たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

『SLAM DUNK』の原点を『スミス都へ行く』に見出した

今週のお題「かける」

 

 昨年までブログのネタ探しに困ってサボることも多かったが、今年の目標に「アメリカ映画ベスト100を制覇する」を掲げたら、ブログのネタに困らなくなった。

 これにはいくつかの要因がある。目標があると映画を見るモチベーションが湧く。その目標もちょうどよかった。土日に頑張れば確実に達成できるが、サボると達成できるか危うくなる絶妙な難易度。達成したら成長できそうな感じもある。なので土日はちゃんと欠かさず映画を見られる。そして、見る映画が名作ばかりなので、面白い面白くないに関わらず、なんらかの語れる要素が確実にある。

 ただし、ネタに困らなくなっただけで、アクセスが稼げるわけではない。

 

アメリカ映画ベスト100制覇への道:その7 スミス都へ行く

 というわけで、今回は『スミス都へ行く』を見た。

 『スミス都へ行く』は、悪徳政治家が傀儡としてボーイスカウトの団長であるジェファーソン・スミスを上院議員にする話だ。

 原題は"Mr.Smith Goes to Washington"で、都とはワシントンのこと。つまり「田舎者がニューヨークのような繁華街に行きまっせ~」という話ではなく、「政治の中心地に政治の素人が飛び込むぞ!」という意味合いがこのタイトルには含まれている(はず)。

「もし~だったら?」の魅力

 『スミス都へ行く』はすごい。まず「もし純朴な一般人が上院議員になったら?」という設定がワクワクする。「もし~だったら?」が核にあるストーリーはだいたい面白い。

 『アルジャーノンに花束を』(もし知的障害者が天才になったら?)とか『新世界より』(もし超能力を一部の人間が手に入れたらどのような社会が形成されるのか?)とか。映画や小説に限らず、『モニタリング』や『水曜日のダウンタウン』などのドッキリ系のバラエティー番組でも「もし~だったら?」が強烈な求心力を発揮している。

人物配置の妙

 登場人物の配置も完璧だ。スミス氏を上院議員に選ぶのが、悪徳政治家たちだ。そのうちの一人は死んだスミスの父親の親友だったペイン氏で、かつては巨悪と戦う志を持った人物だった。スミスは彼が闇落ちしていることを知らず、政治家として活動する中で不正に気付き、対決することになる。

 追い詰められたスミスをサポートするのが政治の腐敗に失望している美人秘書のサンダース。しかし、ペインのこれまた美人の娘がスミスを色仕掛けで篭絡しようとしたり、サンダースに長年言い寄っている記者がいたりして、ラブロマンスとしても面白い。

 『スミス都へ行く』の人間関係は何につけ一捻り加えられている。これがドラマを生み出しているのだ。

めたたぬき的キャラクター理論

 ここで最近、私が考えていることを書いてみたいと思う。物語において、人間関係は以下の5種類しかない。

・家族

・恋人

・友人

・敵

・師弟

 そして、一つの人間関係に上記のどれか一つだけが当てはまるとは限らず、二つ以上が当てはまるとそこにドラマが生まれてくる。

 たとえば、スミスとペインの関係は、家族であり敵でもある。スミスとサンダースの関係は友人でもあり師弟でもあり、友人から恋人になる可能性を観客に感じさせてもいる。他の作品でいうと、『STAR WARS』ならルークとダースベイダーは親子でありながら敵でもある。『コードギアス 反逆のルルーシュ』ならルルーシュとスザクは親友であり敵だ。

映画でわかる◯◯

 近頃、書店のビジネス書コーナーに行くと、「マンガでわかる◯◯」系の本が非常に多い。ビジネス書『X』が売れると、『マンガでわかるX』を作って売るという黄金パターンが確立されつつある。「楽しく楽に勉強したい」という強い欲望が人間にはあるらしい。

