たぬきのためふんば

ここにはめたたぬきが糞をしにきます。

『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読みました

 『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読みました。

 この本のメッセージは、「インデックス投資をしなさい」ということに尽きます。

  投資家であれば読むべき本だと思いますので、内容を一部紹介します。

バブルの歴史

 投資というのは、資産を増やすために行うものです。資産を増やす基本は「安く買って、高く売る」です。これを達成するには二つの方法があります。

  1. 本来の価値より安く売られているものを買う
  2. これから高く買われるであろうものを買う(本来の価値は気にしない)

 1の流派をファンダメンタル価値学派といい、2の流派をこの本では砂上の楼閣学派と呼びます。

 歴史上、株価がどのように形成されてきたかというのを学ぶため、歴史上のバブルについて書かれます(砂上の楼閣学派が大いに活躍します)。私は『バブルの歴史』という本を以前買ったのですが、読むのが苦痛で半分くらいしか読めませんでした。『ウォール街のランダム・ウォーカー』はコンパクトに分かりやすくまとまっていて勉強になります。たぶんほとんどの人は『ウォール街のランダム・ウォーカー』を読んでおけばいいと思います。 

 重要なことは、幾多のバブル崩壊にも関わらず、長い目で見れば株式市場は堅調に成長してきたということです。そして、今がバブルかどうかは、後になってみないと分からないということです。資産を増やしたいなら、投資をしないという選択肢はありません。1960年代半ばから1990年代半ばまでの株式の上昇の95%は約7500取引日のうちの90取引日によってもたらされたそうです。

テクニカル分析ファンダメンタル分析

 上に書いたとおり、株式投資には二つの流派があります。ファンダメンタル価値学派と砂上の楼閣学派ですね。

 現代において、砂上の楼閣学派の武器はテクニカル分析というものです。株価チャートを分析することで将来の株価を予測する手法です(実は損切りもテクニカルなのだそうです)。

 そんなことできるのかしらと思う方もいると思いますが、実際できないのです。実は、コイントスをして表が出たら1ポイントアップ、裏が出たら1ポイントダウン、というふうにチャートを作成しても株価チャートとよく似たものになります。そのチャートから大衆心理を読み解くことができるだろうか?いや、できない。というわけなのです。この本のタイトルにもなっているランダムウォークとは「ランダムなプロセスから得られた一連の数値のこと」を指す数学用語で、ここではコイントスによって作られたチャートのことを指しています。

 ファンダメンタル価値学派の武器は、ファンダメンタル分析です。ファンダメンタル分析とは、財務諸表などの企業の経営に関わる情報をもとに、株式の本質価値を測定して、市場価格との比較に基づいて売買を行う手法です。こちらはまともな手法に思えます。ウォール街の多数派もファンダメンタル価値学派に属しますし、ウォーレン・バフェットを始めとした偉大な投資家も同様です。

 しかし、この手法にも欠陥があります。一言で言えば、どう足掻こうが未来を正確に見通すのは無理だということです。実際、プロの投資家の98%は市場平均を超える成績を挙げることができないのです。

第三の手法

 優れた投資とは何か?というのは、次の二つの指標で考えることができます。

  • どれだけ儲けられるか = リターン
  • どれだけ確実に稼げるか = リスク

 リターンは高ければ高いほど良く、リスクは低ければ低いほど良いです。

 投資の最重要のルールは、「リスクが増すほどリターンが増える」ということです。 

 ここからの主題は「リターンをそのままでリスクを減らす方法はないか?」というものになります。

現代ポートフォリオ理論

 決定的に重要なのが、現代ポートフォリオ理論です。これはすごく簡単に言えば、「違う値動きをするものをいくつも持てば、リスクだけが減っていきます」というものです。

 たとえば、晴れた日にだけ100円株価が上がる会社Aと、雨が降った日にだけ100円株価が上がる会社Bがあるとします。どちらかの会社の株を二株持つのと、それぞれ一株ずつ持つの、どちらがよいか?

 どちらかだけ持つ場合、晴れの確率と雨の確率が半々だとすると、一年経過した時の上昇値の期待値は

(200*1/2+0*1/2)*365=36500円

ですが、実際の結果にはゆらぎ(=リスク)があります。

 一方で、両方の会社の株を持っていた場合、期待値はやはり36500円ですが、実際の結果にゆらぎ(=リスク)はありません。

 覚えておくべきことは以下の二つでしょう。

  • 50銘柄持てば、限度いっぱいリスクは下がる
  • 各銘柄が異なる動きをするほどリスクは下がる

CAPM

 リスクを下げる方法は分かったと。じゃあ、リターンを高める方法はないんかという当然の疑問が湧きます。それに答えを出したのがCAPMです。

 リスクには、システマティックリスクと非システマティックリスクがあります。システマティックとは市場自体のリスクです。たとえば、景気が良ければほとんどの株は値上がりしますし、景気が悪ければ値下がりします。

 非システマティックリスクとは、その会社固有のリスクです。たとえば、雨が降ると儲かる会社(傘屋など)が持つ天候リスクは非システマティックリスクです。

 肝心なのが、非システマティックリスクは、分散投資により消し去ることができます。消せるリスクはリターンに貢献しません。逆に、システマティックリスクは消すことができません。ゆえに、リターンはシステマティックリスクによって決まります。

 システマティックリスクは銘柄によって異なります。というのは、市場の値動きにどれだけ連動するかが銘柄によって異なるからです。この、市場にどれだけ連動するかを表すものを、ベータといいます。

 結論はこうです。

 ポートフォリオのベータを高めれば、リターンは高くなる!

