たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

標準原価差異の分析

 工業簿記、最大の難関に直面しているかもしれません。

 その名も標準原価差異。分かりそうで、なんかよく分からん!

 せっかく工業簿記は点を取りやすいのに、ここで失点したら大ピンチです。

 というわけで、整理してみます。

標準原価差異の概要

 そもそも標準原価差異とは。標準原価計算で原価を計算した結果、実際の原価と差が生じることがあります(おそらく必ず出てくるでしょう)。

 会社の経営状態を確認するという観点からは、この差異が何によって生じたのかを分析することが大事だと思われます。その分析の手法を以下で学ぶことになります。

原料費差異と加工費差異

 まず問題になるのは、原価のうちどの部分に生じた差異なのかということです。原価は二種類なので、差異もまた下記の二つに分類されるようです。

  • 原料費差異
  • 加工費差異

より細かい分類

 上で、原価差異は原料費から生じる差異と加工費から生じる差異があるということが分かりました。

 しかし、なぜそのような差異が生じたのか?という肝心の問題には、まだアプローチできる状態に至っていません。

 そこで、さらに一歩深く分析する必要があります。それぞれの差異に応じて、以下のような差異があります。

原料費差異

  • 価格差異
  • 数量差異

加工費差異

  • 能率差異
  • 操業度差異
  • 予算差異

原料費差異

原料費=単価×数量

という関係にありますから、原料費差異の原因は、単価の想定に誤りがあったか(=価格差異)、数量の想定に誤りがあったか(数量差異)、のいずれかしかありません。

 どちらか片方かだけしかないのであれば話は簡単ですが、両方ある場合がややこしくなります。

具体例

 たとえば、毎月の朝食代を計算するとします。毎朝、ヨーグルトを食べていると仮定しましょう。下のような状況であったとします。

<想定>

 100円/日 × 31日/月 = 3,100円

<実際>

 120円/日 × 25日/月 = 3,000円

 近頃残業続きでちょっとリッチなヨーグルトを食べたい気分になっていて、でも残業続きなので休日は昼頃になって起きたため、朝食はなしにしたというようなストーリーです。

価格差異

 まず、価格差異を算出します。上の式から、

(120-100) × 数量 = ?円

となるのはなんとなく分かります。

問題は、数量にはどちらが入るのか?ということです。

ここでは、とりあえず両方やってみましょう。

(120-100) × 31 = 620円(不利)…A

(120-100) × 25 = 500円(不利)…B

数量差異

 今度は数量差異です。食べる日数が想定より少なくなったために生じる食費の差を求めます。これもまた、

価格 × (25-31) = ?

となるのは分かります。問題は価格に何が入るのか?

とりあえず両方やってみます。

100 × (25-31) = -600円(有利)…C

120 × (25-31) = -720円(有利)…D

どれが正しいのか?

 さて、答えは-100円(食費は想定より100円安くなっている)と分かっているため、その答えになるようA,B,C,Dを組み合わせてみると、

A+D

B+C

の2パターンで答えに辿り着けることがわかります。

 つまり、価格差異と数量差異のどちらか一方で標準価格か標準数量を、もう一方で実際価格か実際数量を使えば、最終的なゴールにはたどり着けるわけです。

 しかし、それだけに困ります。どっちがどっちなのよ!となるわけです。

 結論から言うと、下記の組み合わせになっています。

  • 価格の差 × 実際数量
  • 標準価格 × 数量の差

 B+Cのパターンですね。

 たしかに言われてみれば、お高いヨーグルトを買ったために想定よりも高くついた分の額を求めるのに、食べてもいないヨーグルトの数を計算に含めるのはおかしい気はします。逆に、想定よりも少ない日数しかヨーグルトを食べなかったために想定よりも安く抑えられた分の額を求めるのに、想定上の価格を使うのは、道理にかなっている気はします。そういうことなのでしょうか?

 ここをちょっと調べてみると、どうやら価格差異は企業努力でどうにもならないもの、数量差異は企業努力でどうにかなるものと考えるとスッキリするようです。

 上の例だと高いヨーグルトを買わずにいつものヨーグルトを買っておけば食費をもっと抑えられたとなりますが、もしこれがヨーグルトの値上がりによるものだった場合いかんともしがたいです。にもかかわらず、数量差異に実際価格を使ってしまうと、正当な評価ができないというのは理解できます。

加工費差異

 遠くなったので復習すると、加工費差異には以下の三種類があります。

  • 能率差異
  • 操業度差異
  • 予算差異

加工費 = 変動加工費率 × 操業度 + 固定加工費

ですので、差異に貢献するのも右辺の三要素になります。

が、一番重要なのは操業度=作業時間のようです。

能率差異

 能率差異から見ていきます。能率差異という言葉から考えていくと、ある作業にかかった時間(操業度)が想定よりも多かったり少なかったりすることによって生じる差異と言えそうです。

能率差異 = (標準作業時間-実際作業時間)×標準加工費率

 まあなんか分かる気がします。

操業度差異

 しかしですね、どんなに能率が良くても固定費の金額は変わりませんね。それなのに能率差異ではあたかも固定費も増減したかのように見せています(標準加工費率には固定費が含まれています)。

 その点をカバーするのが操業度差異です。操業度差異は、操業度が想定よりも多かったり少なかったりするせいで(=固定費の有効活用度によって)生じる差異です。変動費とは逆に固定費は長く使えば使うほど時間あたりの単価が下がっていきます。

操業度差異 = 標準固定加工費率×(実際作業時間-標準作業時間)

 ここで改めて能率差異について考えると、

能率差異 = (標準作業時間-実際作業時間)×標準加工費率

能率差異 = (標準作業時間-実際作業時間)×(標準変動加工費率+標準固定加工費率)

能率差異 = (標準作業時間-実際作業時間)×標準変動加工費率+(標準作業時間-実際作業時間)×標準固定加工費率

となりますので、操業度差異は能率差異の固定費部分と表裏一体であることが分かります。

 たとえば、友達から借りたノートを弟に書き写させるとします。弟には時給500円で働いてもらい、友達からは作業に3日かかる想定で1000円でノートを借りたとします。ところが、弟が優秀だったため、作業は1日で終わってしまいました。そうすると、弟に払うお金は安く済んだけれども(能率差異)、ノートを借りるのに1000円も払うんじゃなかったー!という後悔が残ります(操業度差異)。という話ですね。

予算差異

 で、想定していた時間よりも時間がかかった(かからなかった)ことによる差異は以上で算出できました。

 それでもなお残る差異が予算差異です。つまり、「これだけ時間がかかったならこれだけ加工費がかかるはず」という想定との差異ですね。

予算差異 = 予算許容額 - 実際加工費

※予算許容額 = 標準変動加工費率 × 実際作業時間 + 予算固定加工費

まとめ

 こうやって一つ一つ書いていくと分かる気がするんですけど、実際に解いている時にまたこれを思い出せるか心配しかありません。

 書いていて少し思ったのが、改善が目的であると理解することが大事なのではないでしょうか。状況を改善するためには、改善可能な部分を、正しく評価しないといけません。

 改善可能な部分とは、原料費差異においては数量差異であり、加工費差異においては能率差異なのではないか。だからそれぞれに掛ける数字には実際ではなく標準を使用するし、能率差異においては固定費率まで含めて算出する。……と考えられればいける気がするー。あると思います。