たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

7問目 純資産の部

Q.繰越利益剰余金100万円を次の通り処分する。資本金1000万円、資本準備金100万円、利益準備金100万円

 配当金:1,000円/株(発行済株式は1,000)

 利益準備金会社法が定める金額

 別途積立金:100,000円

 

 こんな問題がしばしば出題されます。純資産の部は出題頻度は少ないですが、たぶん覚えることはそんなにないので勉強します。

 

 基本の純資産三つ

 純資産について基本となる科目は以下の3つではないでしょうか。

資本金

 資本金は会社運営の最も基本となるものです。株式会社を設立するにあたって出資されたお金です。たとえば、フェイスブックは最初の数年間はビジネスモデルが確立されていない一方で、ユーザーは増加の一途。赤字まっしぐらを突き進んでいました。その費用を工面したのは、マーク・ザッカーバーグを始めとした創業者たちのポケットマネー。これも資本金。規模が大きくなるにつれ費用は膨れ上がる一方なので、ピーター・ティールを始めとしたベンチャーキャピタルの出資を受けて資金不足に対応します。これもまた資本金。

資本準備金

 しかし、出資を受けたお金のうち50%を超えない金額は資本金として計上しないことができる。これが資本準備金です(50%を限度として資本準備金にできることは頻出問題です!)。資本金は会社の規模を表すものとしてよく利用されるのですが、大きい会社ほど税負担は大きくなります。ですから資本金になる分を資本準備金にしておくと、会社にとってはメリットがあるということですね。

繰越利益剰余金

 会社の運営の原資は、資本金だけではありません。会社が利益を出していれば、それが資金になります。これを毎年積み立てていったものが繰越利益剰余金です。

ZOZOの純資産の部

 純資産の部の基本はこの三つのような気がします。

 ここで、ZOZO(スタートトゥデイ)の2015年3月期決算の有価証券報告書を見てみます。(2015年にした理由は特にありません。)

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 案の定、資本金と資本準備金はほぼ同じ額ですね。ZOZOは儲かっていたので繰越利益剰余金は資本金の10倍以上になっています。

利益準備金

 さて、一般的に、株式会社は利益が出ると配当を出します。出資してくれた株主への感謝の正拳突きです。

 配当を行う時の仕訳はどのようになるのでしょうか。たとえば、繰越利益剰余金から総額で100万円の配当金を出すと決めたときは下のようになります。

(借方)繰越利益剰余金1,000,000(貸方)未払配当金1,000,000

 これだけならベリーイージーな問題です。引っかかるとすれば、「配当を出すと決めた=配当を払った」ではないという点くらいでしょう。

 しかし、配当を出すには以下の条件があります。

  • 資本金の4分の1以上の準備金がないといけない。
  • もしない場合は、配当金の1/10を利益準備金として積み立てなければならない。

 この準備金というのは、資本準備金利益準備金のことです。

 というわけで、簿記の問題で配当が出た場合には利益準備金のことを考えなければなりません。

冒頭の問題の解答

 ここまで分かれば、冒頭の問題は解けます。もう一度、問題を見てみましょう。

Q.繰越利益剰余金100万円を次の通り処分する。(資本金1000万円・資本準備金100万円・利益準備金100万円の会社)

 配当金:500円/株(発行済株式は1,000)

 利益準備金会社法が定める金額

 別途積立金:100,000円

 

 まず、配当金が 500円/株×1000株 = 500,000円 となりますので、

(借方)繰越利益剰余金 500,000(貸方)未払配当金 500,000

となります。

 次に、利益準備金について考えます。

  1. 資本金の1/4はいくらか?
    10,000,000 ÷ 4 = 2,500,000
  2. 準備金の額はいくらか?
     1,000,000 + 1,000,000 = 2,000,000
  3. 積立が必要か?
    2,500,000 > 2,000,000
    → 積立が必要
  4. 必要な利益準備金の額は?
    配当500,000 ÷ 10 = 50,000
    2,500,000 - 2,000,000 = 500,000
    資本金の1/4に準備金を届かせるためには50万円必要だが、配当の1/10を積み立てるなら50,000円だけでOK。

 したがって、利益準備金の仕訳は以下の通り。

(借方)繰越利益剰余金 50,000(貸方)利益準備金 50,000

 あとは、別途積立金を仕訳するだけです。

(借方)繰越利益剰余金 100,000(貸方)別途積立金 100,000

 以上を合算すれば、答えになります。繰越利益剰余金は一つにまとめられますね。

 ……って! 別途積立金ってなんじゃ!

