たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

『ゴールデンカムイ』1~27巻の内容をおさらい!

 10月の目標が『ゴールデンカムイ』を全巻読み直すことでしたが、ようやく読み終えました。

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 やはり素晴らしい漫画です。細部の作り込みが緻密だし、多様なジャンルを内包する懐の深さがあります。

 それと同時に、物語の構造が非常に複雑なうえに、メタファーも多用されていて、改めて難解な作品だとも感じました。

 言い換えれば何回読んでも面白い作品だということですが、うっかりすると迷子になってしまう読者も少なくないだろうと推察します!

 というわけで、『ゴールデンカムイ』1巻~27巻の話の流れをまとめたうえで、ポイントも解説します。

 これを読めば、28巻を大いに楽しむことができるはず!

大きな話の流れ

 複雑な『ゴールデンカムイ』ですが、大きな話の流れを分けると、たった3つのパートでできています。

  1. 網走監獄編
  2. 樺太
  3. 札幌編

網走監獄編

 杉元とアシリパが邂逅し、黄金探しが始まります。

 旅の中で、黄金を隠した人物・のっぺらぼうがアシリパの父・ウイルクだという疑惑が浮上します。のっぺらぼうは本当にウイルクなのか? もしそうであるなら殺人事件の真相を聞かねばなりません。残酷な刺青争奪戦を繰り広げなくても、黄金のありかを教えてくれるかもしれません。

 このような動機からアシリパたちは網走へ向かいます。

 この道中、下のような勢力が形成されます。

  • 杉元・アシリパ(白石、キロランケ)
  • 鶴見(二階堂、月島、鯉登、宇佐美)
  • 土方(永倉、牛山、夏太郎、都丹庵士、家永、尾形)
  • 谷垣(インカラマッ、チカパシ、リュウ

 土方勢と杉元勢は協力関係を築き、谷垣も釧路でアシリパに追いつきます。

 そして、いよいよ網走へ乗り込むのですが、ここで土方が裏切ります。本物ののっぺらぼうの居場所をあぶり出すためです。監獄に囚われているのっぺらぼうは偽物であることを知っていた土方は、杉元を囮に使ったわけです。

 しかし、なんやかんやでのっぺらぼうに会えた杉元ですが、のっぺらぼうがウイルクであることは確かめたもののほぼ何も聞けないままウイルクは殺されてしまいます。ウイルクを撃ったのは尾形、指示したのはキロランケ。杉元も頭を撃たれ瀕死の重傷を負います。

 最終的に戦場を支配したのは軍艦を投入した鶴見中尉率いる第七師団でした。

樺太

 キロランケたちの裏切りを知らないアシリパと白石は彼らとともに樺太を目指します。

 第七師団に囚われた杉元と谷垣は、アシリパの信頼を得る要員として鶴見勢と行動を共にします。インカラマッ(と家永)は人質として据え置かれます。

 勢力は以下のとおり。

  • キロランケ(アシリパ、白石、尾形)
  • 杉元・鯉登連合軍(谷垣、月島、チカパシ、リュウ

 樺太を目指すキロランケの目的は、少数民族独立を目指す同志であるソフィアの解放。そして、アシリパの記憶(刺青人皮の暗号を解読する鍵)を呼び覚ますことです。

 アレクサンドロフスカヤ監獄を爆破したゴタゴタの中、キロランケ勢と杉元勢が衝突。キロランケは死に、尾形は片目を失い瀕死の重傷を負います。

 アシリパは母が父につけたアイヌの名前(ホロケウオシコニ)を思い出し、それが暗号の鍵らしいことに気付きます。同時に、樺太少数民族に触れたアシリパは、アイヌの未来への思いも強くしていきます。

札幌編

 無事にアシリパと合流した杉元たちは鶴見中尉のもとに帰還します。

 その途中、尾形が逃走します。この時のやり取りで、鯉登少尉が鶴見中尉に対して仄かな疑念を抱き、月島と共有します。

 また、日露の国境線で尾形とバトルしたヴァシリ(頭巾ちゃん)が、尾形と再び戦うためアシリパの仲間入りをします。頭巾ちゃんが話せないのは尾形に撃たれた後遺症のためです。

 樺太の大泊で鶴見中尉と会ったアシリパですが、鶴見中尉がアイヌに関心を持っていないことを悟り、逃走します。インカラマッを人質に取られている谷垣とはここで分かれます。チカパシとリュウ樺太アイヌの村に残りました。

 というわけで、勢力は以下のようになります。

  • アシリパ・杉元(白石、頭巾ちゃん)
  • 鶴見(月島、鯉登、宇佐美、菊田、有古、二階堂)
  • 土方(永倉、牛山、夏太郎、キラウシ、門倉)
  • 谷垣
  • 尾形
  • 囚われ勢(インカラマッ、家永)

