今週のお題「買ってよかった2022」
振り返ってみると、今年は何も「買ってよかった」と思えるものを買っていないことに気がついた。
天体観測用に双眼鏡を買ったが、あまり使う機会もないし、人に勧められるほど有効活用できていない。
無印良品で厚手の木綿の下着を買ったらこれが暖かくて、尋常でない量の静電気を発生させるヒートテックより良いのでは?と思ったりしているが、買ってから日が浅いため本当に買って良かったかはまだ定かではない。
だが、一つだけあった。
今年買った物の中で唯一のスペシャルなものが。
「雅な椀」である。
雅な椀はよいぞ……。
「美人には3日で飽き、ブスには3日で慣れる」というが、雅な椀はいくら使っても飽きない。
夕食の準備をしながら、毎晩のようにその朱塗りの美しい造形に見惚れている。
そして次のような言葉が口をついて出てくるのだ。
ほう、みやびな椀だな。
そなたを見ていると古い書に伝わるいにしえの民をおもい出す。
東のはてにアカシシにまたがり、石のヤジリをつかう勇壮なるエミシの一族ありとな…。
(『スタジオジブリ絵コンテ全集11 もののけ姫』81Pより)
せっかく雅な椀を持っているのに、なぜアシタカではなくジコ坊になりきっているのか?
そうお思いの方もいるだろうが、アシタカが雅な椀に言及するセリフがないのだからしかたない。
もちろんアシタカになりきれるタイミングもある。洗い物の時間だ。
雅な椀に付いた泡を流水で流した後は必ず、雅な椀に水を溜めてじっと眺める。
この時、私の心はシシ神の森にある。
タイル張りの壁の向こうに背に光を浴びたシシ神が見える。
私の右腕には呪いの痕が刻まれている。
雅な椀には無機質な台所をシシ神の森に変える力があるのだ。
お茶碗なんて米を盛れればいいと思ってた。
100円のお椀も100万円のお椀も価値は同じだ。それなら安いお椀の方が良いに決まっている。
そう思っていた。
だが、違った。
違ったのだ。
やはり、良いお茶碗は、良い。
圧倒的に良いのだ。
「お前はずっと何を言っているんだ?」と思っている人もいるかもしれない。
今年の7月にこんなニュースが流れた。
『もののけ姫』のあの「雅な椀」が100個限定で販売されるというのだ。
馬の骨とも知れない業者が勝手に「雅な椀」と称して売っているのではない。どんぐり共和国が自ら販売する本物である。ジブリのことだから品質にはこだわってくれるに違いない。
これは買いである。
値段を見なければ。
そう、この雅な椀、お値段なんと3万9600円である。約4万円。高っ! アニメのグッズにしては高い、高すぎるぞ!
というわけで、さすがの私も躊躇した。上に書いたように、お茶碗など米をよそえればいいのである。4万円もするお茶碗を購入する経済的合理的理由はなにもない。
だが、人は「限定」という言葉に弱いものだ。
これを逃したら、もう二度とチャンスは訪れないかもしれない。
ここで買えば、選ばれし100人のうちの一人になれるのだ。数多いジブリファンの中でも自分が優越的な地位に立てるチャンスである(それになんの意味があるかは知らない)。
4万円など、FXで100万円が300万円になっている私にとってははした金ではないか。(※7月当時の話。欲を出した結果、つい昨日、100万円は30万円になった。150円のドルは圧倒的に買うべきではなかった。)
それに、悩んでいる時間はない。この記事が出たのが7/15。この椀が発売されるのは7/16である。
この商売上手め!
この商品は確実に争奪戦になる。近頃は転売ヤーも多いからなおさらだ。もしかしたら買おうと思っても買えないかもしれない。
とりあえず販売時刻になったら購入を試みてみよう。そう決めた。
そして7/16の10時が訪れた。その瞬間にクリック。
あっさりと商品はカートに入った。
少し悩んだが、やはり買うことにした。
届いた雅な椀は立派な桐の箱に入れられた、紛うことなき雅な椀であった。
あまりに美しくて使うか迷ったが、桐の箱に入れて見えないところに保管していたらなんのために買ったのか?
というわけで、日常的に使用しているが、その効能は上に書いたとおりである。
良い食器は日常を豊かにする。良いファングッズは日常を豊かにする。多少の金は惜しむべきではない。
そんなことを私は学んだのである。
ちなみに私は二木真希子とノリタケがコラボしたトトロのマグカップも愛用している。
この商品が売られる経緯についてのインタビュー記事が↓。
二木真希子女史は『となりのトトロ』で木がグングン伸びていく夢のシーンを描いたり、『魔女の宅急便』の冒頭で帰宅するキキのシーンを描いたりした超凄腕アニメーターだ。ジブリ作品で凄い作画だと思ったらだいたい二木真希子の作画だったりする……と書くと異論が噴出するだろうが、それくらい私は二木真希子の作画が大好きだった。
そんな彼女が逝去した2016年、スタジオジブリレイアウト展が松山で開催されていた。このマグカップはそこで売られていたものだ。けちな私にとって、2750円はその場のノリで買うにはちと高かった。だが、これもやはり、ここで逃したらもう買えないかもしれないと思い込み、購入を決断したのである。
そしてやはり、私は毎週、美しいカップに惚れ惚れとしながら、紅茶やコーヒーを注ぐのである。(誤った思い込みも時には役に立つ。)
やはり良い食器は日常を豊かにする。良いファングッズは日常を豊かにする。多少の金は惜しむべきではない。