たぬきのためふんば

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強い思いがあれば夢は叶う! 『サンセット大通り』

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その15 サンセット大通り

 売れない脚本家のジョー・ギリスは、自分のことを今も映画界の大物だと思いこんでいる落ちぶれた大女優のもとに身を寄せ、彼女が書いた脚本の手直しをする。

 『サンセット大通り』は1950年公開のビリー・ワイルダー監督作品。アカデミー賞では11部門にノミネートされるも、『イヴの総て』にその多くを奪われ、受賞は3部門にとどまった。

ハリウッド版『ドン・キホーテ

 妄想に取り憑かれた人間の物語といえば、まず第一にセルバンテスの『ドン・キホーテ』が思い浮かぶ。

 ジョー・ギリスを養うノーマ・デズモンドは、自分のことを映画界の大物だと思いこんでいる。彼女がサイレント映画時代に大スターだったことは事実なのだが、トーキーの隆盛とともに彼女の栄光は過去のものとなっていた。しかし、彼女はその事実を受け入れられずにいる。

 ドゥルシネーア姫を讃える旅に出るドン・キホーテのように彼女は映画界に返り咲くための計画を動かそうとしている。自ら書いた脚本をパラマウント社に売るのだ。

 ノーマ・デズモンドの屋敷には一人の執事がいる。サンチョ・パンサのごとく小太りの男であるが、サンチョとは対照的にこの執事は非常に優秀かつドン・キホーテの妄想を助長する役割を担っている。名をマックスという。

 ノーマには昔に買った豪華な愛車があるのだが、これはさながらロシナンテか。

喜劇か悲劇か

 『ドン・キホーテ』は喜劇だ。『サンセット大通り』ももともとはコメディーとして構想されていたそうだ。ところが、実際に出来上がったものは悲劇的な雰囲気が濃い。

 カギを握るのはたぶん主人公であるジョー・ギリスだ。「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」なんてチャップリンが言ったそうだが、ジョーはノーマのヒモになるから相当近くで彼女を見ることになる。

 しかも、ジョーはハリウッドでの成功を夢見ていて、ベティ・シェーファーという可愛い友人の婚約者と良い感じになることで、その夢を膨らませていく(そう、また浮気である!)。だが、その夢の先に待っているものをノーマ・デズモンドは暗示している。「遠くから見る」なんてことはどだい無理な話なのだ(これは製作者たちにも同じことが言えるかもしれない)。

 救いがあるとすれば、冒頭で死体となってプールに浮かんでいるジョーがこの物語の語り手であることだろう。おかげで、ジョーに関しては少し離れて浮遊霊の目線から見ることができる(気がする)。

すべてが本物

 ノーマが妄想から醒めないようにマックスは涙ぐましい努力をするのだが、この映画自体も本物かと見まごうほどに作り込まれている。観客をノーマの妄想に引きずり込もうとしているかのごとく。

 というのもだ。この映画の主演女優、グロリア・スワンソンは本物のサイレント時代のスターなのである。ノーマの映画を撮ったという巨匠デミルは実在の人物で本人が演じているし、グロリア・スワンソンはデミルの映画でスターダムにのし上がったそうな。その他にもバスター・キートンなどそうそうたるメンツが本人役、あるいは本人を投影した役柄を演じている。すごい。

願いは叶う

 この映画の最大の魅力は、妄想を妄想で終わらせないことだろう。最終的にジョーもノーマも夢を実現する。思い描いていたのとは少し違う形で。迫力のラストシーンは必見!