任意積立金

 上のZOZOの有価証券報告書を見ていただくと、繰越利益剰余金はその他利益剰余金というカテゴリーの中の一部であることが分かります。ZOZOは繰越利益剰余金しかないので分かりづらいですが。

 繰越利益剰余金以外のその他利益剰余金って何?という話なんですが、企業は利益を繰越利益剰余金とする以外に積立金とすることも可能なのだそうです。

 配当は基本的に繰越利益剰余金から捻出されます。逆に言うと、繰越利益剰余金でなければ悪い株主から配当を強いられずに済みます。そこで、株主総会の決議を経て、利益のうち配当したくない部分を積立金とすることで守ることができる。これを任意積立金と呼ぶのだとか。

 任意積立金のうち、目的があって積み立てられるものは目的に応じて〇〇積立金みたいな名称がつきます。目的がないものは別途積立金と呼びます。

その他資本剰余金

 またまたZOZOの有価証券報告書を見ると、資本準備金は資本剰余金の中の一部になっています。資本剰余金には「その他資本剰余金」というものもあるようです。これはなんでしょうか?

 まず、その他資本剰余金とは、資本準備金のうち資本準備金以外の部分です。

 じゃあ資本準備金以外の資本剰余金ってどんなのがあんのよ?というのが次の疑問です。

 その他資本剰余金が発生する主な場面は以下の三つのようです。

  • 資本金・資本準備金の取り崩し
     資本金等は株主総会の決議を経ることで、損失に補填して貸借対照表の見栄えを良くしたり、配当の原資としたりすることができます。その際に、資本金等でなくなったお金が資本剰余金となります。
  • 自己株式の売却
     会社が自分で持っている自社の株式を売却して利益が出た場合、その他資本剰余金として計上されます。
  • 自己株式の消却
     会社が自分で持っている自社の株式を消却した場合、資本剰余金からマイナスされます。

 ZOZOの有価証券報告書ではその他資本剰余金が増加しています。なぜでしょう?

 有価証券報告書の中を探すと、ヤッパという会社を株式交換により子会社化したことによるもののようです。

 ZOZOがヤッパの株式を全て取得し、その代わりにヤッパの株主にはZOZOの株式を交付した、というものだと思われます。

 その際に、「ヤッパの評価額=交換したZOZO株の売却価格」となりますが、そこからZOZOが自社株の取得に要した額を差し引いたものがその他資本剰余金に組み入れられたのではないかと推測いたします。ZOZOの自己株式が-3276227から-2817766となっており自己株式458,461千円分を処分したことが分かります。その他資本剰余金は267373から728672になっており、461,299千円の利益があった? となると、458,461+461,299=919,760千円がヤッパの評価額となりそう。53Pを読むと、取得株式の取得価額928,762千円となるからけっこう近い額が。細かいところはもう少し修正する必要があるとしても、だいたいこんな感じのイメージなのか??? なんか違う気もする……ゴニョゴニョゴニョ

 調べていると時間がどんどん失われてしまいそうなので、今回はここで諦めます。

 大事なのは、資本剰余金は資本の増減に伴って生じる金がここに組み込まれていて、利益剰余金とは区別されているということですね。ですから、利益準備金を取り崩せば利益剰余金になるし、資本準備金を取り崩せばその他資本剰余金になります。

まとめ

 以上を整理すると、純資産の部は以下のとおりになります。

 その他に覚えるべきことは

  • 資本準備金は資本金と同額が限界。
  • 資本金の1/4に準備金が達していない場合、配当額の1/10は準備金として積み立てねばならない。

 おそらく他にも自己株式などがありますが、私が解いた過去問に関しては上の知識で対応できそうでした。

 こうやって見ればやはり覚えることは少ないですが、日常的な感覚が通用しないのが厄介なところですね。