今日は衆議院議員総選挙について考えたい。
まずは基本的なところから確認しよう。衆議院の総議席数は465。このうち289議席が小選挙区によって、残る176議席が比例によって決まる。確実に与党となるためには、単独で過半数の233議席を確保することが必要になる。
今回は、議席の半分以上を占める小選挙区について考えたい。(ちなみに、長々と書いているけど、目新しいことは何も書いていないのであしからず。)
汚いけど、今回の記事を書くために作ったスプレッドシートを載せておく。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1TgtU2LfF2a2wtZtpmmJJoOfqKA2jcRkpdJbCQXeoUQM/edit?usp=sharing
そもそも小選挙区って何?
小選挙区の基本をおさらいしよう。
小選挙区の特徴は、一つの選挙区から一人の候補だけが当選することだ。これに対して、一つの選挙区から複数人の候補が当選する場合は大選挙区と基本的に呼ばれる。
小選挙区制は死に票が多数出ることに特徴がある。たとえば、仮にA党とB党の二つの政党しか存在しない国家があったとしよう。そして、A党が全ての選挙区で51%の得票率を得たとする。この場合、49%の国民はB党を支持しているのにもかかわらず、この国の議会はA党のみによって構成されてしまうことになる。少数派の民意が選挙結果に反映されないのが小選挙区制なのだ。
これに対して、比例代表制は、得票率に応じて議席が配分される。より民意を的確に反映する仕組みといえる。
こう書くと小選挙区制より比例代表制の方が優れているように見えるが、野党がまとまらない要因になっている可能性もある。まあ、どっちの制度の方が良いかはここでは議論しない。
とにかく小選挙区制とは、たった一人だけが勝つゲームなのだ。
得票率ランキング
まずはみんなが気になる「誰が強いのか」を調べていこう。政治家の戦闘力は得票率によって数値化される。
トップ10は自民党が独占
前回2021年衆院選のトップ10は次の面々。
- 石破茂 84.07%
- 小野寺五典 83.24%
- 古川禎久 80.73%
- 岸田文雄 80.67%
- 大野敬太郎 79.78%
- 河野太郎 79.32%
- 小泉進次郎 79.17%
- 橘慶一郎 78.54%
- 佐々木紀 78.43%
- 御法川信英 77.95%
やはり総理大臣になる男は違う。石破茂が堂々の第1位だ。
得票率は選挙区内で立候補する人数によっても変わってくる。2人しか候補がいない選挙区は、3人候補がいる選挙区よりも票が偏る。ということは、このトップ10の中に、2人よりも多い候補者数の区から出たメンバーがいると、そやつはかなりの豪の者といえる。
というわけで、トップ10のうち、3人の選挙区出身は古川禎久、河野太郎、佐々木紀。4人の選挙区出身は岸田文雄。やはり首相になる男は格が違う。
ちなみに選挙区の人数ごとの最強議員は次のとおり。
- 5人:鳩山二郎 67.45%
- 6人:斉藤鉄夫 55.07%
- 7人:柿澤未途 32%
柿澤未途は当選議員の中で最低得票率でもある。
さて、ここまで見てきた中でお気づきであろうか?
これまで名前が出てきた面々は、公明党の斉藤鉄夫を除けば、全員が自民党なのだ。もっというとトップ40は自民党が占めている。つ、強すぎる……。
各政党の最強
では、自民党以外では誰が最強なのか?を政党別に見てみよう。
- 立憲民主党:野田佳彦 64.55%
- 国民民主党:玉木雄一郎 63.5%
- 無所属:西野太亮 60.64%
- 公明党:中野洋昌 58.8%
- 日本維新の会:青柳仁士 55.67%
- 社会民主党:新垣邦男 47.39%
- 日本共産党:赤嶺政賢 42.17%
ほかの政党は小選挙区で当選者を出せていないので省略。ちなみに無所属最強の西野太亮は、今は自民党の議員になっている。
各政党の実力
個人ランキングは自民党が席巻したわけだが、では政党単位で考えるとどうなるのだろうか?
何より重要な当選者数で見てみよう。結果は次のとおり。選挙区ごとの候補者数で分けている。

自民党は実に全体の67.50%の選挙区で勝利している。公明党は勝率100%。これならば改憲の発議もできるわけで、与党は小選挙区において圧倒的な強さを誇ると言ってもよいだろう。
ところが、比例代表も含めると、自民党の議席は261/465(56.13%)となる。比例のみでは、72/176で半分を割っているのだ。公明党の23議席を加えれば過半数を超えるものの、小選挙区に比べると弱いのは間違いない。
逆に言えば、自民党の強さの源泉は小選挙区にあると言える。そして、衆議院の289/465が小選挙区であることを考えれば、これは強力なアドバンテージだ。
仮に比例の議席を野党が独占したとしても、小選挙区で自民党が全勝してしまえば政権交代ならずだ。小選挙区でどれだけ勝てるかが政権交代なるかの鍵なのである。
小選挙区で勝つために何が必要だったか?