 刺青人皮をほとんど奪われてしまった杉元たちは、黄金の在処を知っているアイヌを探すことに活路を見出します。先にその方法で黄金に近づいていた海賊房太郎と仲間になります。

 有古が土方側に寝返りますが、そのことが鶴見勢にバレます。家族を人質に取られている有古は、偽の刺青人皮を土方勢に渡します。

 谷垣は囚われのインカラマッをさらいますが、月島にばれてバトルが発生します。家永が身を挺して二人を逃したものの、月島に追いつかれます。絶体絶命のところで鯉登が月島を止めます。ちょうどその時、インカラマッの出産が始まります。翌朝、月島たちは、谷垣とインカラマッと赤子を南へと逃します。

 その他色々あって、勢力図は↓のような感じに。

  • アシリパ・杉元(白石、頭巾ちゃん)+房太郎
  • 鶴見(宇佐美、二階堂、菊田)+鯉登・月島
  • 土方(永倉、牛山、夏太郎、キラウシ、門倉)+有古+尾形

※「+」はゆるい繋がり

 そんな中、札幌で連続殺人事件が話題になります。三勢力は導かれるように札幌へ集結します。

 まず、杉元勢と土方勢が出会います。あわや衝突……かと思いきや、鶴見たちよりはマシと判断し、杉元たちは再び土方勢と協力することにします。

 そして、次の殺人事件が発生するかと思われた夜、第七師団が現れて激しい戦闘が繰り広げられます。

 大立ち回りの末に、アシリパとソフィアが鶴見中尉に捕らえられます。人払いをした鶴見中尉は、ウイルクがのっぺらぼうになるきっかけとなった殺人事件の真相アシリパに語ります。死んだ7人はお互いに殺し合い、ウイルクはアシリパ風評被害を受けないように自分の顔の皮を剥いで死んだようにみせかけたのでした。

 土方の蝦夷共和国構想よりも鶴見の構想のほうが現実的であるという論理。鶴見中尉の妻子を殺害したのはウイルクであるという情。二つの側面から責められたアシリパは暗号解読の鍵を鶴見中尉に教えてしまいます。

各キャラクターの背景

 ここでは、背景がややこしいキャラクターについて書きます。鶴見中尉に関わった人たちがほとんどです。

鶴見中尉

 新潟出身。

 ウラジオストック写真屋に化けて諜報活動をしていた。その頃に名乗っていた名が「長谷川」。ロシア人と結婚し、子供も作っていた。

 日本に乗り込むことを目論んでいたウイルク、キロランケ、ソフィアの三人組に日本語を教えた。鶴見中尉のスパイ疑惑で官憲が乗り込んできた際、勘違いした三人組が銃撃戦を展開。ウイルクの撃った弾が妻と子を死に至らしめる

 軍事クーデタの末に国力増強を図り、ロシア方面への日本の領土展開を目指す。

 愛が殺戮をいとわない兵士を作る肝だと思っている。

 日露戦争で頭を吹き飛ばされた後遺症で、怒りの感情が溢れると脳汁も溢れる。

尾形

 茨城出身。

 父は花沢中将、母は芸者。子供ができたことで父に捨てられた母は、冬になると父の好きだったあんこうを毎日作るようになる。母にあんこう鍋を作るのをやめさせるために尾形少年は鳥を撃つが、母は見向きもしない。父を呼ぶために母を毒殺する

 日露戦争の戦場にて、本妻の子である花沢勇作に出会う。清らかな弟の本性を暴くため奔走するも失敗。

 勇作が清らかなのは愛を受けて育ったからではないかという疑念を抱いた尾形は、勇作を殺害。ただ一人の息子への愛を父が表明すれば、自分も愛されていたことになる。そうなれば、同じく愛を受けて育った弟も自分と同様の人種(人を平気で殺せる人間)であることが証明されると思ったからである。

 結果、花沢中将は相変わらず尾形を息子として愛することはなかった。自分に何かが欠けているのは愛のない両親のせいであると確信するに至る。鶴見中尉の助言を受けた尾形は父を殺害する。(鶴見中尉は満鉄に反対する花沢中将を疎ましく思っていた。)

