円の所得控除
  • 特定扶養親族:大学生の年齢の人(19歳~23歳くらいの人)→63万円の所得控除
  • 同居老齢扶養親族:同居している70歳以上の親(義父・義母可)→58万円の所得控除
  • 別居老齢扶養親族:別居している70歳以上の家族→48万円の所得控除
  • 16歳未満の扶養親族:16歳未満の家族→所得控除なし

 重要なのは、正しい区分で申告しないと損するかもしれないということです。所得控除の額など知っておく必要は皆無です。それよりも

  1. 家族の所得は少ないか?
  2. 家族は所得控除が大きくなる年齢層じゃないか?

を確認することが大事です。

 扶養控除の注意点は、二人以上に扶養されることはできないということです。たとえば、父が子供を扶養する申告をする場合は、母はその子を扶養する申告はできません。配偶者控除の場合は、お互いを扶養に取ることはできません。

 そこで、誰が扶養の申告をするべきかという問題が浮上します。基本的には、所得が高い人(所得税の税率が高い人)の方が減税効果が高くなります。控除額×税率が減税される額だからです。

 ただし、16歳未満の扶養親族に限っては、所得の低い人が申告したほうがよいかもしれません。16歳未満の扶養親族は上記のとおり所得控除がありません。じゃあ税金の計算に関わってこないのかと言うと、住民税が非課税になるかどうかに関係してくる場合があります。住民税は所得が45万円×(扶養親族の数+1)+21万円だと非課税になります(注:自治体によって数字は若干変わります)。正社員として働いているとあまりこれを意識する必要はありませんが、アルバイトで働いているような方だとこれが機能したりします。あなたが600万円の所得があって、奥さんが100万円の所得があるというような場合は、奥さんが16歳未満の子供を扶養する形で申告した方がよいでしょう。

 ちなみに、16歳未満が扶養控除0円なのは児童手当の対象だからです。

配偶者控除配偶者特別控除

 扶養控除の配偶者(夫、妻)バージョンです。

 扶養している人の所得が48万円を超えると控除の申告はできないのが原則ですが、配偶者だけは違います。

 所得が48万円以上の配偶者には、配偶者特別控除というものが用意されています。配偶者の所得が高くなるのに応じて控除額が下がっていくシステムで、配偶者の所得が133万円以下までは申告が可能です。

 ただし、配偶者特別控除の対象になった場合(所得が48万円を超える場合)は、住民税の非課税の判定においては、扶養している頭数に入れることはできなくなりますし、障害者控除も申告できなくなります。

 わけがわかりませんね! 昨年からこのわけの分からなさに拍車がかかっています。同じ配偶者でも控除対象配偶者、同一生計配偶者、源泉控除対象配偶者がいるようです! 死にたくなりますね!

 ま~、とりあえず、庶民は配偶者の所得が95万円以下なら(150万円以下の給与収入のみなら)扶養控除等申告書に名前を書いておけばよさそうです!

 控除対象配偶者、同一生計配偶者、源泉控除対象配偶者の区別については、↓のページの一番下の表が分かりやすいです。

源泉控除対象配偶者って何?同一生計配偶者との違いは? | 税理士法人カオス | 大阪市北区南森町

障害者控除

 あなた自身、または扶養している親族が障害者の場合、障害者控除を申告することができます。

 主には以下の方々が対象になります。

  • 療育手帳を持っている(Aに該当する場合、特別障害*2
  • 精神障害者手帳を持っている(1級なら特別障害)
  • 身体障害者手帳を持っている(1・2級なら特別障害)
  • 要介護で市町村から特別障害者として認定されている

 「療育手帳って何?」「障害者手帳って何?」という疑問が浮かんだ方には関係のない控除だと思われます。

詳細は→https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/pdf/08.pdf

ひとり親控除・寡婦控除

 離婚を経験したりしている場合にはひとり親控除か寡婦控除を受けられる可能性があります。

ひとり親控除の要件

  • 配偶者がいない
  • 扶養を申告できる子供がいる
  • 合計所得金額が500万円以下

 読んで字のごとく、ひとり親なら申告できる控除だということです。合計所得金額が500万円を超えそうかにだけ注意です。

 女性の場合は子供がいなくても申告できる寡婦控除というものが存在します。離婚して独り身で扶養する家族がいるか、誰も扶養していなくても配偶者が死亡したか行方不明になっているかであれば寡婦控除を申告できます。(扶養控除等申告書に離別か死別かを書いたりする必要はありません。)

No.1171 ひとり親控除|国税庁

No.1170 寡婦控除|国税庁

勤労学生控除

 以下の条件に該当する場合、申告できます。

  • 学生
  • 所得が75万円以下
  • 給与所得以外の所得が10万円以下

 給与収入が103万円以下で他に所得がないのであれば、何もしなくても所得税はかかりませんので勤労学生控除を申告する必要はありません。

 給与収入が103万円以上になると申告する価値が出てきますが、その場合、親御さんなどが扶養控除を申告できなくなってしまうことに要注意です。

基礎控除

 扶養控除の本人バージョンです。誰でも一律に48万円の控除を受けることができます。

 わかり易さのために一律と書きましたが、去年から所得が2400万円を超えてくると基礎控除の額が変動するようになりました。所得が2400万円を超える人は年末調整で悩まないでしょうからここでは無視します。