では、野党が小選挙区で自民党に勝つ確率を高めるためにすべきことはどんなことなのであろうか。または、どんなことだったのであろうか。
一騎打ち
先日の東京都知事選で明らかになったが、選挙において「現職は強い」というのが基本的な前提となる。選挙には現職を支持するか否かを投票する側面がある。選挙人の半数以上が現職を支持するならば、そもそも対立候補に勝ち目はない。問題は、選挙人の半数以上が現職を支持しない場合だ。この場合において対立候補が勝てるか否かが肝となる。
選挙人の半数以上が現職を支持しない場合に、対立候補が確実に勝つにはどうすればよいか? 答えはシンプル。選択肢を一つに絞ることだ。
たとえば、2021年衆院選で小田原潔の得票率は45.51%だった。対立候補は立憲民主党の大河原雅子と日本維新の会の竹田光明。それぞれの得票率は40.11%と14.38%。さて、もし維新がこの選挙区に候補者を立てていなかったらどうなっていただろうか? 竹田に投票した14.38%のうち、9.89%が大河原に投票していれば、この選挙区は野党が勝てたのである。
「野党が勝ちたいなら一騎打ちに持ち込め」ということだ。これは結果にも現れている。上の表のとおり、一騎打ちのときの自民党の勝率は65.66%だが、対立候補が2人以上になると勝率は68.51%に跳ね上がる。シンプルに考えれば、一騎打ちには与党の勝率を2.85%押し下げる効果がある。
上述のトップ10に一騎打ちを制した議員が多数ランクインしていることから推察されるが、勝ち目のない選挙区に野党は候補を立てたがらないものと思われる。仮にそうだとすれば、一騎打ちの効果は2.85%よりさらに大きいのではないだろうか。
現実の野党の対応
今回、小田原潔は裏金の件で自民党の公認を得られていない。無所属としての出馬となっている。野党にとっては、彼の出馬する選挙区を奪う大きなチャンスだ。確実に勝つために、対立候補は一本化したい。
ところが、小田原が出馬する東京21区にはなんと、立憲民主党・大河原雅子、日本維新の会・山下容子、参政党・森裕一の3人が立候補しているのだ!
小田原潔が圧倒的逆風の中で勝てるかどうかは定かではないが、一つだけ明らかなことがある。野党は対立候補を一本化することができなかったのだ。
NHKの報道によれば、1対1の選挙区は36選挙区に留まるという。前回は100選挙区で1対1にできたわけだから、野党連携は大きく後退している。
36選挙区
36選挙区なら少ないからいけるか!?と思い、NHKのサイトをポチポチしながら自民系の候補者が誰か調べてみた。結果は以下のとおり。(数字は前回の得票率)
- 北海道7区:鈴木貴子 前回は比例単独
- 北海道10区:稲津久 53.93
- 北海道12区:武部新 58.43
- 岩手2区:鈴木俊一 67.99
- 岩手3区:藤原崇 52.05(裏金:非公認)
- 宮城3区:西村明宏 59.27(裏金:重複なし)
- 福島1区:亀岡偉民 48.85(負け)(裏金:重複なし)
- 茨城7区:永岡桂子 46.51
- 栃木2区:五十嵐潔 46.61(負け)
- 群馬3区:笹川博義 54.63
- 埼玉10区:山口晋 51.59
- 埼玉12区:野中厚 48.97(負け)
- 千葉2区:小林鷹之 62.04
- 神奈川17区:牧島かれん 55.32
- 新潟5区:高鳥修一 49.5(負け)(裏金:重複なし)
- 長野3区:井出庸生 51.53
- 長野4区:後藤茂之 62.61
- 山梨2区:堀内詔子 67.93
- 岐阜1区:野田聖子 62.54
- 岐阜4区:金子俊平 51.23
- 静岡4区:深澤陽一 53.3
- 広島4区:寺田稔 67.66
- 山口2区:岸信千世 52.5(補選)
- 高知2区:尾崎正直 67.24
- 佐賀1区:岩田和親 49.96(負け)
- 宮崎3区:古川禎久 80.73
- 鹿児島3区:小里泰弘 46.13(負け)
- 鹿児島4区:森山裕 69.54
どどどどーゆーこっちゃ。8区足りない。(案の定)見落としたか。
とりあえず、裏金議員の選挙区で1対1に持ち込めているのはかなり少なそうだ。
戦うべき野党と戦うべきでない野党