 重要な任務を果たした尾形は鶴見中尉の寵愛を受ける。それに嫉妬した宇佐美が、鶴見中尉の目的を尾形にバラす。

 鶴見中尉に対する裏切り工作を図る尾形は単独で刺青人皮の収集を試みたところ杉元に半殺しにされ鶴見陣営を離脱。

 その後は、土方陣営に入ったりキロランケと行動を共にしたり単独行動をとったりするが、その目的・行動原理は不明。

鯉登

 鹿児島出身。陸軍士官学校卒のエリート。叩き上げの月島軍曹がサポート役。父親が海軍少将で、青森の大湊要港部司令官。兄が海戦で死んだことがトラウマで船に乗れない。

 若かりし頃、ロシア人にさらわれたところを鶴見中尉に救ってもらう。それ以来、鶴見中尉に心酔している。鶴見中尉の面前では早口の鹿児島弁しか話せない。

 尾形の事情を知ってから、自分の誘拐事件が鶴見中尉による自作自演だったことに気づく。鶴見中尉に親子ともども利用されていることに疑念を抱く。

月島

 佐渡出身。

 人殺しの父のもとに生まれたおかげか、村中から嫌われていた。唯一、愛し合っていた女性(えご草)がいたが、日清戦争から帰還すると、行方不明になっていた

 なぜか自分が戦死したことになっており、その噂の出処である父を殴殺する。

 事件の詳細を調査した鶴見中尉から真実を聞かされる。えご草は富豪に見初められ、金目当てのえご草母が月島の父に二人を別れさせるように仕向けたのだった。えご草は生きている。

 日露戦争の戦場で同郷の兵士と出会う。その男の話では、月島が逮捕された直後、実家からえご草の遺体が見つかったのだと聞かされる。鶴見中尉を問い詰めるも、生きる希望を失っていた月島を救うためだったと弁明される。その時に降ってきた砲撃から鶴見を庇う。

 一命をとりとめた後、遺体は鶴見が中央を騙すためのカモフラージュだったことを明かされる。尊属殺を犯した月島が死刑を逃れるためには、父親が極悪非道である必要があったのである。やはりえご草ちゃんは生きていたのだ。いずれにせよ、月島はえご草ちゃんと再会することはないのだが。

 その後、月島は同郷の兵士と日露戦争の戦場で偶然に出会うわけがないことに気づく。新潟の兵士は第七師団とはかなり離れた戦場にいたはずだからである。

 鶴見に裏があることを知りつつ、鶴見に従う。

 鯉登と行動を共にするうちに、優先順位が鯉登>鶴見になりつつある。

宇佐美

 新潟出身。

 幼い頃から柔道の才を鶴見に見出されており、鶴見にぞっこん。

 幼馴染の高木智春が鶴見に励まされているのを見て怒り狂い鶴見の前で智春を殺害する。鶴見は隠蔽工作を図り、宇佐美は罪を逃れるが鶴見は北海道に左遷される。

 殺人に罪悪感を抱かない点を鶴見に高く評価される。

 同じサイコパスの尾形とも気が合い、勇作の殺害を後押しする。しかし、尾形が鶴見の寵愛を受けるようになると険悪な関係になる。尾形から「(鶴見中尉にとって)一番安い駒」だと言われたのを根に持っている。

 物語登場時点では網走監獄に潜入調査していた。門倉にバレて任務失敗。罰としてほくろを棒人間にされたので刺青にする。

 札幌でさんざん射精した末に、尾形に射殺される。

有古

 アイヌ

 父は殺された7人のアイヌのうちの一人。金塊のありかを知る老人キムシプ(たぶんチカパシの祖父)を脅すやり方に共感できず離脱。鶴見からウイルクの正体を教えられると、それを伝えに7人のアイヌの元に戻る。その結果、殺し合いが発生する。(この時点で有古は鶴見中尉の部下。)

 本人は土方の蝦夷共和国構想に共鳴したのか、鶴見を裏切り土方側につく。ただし、鶴見に脅されているので、さらに土方を裏切る可能性も残っている。

キロランケ

 ロシア皇帝を殺害したテロリストの一人。

 北海道に入ってからウイルクと別れたが、アシリパが生まれてからウイルクが樺太を切り捨てる路線に転向したことに怒りを覚える。方向性の違いのために金塊探しにも関わらせてもらえなかった。

 ウイルクと同じように家族を持ったが、ウイルクのような考えには至らなかった。ウイルクは弱くなったと感じたキロランケは、ウイルクの憧れた狼のように彼を殺してあげることを決意。網走で実行する。

インカラマッ

 鶴見中尉に、7人のアイヌの殺害現場にキロランケの指紋が残されていたと聞かされ信じる。しかし、これは鶴見の嘘だった。

谷垣

 秋田の阿仁出身。

 親友の賢吉が、妻である谷垣の妹を殺害して行方不明になる。谷垣は賢吉に復讐するために第七師団に入る。日露戦争の戦場で賢吉に再会するが、賢吉はその時には死の間際だった。妹が疱瘡にかかったために賢吉が苦渋の決断をしたことを知る。それ以来、自分の役目は何かを問い続けている