 素晴らしい! 拍手を贈りたい!

 これでおいらも大金持ちだぜ!

 しかーし! 実証実験が行われた結果、CAPMは机上の空論であることが明らかになります。ベータとリターンは関係がなかったのです!

新しい手法の模索

 なぜベータは成り立たないのか? その説の一つに、「S&P500は市場を表さない」というものがあります。S&P500は株式市場の指標でしかないし、なんなら株式市場のほんの一部でしかないわけです。ならば、もっと正確にベータを測定すればどうだろうか?と考える人がいます。

 あるいは、システマティックリスクをベータだけで考えることに無理があると考えて、ベータ以外の尺度を考える人々もいます。

 また、従来の経済学の基礎に風穴を開ける重要な派閥も現れます。行動経済学派です。一般的に経済学は、人は合理的に行動するものだということを前提にしています。しかし、行動経済学派は人は不合理だということを前提にしたうえで、人の行動に法則性を見いだせないだろうかと考える人々です。彼らの理論によれば、バブルなどの現象も理解することができます。

 その成果を利用して、ベータの低いポートフォリオを組んでレバレッジをかければ高いリターンを低リスクで得られるのでは?と考える人々もいます。

 このような理論の発展はあるにせよ、今のところ、目覚ましい成果をあげた手法はあまりないし、あったとしても一般投資家がその恩恵にあずかるのは難しそうというのが現実なようです。

結局、どうすればいいの?

 結局のところ、分散投資さえしとけばベストではないにせよマーベラスな結果は出るということは間違いなさそうです。そして、一般庶民が分散投資をしようと思ったら、インデックス投資をするのが最善の方法なのです。

 メインの投資対象は以下の二つです。

  • 株式(高リスク高リターン)
  • 債券(低リスク低リターン)

 より分散させるために不動産投資(REIT)もおすすめで、その他では金は検討の余地ありです。

 資産のうち、株式の割合を高めればポートフォリオのリスクは高まりリターンも高まります。株式の割合を下げ、債券の割合を高めればポートフォリオのリスクは下がり、リターンも下がります。

 まずは、自分がどれだけリスクを取れるかを見極めることが大事です。年齢は大きなポイントです。高齢であればあるほど、リスクは低くすべきです。若者であっても、株の値下がりが怖くて安眠できないならやはりリスクは低くすべきです。あるいは、大きな出費の予定があるのにその資金を高リスクな投資に回すのも愚かなことです。

 そして、ポートフォリオのバランスを決めたら、定期的に一定の額を買いましょう。これをドルコスト平均法といいます。金融資産はいつ買うかが極めて重要ですが、ドルコスト平均法によれば、購入タイミングリスクを減らすことができます。

 コストには十分に気を配りましょう。手数料の低い商品を買うべきだし、合法的に課税されない方法があるならそれを利用すべきです。

 積み立てた資産はいつか取り崩す必要がありますが、4%ルールに従いましょう。毎年、資産の4%だけを取り崩して生活するのです。上手くいけば資産を減らさずに生きていくことができます。

感想

中級者向けの本

 以上の通り、この本のメッセージは「インデックス投資をしよう」です。しかし、これから投資をしようとしている初心者が読むには、難しい話がけっこう長く続きます。一方で、すでに投資をしている人であれば、インデックス投資が最強の投資法だなどというのはもはや常識でしょう。しかも、アメリカ人が読むことを前提としていて、日本人には参考にならない部分もあります。税制度は国によって違いますから。そういう意味では、あまり実践向きの本ではないかもしれません。

 では、どういう人が読むべきかと言えば、ある程度投資経験を経た人で、自分の投資スタイルに迷いが生じた時や、株式投資について改めて包括的に学ぼうという気になった時に読むべき本ではないかなと思います。そういう人にとっては最高の一冊ではないでしょうか。内容は網羅的であり、それなりに詳しく、されど分かりやすく書かれていますから。私はまさにそういう人でした。ETFで何を買うべきか考えるのに大いに参考になりました。

インデックス投資をしなくてもいいけど

 言うまでもなく、この本の勧めに従うか従わないかは自由です。インデックス投資にもデメリットはあります。

  • 面白くない
  • 市場平均を超える成果をあげることはできない

 これは私がファンダメンタル分析で投資をしてきた理由でもあります。その選択が間違っていたとも思いません。インデックス投資を徹底していた場合よりも大きな利益を出せたかは定かではありませんが、大きな学びを得ましたし、何よりそれは楽しかったですから。

 しかし、どのような手法で戦うにせよ、理論上最善の投資法と、それを支えるバックボーンを知っておくことは必要です。正しい道を知っていてあえて道を外れるのと、正しい道を知らずに誤った道を行くのでは意味が全く異なってくるでしょう。後者は正しい道を知っていたらそちらに行った可能性があるし、前者は簡単に軌道修正ができるのに後者は軌道修正ができません。

 私はこれからも個別株投資も続けていこうと思いますが、徐々にインデックスの割合を増やしていくつもりです。