ここからは仮の話だ。もし野党連携を進めるとすれば、どこかの党は退かなくてはならない。当然、一騎打ちするべきなのは勝てる党であるべきだから、弱い党は小選挙区から撤退すべき。政権交代を目的とするならば、そういう結論になる。
ここで各党の得票率を見てみよう。(スプレッドシートの画像化って難しい……。)

自民党と公明党が圧倒的に強いのは当然として、野党の序列はどうなのか。
下から順にいこう。N国が圧倒的に弱いが、それでも2%前後の票が流れてしまうという事実。泡沫政党といえど、接戦では軽視できないのだ。
意外と高いのがれいわ新選組。共産党とほぼ互角だ。逆に言えば、共産党はれいわ新選組と同レベルの政党といえる。れいわ新選組は12人しか擁立していないからまだいいものの、共産党は105人も候補者を立てている。このうち当選したのは、105人のうちたった1人だ。もちろん本気で戦うつもりならば候補者をできるだけ多く立てるのが筋ではあるのだが、政権交代をしたい立憲民主党からするとたまったものではない。
共産党と同類に見せかけて、意外とクレバーに戦っているのが社民党だ。得票率は共産党より5%以上高く、9人しか擁立していないのに1人当選を出している。勝てない戦いは控えているようだ。ちなみに、共産党も社民党も、どちらも沖縄から当選者を出している。沖縄の特性が垣間見える。
社民党をパワーアップしたバージョンが国民民主党だ。1対1の選挙区では立憲民主党を上回り、野党最強の得票率を記録している。とはいえ、候補者数が21人ではどれだけ頑張っても与党になどなりえない。国民民主党が目指すのは政権交代ではなく、キャスティングボートを握ることだ。
唯一、得票率と候補者数を兼ね備えているのが立憲民主党。現時点で政権交代を本気で考えている唯一の政党と言っていいだろう。
そして、将来的には立憲民主党に代わる第二勢力を目指しているのが日本維新の会。こちらも今回の選挙に限って言えば、キャスティングボートを握ることが目標といったところか。
以上をまとめると、打倒自民党を目標とするのであれば、小選挙区は立民、維新、国民に任せて、それら以下の政党は比例に集中するのが筋だろう。強いて言えば、有力野党が戦う気にもならない自民の上位層(石破や小泉の選挙区など)の対立候補になるくらいで我慢するべき。一部の党にだけ都合のいい理屈に見えるが、選挙には金もかかるはずなので勝つ見込みのない戦いをしなくていいのはメリットなはず。
逆に言えば、議席を取れる見込みがほとんどないのに小選挙区に出馬している政党は、政権交代以外のなにかを目指しているのだろう。特に獲得議席数が1前後で、政策的にも自民党と妥協できる点がない政党はキャスティングボートを握ることすらできないはずだ。
有権者にできること
というわけで、自民党と公明党は強い。にもかかわらず、野党は打倒与党で固まってはいない。今回も自民党が過半数を維持する可能性は十分にある。そうなれば自民党の早期解散戦術がピタリとハマったということだ。
もしあなたが自民党を政権から引きずり下ろしたいと考えているならば、やるべきことは一つ。
最も有力な対立候補に投票する。
これだ。
当選してほしい候補に投票してはいけない。
小選挙区において、3位以下の候補に投票することは白票を投ずること、投票しないことと同じだ。
すべての選挙人が最も有力な候補(だいたい自民党)と次に有力な候補にしか投票しなければ、何人立候補しようが2人しか立候補していないのと同じ状況を作り出せる。
よく「誰にでもいいから投票しよう!」という人がいるが、あんなのは大嘘だ。少なくとも小選挙区では。(そして大体において、そういうことを言う人は自分の意に反する政党がたくさん得票すると怒り出す。……というのは偏見だけど。)
小選挙区で泡沫候補に投票しても、選挙に行かないのと何も変わらない。「いや、当選しなくても得票率が物語るものが次に繋がるんだ!」というかもしれないけれど、それなら投票に行かないことや白票を投ずることにもそれぞれになにがしかの意味があるであろう。
選挙の結果に影響を及ぼしたいのならば、小選挙区では1位候補と2位候補以外のことは考えてはならない。
みたいなことを書いていると、まるで私が政権交代を望んでいるかのようだが……まあ、そこは書かないでおこう。