 鶴見中尉の部下として杉元を襲うが、レタラに半殺しにされる。エゾオオカミを目の当たりにして東北マタギの血が騒ぐ。

 同じくレタラを狙う二瓶鉄造に追従し、再び杉元たちとバトル。アイヌの罠で死にかける。勃起は二瓶鉄造の口癖。

 コタンで療養して、アシリパの故郷に愛着を持つ。チカパシと勃起友達になる。

 インカラマッがコタンを訪れ、その予言によりフチが不安を覚えたので、アシリパを連れ戻すことを自分の役目と考え旅に出る。

キーワード

過去と未来

 『ゴールデンカムイ』の登場人物は二つのグループに分けることができます。過去を見ている者たちと未来を見ている者たちです。

 過去を見ている者たちの典型は、死刑囚たちです。『ゴールデンカムイ』には多くのサイコパスが登場しますが、彼らの多くが、過去のトラウマを再現しようとしています。猪に弟を食われた辺見和雄、妊婦だった母に憧れる家永、犬童への復讐に燃えていた都丹庵士、娘を雷で失った関谷、家族をヒグマに襲わせた平太、父にがっかりさせた上エ地、母が遊女だったジャック・ザ・リッパー……。

 過去グループの代表選手は尾形です。彼もまた、母を殺した過去に起因する(無自覚の)罪悪感から逃れるため、己を正当化することが彼の最終目標に見えます。その手段として、どのような道を選ぶのかは分かりませんが。

 対して、未来を見ている者の代表がアシリパと杉元です。第26巻は象徴的です。アシリパ「アチャの汚名を返上することよりもアチャから託されたアイヌの未来を優先させる」と言うし、杉元は「誰から生まれたかよりも何のために生きるかだろうがッ」と叫びます。谷垣やインカラマッもこのグループに入るでしょう。

 「役目」を背負っているかどうかが両者の分かれ目のようです。その観点で行けば、鶴見中尉は第七師団の面々に役目を与える存在だという見方もできるかもしれません。江戸貝君も鶴見中尉に役目を与えられたからあんなに生き生きしていたのでしょう。

家族

 家族も重要なキーワードです。この物語の軸自体、アシリパとウイルクの親子関係です。囚人たちのトラウマも家族に関わるものばかりです。

 第七師団のキープレーヤーたちは、鶴見中尉が父親代わりを担っているようにも見えます。鶴見中尉の立場からしても、妻子を失った代わりに、第七師団という家族を作ろうとしているという風にも読めます。(宇佐美だけ異端。二階堂はモブ。)

 こうして見てみると、鶴見中尉はけっこう良い感じに見えますが、彼の人生は嘘で塗り固められているというところは重要なポイントです。

 杉元は家族全員を疫病で失っていますが、この点、海賊房太郎と同じバックボーンを背負っています。杉元は誰かのために生きることに人生の意味を見出す一方で、房太郎は国家(家族)を作る未来を夢見ていました。土方や谷垣も杉元に近いキャラクターとして描かれていると思います。

 ちなみに、杉元は社会から疎外されているという点においてアイヌにシンパシーを感じているかもしれません。有古は父を失っているうえに、鶴見からも土方からも仲間だと思われていない人間なので、杉元的には他人とは思えないのかもしれません。

 アシリパ、鯉登少尉、花沢勇作は、戦士の父から愛された子(かつ誰も殺していない)という点で共通していて、尾形の嫉妬の対象です。

まとめ

 いかがでしょうか?

 重要なポイント、悩むポイントだけまとめればこんな感じかと思います。とはいえ、やはり『ゴールデンカムイ』はかなり濃厚かつ複雑な作品ですので、取りこぼした要素は少なくないかもしれません。

 特に、黄金とウェンカムイ(殺人)は超重要ポイントにも思えますが、今回は書きませんでした。

 黄金に関しては人を狂わせるものとして描かれてはいますが、金と無縁の登場人物も少なくないように感じます。となると、ほぼ確定的な作品のテーマ(過去と未来・家族)と結びつけるのがなかなかに難しい……。

 殺人についても杉元は地獄に落ちるというのが随所に描かれていますが、それが杉元の未来にどのような影を落とすのかは見えてきません。殺人鬼でも幸せな最期を迎えた登場人物たちはいないことはありません。それよりも黄金を発見した後に杉元が何に生きる目的を見出だせるのかということの方が確実に存在する課題です。

 いずれにせよ、杉元とアシリパの行く末に何が待ち受けているのか!?

 第28巻が楽しみなのは確かです!