所得金額調整控除

 これも去年から新設された制度です。税制改正で損をする以下の二つの層に対するケアのようです。

  1. 給与所得控除のMAXが下がったことで損をする人たちの中で、障害者だったり障害者を扶養していたりする層
  2. 給与所得と年金所得がある層

 所得金額調整控除申告書に関係するのは1の層だけです。年収850万円以下であれば書く必要がないので無視しましょう。

生命保険料控除・地震保険料控除

 生命保険や地震保険に加入して、保険料を支払っている場合、そのうちのいくらかを所得控除として申告できます。

 申告できるものに加入しているのであれば、保険会社から申告用の書類が届いているはずです。届いていなければ保険会社のHPで発送の時期を確認するか、問い合わせるかすればよいでしょう。

 生命保険料控除証明書からどのように転記すればいいのかについては、下のように説明してくれている会社もあるようです。

保険料控除申告書の記入について | 日本生命保険相互会社

 様式は各社によって異なるはずですので、自分の加入している会社の類するページを探すのがよいと思います。

 転記さえできれば、申告書の案内のとおりに計算するだけです。一個ずつクリアしていけば必ずゴールまでたどり着けるはず!

社会保険料控除

 社会保険料とは、主に以下の三つです。

 会社から天引きされているものを申告する必要はありません。

 家族にかかっている国民健康保険料や介護保険料を市役所などに払っている場合は申告できます。国民年金保険料や国民年金基金の掛け金のみ証明書が必要で、他については証明書はいりません(提出を求められた場合、それは会社内のルールだと思われます)。

小規模共済等掛金控除

 iDeCoに加入している方は、社会保険料控除をゲットすることが目的であろうと思います。iDeCoの掛け金を銀行口座からの引き落としで支払っている方は、ここで申告する必要があります。「えーめんどくさいぷー」と思った方はiDeCoを辞めたほうがいいかもしれません。(人よりたくさん納税したいなら別ですが。)

 iDeCo加入者以外にも小規模共済等掛金控除を申告できる場合がありますが、いずれにせよ申告できる方には書類が届いているはずなので、それを使いましょう。

 給与天引きの場合は申告不要です。

住宅借入金等特別控除

 住宅借入金等特別控除の確定申告をした人は次の年度から住宅借入金等特別控除申告書が送られてきます。減税額がバカ高いはずなので必ず職場に提出しましょう。

具体例(エドワード・エルリックの場合)

 『鋼の錬金術師』のエドワード・エルリックが年末調整するとしたらどうでしょうか?

 まず、彼には家族がいます。弟のアルフォンス・エルリックです。彼は14歳なので、16歳未満の扶養親族として申告ができそうです。所得が48万円以下なのかですが、アルは国家錬金術師ではないのでたぶん無収入でしょう。というわけで、16歳未満の扶養親族として申告します。

 また、エドとアルはおそらく身体障害1級に該当するので(エドは2級かもしれません)、障害者の欄に特別障害者としてチェックを入れます。(ちなみに、兄弟の母親が年末調整する場合にはひとり親にチェックを入れられると思います。)

 扶養控除等申告書は以上です。

 次に基礎控除申告書ですが、エドの年収が2595万円を超えている場合、基礎控除は32万円か16万円になりますが、国家錬金術師といえどもそこまでの給与はもらえないのであれば、48万円が基礎控除になります。

 第1話の時点ではウィンリィとはまだ結婚していないので、配偶者控除申告書には記載しません。ウィンリィと結婚した後でも、ウィンリィの所得は95万円を優に超えていそうなのでいずれにせよ書かないかもしれません。

 エドは障害者かつ高所得者なので所得金額調整控除申告書に記入する必要があります。おそらく所得は850万円を超えているので、「あなた自身が特別障害者」欄にチェックを入れた上で、「特別障害者に該当する事実」欄の「扶養控除等申告書のとおり」にチェックを入れます。

 エルリック兄弟は冒険をしているので生命保険に加入している可能性はありそうです(加入のハードルが高そうですが)。その場合、生命保険会社に生命保険料控除証明書を請求して、それを元に控除額を記入します。エルリック兄弟が加入するとすれば保険料はかなり高そうです。ただ、個人年金には加入しなさそうなので、一般の生命保険料4万円、介護医療保険料4万円の計8万円が控除額になりそうな気がします。

 定住生活を送っていないので、地震保険や火災保険には加入していないでしょう。軍事国家の軍人であり賢者の石の入手を目指していることを考えると、老後のことは考えていないでしょうから、iDeCoもやらなそうです。やっていたとしても国家公務員であれば給与天引きできると思いますので、いずれにせよ申告するものはなさそう。

 以上で年末調整完了です。

結局、社会人一年生はどうすればいいのよ?

 この記事は社会人一年生向けに書いていますが、はっきり言って、ほとんどの社会人一年生は各種控除とは無縁でしょう。

 障害も特に持たず、親がバリバリ働いていて、まだ結婚しておらず、自身がひとり親でもなく、マイホームの購入も検討すらしておらず、生命保険には加入せず、iDeCoをやるほど意識が高くもない。

 そういう人であれば、自分の名前や住所と基礎控除の額だけを書けば終わりかもしれません。強いて言えば、入社前の国民年金保険料を自分で払っていた場合はそれを申告する必要がありますし、入社前にアルバイトをしていた場合はアルバイト先の源泉徴収票を提出する必要があります(確定申告するなら提出しなくてもよいです)。それくらいでしょう。

 いや長々と書いて結論それかーい!みたいな。でもまあ、いずれお世話になる可能性がありますし、誰もが平均的な人生を歩んでいるわけではありませんから勉強しておいて損はないでしょう。

 

 というわけで、これを読み通したあなたは立派な年末調整人です。誰よりも早く年末調整の書類を提出して職場の注目を集めよう!