 『スミス都へ行く』は『映画でわかるアメリカ議会』でもある。

 新聞記者に自分が傀儡であることを突きつけられたスミスは、法案を作ることに決める。スミスに懇願されたサンダースは、アメリカで法律が制定されるまでの過程をスミスに(そして観客に)レクチャーする。スミスは実際に法案を作成してみる。

 この法案がペインたちにとってまずいものであったために、スミスは悪徳政治家たちと対決する羽目になってしまうのだが、ここでは権力者に逆らった上院議員はどのようなプロセスを経てクビを切られるかが描かれる。

 クビを切られそうになったスミスは、ペインの後ろにいる黒幕の罪を告発するためにフィリバスター(議事妨害)を敢行する。ここでスミスがあくまで議場のルールに従って戦うことに注目されたい。本当ならスミスは黒幕を殴り飛ばしに行くなどの選択肢もありえた(面白いかはさておき)。しかし、スミスはあくまで議場で戦う。なぜならこれは『映画でわかるアメリカ議会』だから。スミスが拠って立つ法的根拠まできっちりと示されている。

SLAM DUNK』のルーツは『スミス都へ行く』にあり!

 というわけで、『スミス都へ行く』はかなり面白い。まぎれもない名作だ。

 「素人が政治の世界に飛び込む」は黄金パターンなので、このメソッドを踏襲した映画は多い印象がある。一番分かりやすいのは、ウクライナのゼレンスキー大統領がブームを巻き起こしたらしいドラマ『国民の僕』だ。これはまさに「もし歴史教師がウクライナの大統領になったら?」を描いたドラマだ。日本だと『民王』という映画がある。遠藤憲一演じる総理大臣と菅田将暉演じるバカ息子の中身が入れ替わる話だ。(ただし、入れ替わりという大技を使ったがために『スミス都へ行く』とはかなりかけ離れた印象がある。)

 ただし、このパターンは必ずしも政治の世界に限る必要はない。「もし素人がプロ集団に飛び込んだら?」で作られた作品は数多くあって、名作バスケ漫画SLAM DUNK』はその筆頭だ。

 実は『SLAM DUNK』と『スミス都へ行く』の親和性はかなり高い。『SLAM DUNK』も「身体能力の高い素人がバスケットボールをやったら?」的なストーリーになっている。

 天才桜木花道がバスケを始める理由は赤木晴子に一目惚れしたからだが、赤木晴子はバスケ部部長のゴリの妹で花道とゴリはなかなか馬が合わなかったり、春子は流川のことが好きだったりする。そんな感じの人間関係の妙が『SLAM DUNK』の面白さの核であることは間違いない。

 『SLAM DUNK』は『マンガでわかるバスケットボール』要素が濃い作品だ。多くの青少年が『SLAM DUNK』を通して庶民シュートやリバウンドの大切さを学び、左手は添えるだけであることを学んできた。『SLAM DUNK』には必殺技は出て来ないし、場外バトルは発生……する。だが、桜木花道の主戦場はコート上で、花道はそこで強大な敵と戦うことになる。

 完全に『スミス都へ行く』だ。『SLAM DUNK』は『スミス都へ行く』だった。どちらも「ス」で始まって「ク」で終わる奇跡。

 『SLAM DUNK』のような漫画を書きたい皆さん、『スミス都へ行く』は必見ですよ!

 ちなみに、監督はフランク・キャプラフランク・キャプラは『或る夜の出来事』『スミス都へ行く』『素晴らしき哉、人生!』の三作品がアメリカ映画ベスト100の中に入っている。化け物か。これまで見てきた7作品の中で私好みだったのが『或る夜の出来事』と『スミス都へ行く』だった(『素晴らしき哉、人生!』はまだ見ていない)ので、私はフランク・キャプラ作品と相性が良いのかもしれない。

 あとこの映画はおじさんがすごい良い味を出している。ペインと議長がものすごく魅力的なのだ。おじさん好きの諸氏にもぜひ見てほしい。